●展示場所を決めて制作することで前に進む勇気を生み出す「表現力」
最後は、まだ見ぬビジョンを伝える表現力になります。
表現力は、展示をする場所を決めて自分自身の表現を制作することで、前に進んでいこう、またその後ビジョンをさらに自信を持って世の中に提起していこうという、そうした勇気が持てるようなステップになります。
ここでの課題は、人にはなかなか伝わらないというところで、今まで見たことのないものであればあるほど、人には分かりにくいのです。その課題に対して、少しでも(伝われるようにするには)どう表現すればいいかを考えながらビジョンを形にしていくことで、具体性を帯びてくるということになります。
例えば、新しい本を考えるときなどに、私がよくやるのは、装丁のビジュアルを先に作るということです。コンテンツは沢山あるので、最後どう編集していいかという焦点を絞るのはとても困るのですが、装丁を先に考えると、「ああ、こういうことのためにやっていければいいのだな」ということが見えてきて、どうやったら伝わるのかということが必然的により分かるようになってくるのです。そうした自分自身の表現方法を考えてみようという内容です。
●「よい企画は、企画のトップイメージが見える」
「よい企画は、企画のトップイメージが見える」とよく言われます。例えば、「ほぼ日」ですが、ほぼ日では企画を考える際にウェブサイトのトップのイメージが見えるもの、そして、それがワクワクするものがうまくいく企画だと言ったりします。
また、例えばアマゾンは、新規事業を立ち上げるときには必ずプレスリリースをプロトタイプしてみるということをやると言います。それも世の中にどう伝わっているかを考えるということで、それは逆に企画のキモ、面白いポイントが何なのかというところを具体的にしていくというやり方です。
他には、例えばコンシューマー向けの商品などでは、広告ポスターのようなものを描いてみることで、エッセンスを凝縮してみるという形も取れます。
スライドの写真は、私が留学中にポスターを作るというワークを行った際のものです。自分がどのようなことを考えているのかをポスターで表現してみようということで、まずは手書きでスケッチブックにその案をいろいろと書いてみます。スライドの左側のものですが、それが対比式とか、具体的なシーンの例とか、モデルとか、3パターンあり、そういう感じで書いたものをもう少し具体的に描いたのが右下の絵になります。それを最後、パソコンに落とす。こういう形で新しい表現に落とし込んでいくのですが、最初はスケッチブックに書いた絵(ラフというのですが)で表現していくというだけでも十分に表現というものになります。
このスライドは、あるエコ意識の高い消費者がどういうことを大事にして商品を選んでいるのかというインタビューを、一枚のポスターにしたものですが、最終的にこういうポスターに落とし込むことができるようになります。
●「プロトタイピング」と「プロボタイピング」
これは、いわゆる「プロトタイピング(Prototyping)」のプロセスとも非常に近いのですが、自分が考えていることは、最終的には世の中に出ていくもの、ビジョンであれば誰かに見せるもの、共感をしてもらうものなので、そのときに伝わる側がどのように見えていたらいいものなのか、というところから逆算をして形にしていくことで、議論して形にしていくよりもはるかに速いステップで物事が進みます。
このときに一つ特徴があります。自分の考えていることを、いったん自分の目の前にあるもの、例えば皆さんの場合でいえばとりあえずスケッチブックと紙だけでいいのですが、それに形にしてみる、ラフに書いてみる。これがプロトタイピングのやり方です。ただ、今回のシリーズでお伝えしているようなビジョンを表現する場合は、少し注意が必要です。
よくデザイン思考でプロトタイピングを行う場合、例えば新規事業で「MVP(Minimal Viable Product)」を作るときには、自分がやりたいサービスの機能に忠実に作る、できるだけ機能を再現する形で作っていき、エンドユーザーには速めにインプットをもらい、改善するエリアを特定するということを目的にして行います。
これに対して、ビジョンを作るときのプロトタイピングを「プロボタイピング(Provotyping)」と呼び...