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現世で成功できるかどうかは本人ではなく親や先祖で決まる

憂国の芸術(4)現世的成功をもたらす「徳」の根源

概要・テキスト
コシノジュンコ氏は戦後の焼け野原だった大阪から出てきた。日本が豊かになると、彼女のような強い個性の作家は出なくなった。強い個性は枯渇感がなければ出てこないのだ。ところで、コシノジュンコ氏はとても温かくて親切で、現世的にも成功者だが、洋画家・戸嶋靖昌(執行草舟コレクション所蔵作家)は現世的には無一文で死んだ。現世で成功できるかできないかを分けるのは、本人よりも親や先祖の違いであろう。コシノ氏はお母さんから「徳」を受け継いで成功した。執行草舟の母も徳のある人であった。(全9話中第4話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:11:56
収録日:2021/12/02
追加日:2022/02/04
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●コシノジュンコと戸嶋靖昌を分けるもの


―― でも先生、あの時代って不思議ですよね。大阪で焼け野原じゃないですか。あの時代にファッションを教えてくれるところはなかったから、みんな文化服装学院にやって来た。

執行 あと雑誌ですね。

―― そうした中から、いきなり出て行くのです。世界に。

執行 それから、材料が豊かになったら、ああいうすごい個性の作家は出なくなった。

―― そうですよね。

執行 ああいうすごい人たちが出た頃は、やはり日本人がみんな飢えていたからです。

―― なるほど、日本人も飢えていたんですね。

執行 飢えていなきゃダメです。枯渇感です。「ふらんすに行きたしと思へどもフランスはあまりに遠し」という萩原朔太郎の詩にも書かれています。あの頃の文学者はみんなフランスに憧れたけれど、誰一人行くことができない。その時代が一番、フランス文学者も詩人も偉大な人がいます。フランスに行けるようになってからは全然ダメです。今は飛行機で、10時間で行けますから。

 だから私が集めるのは、やはりフランスが憧れだった人たちが、フランスを描いた作品などです。それが「憂国の芸術」になるのです。

―― なるほど。

執行 コシノさんは、フランスなんて限っていません。宇宙なんです、コシノさんの芸術は。ファッションで有名なので皆さん誤解していますが、宇宙です。この作品もそうです。これには、混沌の中から人類が生まれ出てきたときの一つの苦悩であり、喜び、混沌の中から一つの光や生命が生み出されたとき、そのくらいの生命エネルギーを感じます。

 あと、向こうのニッチ(壁面をえぐって造られたくぼみ台)に掛かっているものもあります。それも、そうです。コシノ芸術を一言で言えば、宇宙の暗黒の苦悩の中から新しい生命が芽生えるときの喜びや苦悩。そうしたものが、いろいろな作品に散りばめられているのです。

―― なるほど、面白いですね。

執行 いや、凄いですよ。私も去年、コシノ芸術に出会えたことが嬉しかったです。彼女は過去の人ではないので、現実に会ってしゃべれます。このような芸術を生み出す人は、本当に憧れに生きて、本当に自分の魂を燃焼させ、他人とか国のために、持っている命の全部を注ぎ出していることが、しゃべっていて分かりますから。

―― なるほど。

執行 過去の人はたいてい、その書や絵を...
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