●「一流であることを維持している」コシノジュンコのすごさ
――おもしろいですね。でも確かに、そういうふうに見ていくと、なんとなく分かるような感じがします。
執行 だから私はみんなに言っています。現世で成功したかしないか、現世で金持ちになったか苦労したか、それこそ学歴まで含めて、気にする必要はないのです。こんなのは先祖のことだから。また、自分では頑張ってもダメ。
―― なるほど。自分では頑張ってもダメ。
執行 現世の「金持ち」「貧しい」みたいなことは、あまり自分でできることではないと思います。私自身は食わない気でやっていますが、いつも豊かでした。だから運がいい。では、なぜ運がいいかというと、先祖や親。自分でも分からないけれど、植え込まれたものというか……。
私はとにかく人間が大嫌いなので、人に親切などする気はまったくありません。ところが慕われる人からは、けっこう慕われるし、けっこう好かれる。「親切」と言う人もいます。
―― それは先生、寄って来るでしょう。
執行 そうなんです。「親切」だと言う人もいますが、でも私は親切などする気もないし、他人のためには「舌も出さない」と思っているほどです(笑)。そのくらい思っているぐらいなのに、みんなが「親切」と言うから、何かあるなあと思う。もし、そうだとしたら、やはり親だと思うのです。
―― なるほど、それはすごく大事なポイントですよね。
執行 だから「育ち」という言葉になってしまいますが、そういうことだと思います。一番「努力が要らない」と言えば要らないのかもしれないけれども、悪い場合もあまり悩む必要ないと思う。悪くても関係ない、と。
―― それは戦後民主主義の中では、絶対教えられないポイントです。
執行 戦後民主主義は、これを言うと「ダメ」になります。でも本質だと思います。
―― それは、本当は真実でしょうね。
執行 真実です。あんまり育ちばかり言うのはもちろん悪いですが、しかし、少なくとも親が立派だったかどうかは、やはり効いていると思います。誰を見てもそうですから。一番新しいところではコシノさんの芸術。これを見てもコシノさんにすごい魅力を感じますが、お母さんもすごいですから。
コシノさんのお母さんの人生は、「人生そのものが芸術」ですから。それを感じる人がいたから、多分、私は知りませんでしたが、朝ドラ(NHK連続テレビ小説「カーネーション」)になったのだと思います。
―― 確かにそうですね。
執行 普通の人の人生なんてドラマになりません。コシノさんのお母さんの人生は、専門家が見てドラマ性があったと思うのです。
―― それはそうですよね。「人生そのものが芸術」って、すごいですね。
執行 コシノさんのお母さんは人生そのものが芸術でしたが、そのお母さんの芸術家肌というか、魂ごと物にぶつかっていくような芸術的魂。そういうものを子供は個々の専門職、ファッションデザイナーといった世界で受けて、出していった。
コシノさんは聞くところでは19歳で賞を獲って、それからずっと一流でやってこられた。お母さんからもらったものが、専門の中で出たと思います。
コシノさんと出会って一番不思議なのは、「一流であることを維持している」ことです。歴史を見ていても、これはすごく大変なことです。「一流になる」ことより。
―― ものすごく大変です。
執行 コシノさんは、冷静に考えたら19歳で賞を獲って、80歳を超える現在まで、ずっと日本のトップなんです。
―― すごいですよ、60年70年続けるのは。
執行 60年以上、日本のファッション界のトップにいるわけです。これは私はすごいことだと思う。
まず、傲慢な人間ではないということです。自分を「偉いものだ」などと思った人間は、トップでいられるわけがありません。実際に会ってもコシノさんは全然違う。親切です。そして、いつも仕事のことや他人のことばかりを考えている。
何かしゃべっているときでも、私などが何かを話すと、「あ、その考えって、こういうのになりそうだ」「ちょっと今、頭の中で構想ができた」などということを話しています。いつでも「世のため、人のため」なのです。
あのコシノさんの体質は、母親から来ていると思います。一流になったのはコシノさんの実力でしょうが、なってから維持しているのは「親の人徳」。落ちる人が多いですから。
―― ほとんどが落ちます。特に若くして有名になって、普通は10年持ちません。
執行 持たないでしょう。やはり維持するのは大変なことです。特に若い頃にある程度の地位に就いてしまって、調子に乗らないというのは、凄いことです。
●心が卑しい人は美しい人を描きたがる
執行 私は無理です。私などは、「若い頃にいい思いをしたら、絶対ダメだ...