●コシノジュンコさんと、そのお母さんの「燃える魂」
執行 最近だと、ちょうど後ろに並んでいるコシノジュンコさんという有名なファッションデザイナーの作品です。これは「憂国の芸術」の中でも一番新しく、去年知り合った芸術作品です。コシノジュンコさんのファッションブランドの本店が入ったビルに行って、そこで展示されていたのを見て感動し、草舟コレクション「憂国の芸術」に入れさせていただいたのです。これからどんどん集めて、どんどん増やしていきます。
コシノジュンコさんもここに来られ、見ていただきました。私もコシノジュンコさんのビルに何度もお邪魔しました。彼女は当然まだ生きていらっしゃるので、お話しすることもできますが、やはり本当に素晴らしい人です。ただのデザイナーじゃない。「日本を背負う」というと大げさですが、日本人の本当に燃える魂を、生きている人間として今現在持っている方です。
―― 燃える魂を。
執行 すごい、燃える魂です。それが作品になっているのです。それがファッションにもなっていると思います。私は男なのでファッションはよく分かりませんが、絵画など芸術作品は分かります。だから芸術作品として、これを譲り受けさせていただきました。すでに何点もあるので、これからどんどん展示していこうと思っています。
コシノさんは、ご存命なのでお話ししますが、やはりこれだけの作品を描くだけあって、一言で言うと「自分というものがない人」です。
――「自分がない人」ですか。
執行 自分がまったくない。すごく自己主張は強いけれども、その主張は全部、「人間としての魂の主張」です。
―― 魂の主張なのですか。
執行 例えば、生命とはこうだとか、人間が生きるとはこうだとか、芸術とはこうだとか。そういうものがコシノさんの主張なのです。それは、自己主張と言えば自己主張ですが、わがままみたいな自己主張じゃない。本当の芸術家の自己主張です。
だから多分、(私はまだ、ファッションについてはわかりませんが)、コシノさんのファッションは、独特の、人間の生活に革命を起こすようなファッションだと思います。
―― 彼女は焼け野原から出てきた人ですよね。
執行 らしいですね。私はコシノさんと知り合って、すっかりコシノさんに惚れ込みました。いろいろな本なども読むと、お母さんが素晴らしい。肝っ玉母さんです。大阪で、子どもがたくさんいて、貧乏な日本の戦後の時代に子どもを何人もたくさん育てた。お母さん自身は芸術家ではありません。しかし、コシノさんのお母さんのことを本などで読むと、生活そのものが芸術です。
―― ああ、生活そのものが芸術ですか。
執行 私は、コシノさんのお母さんのような方は芸術家だと思います。生きることそのものが芸術になっているのです。
―― それはすごいですね。
執行 魅力的です。後で聞くと、テレビドラマにもなったそうです。題名は分かりませんが、朝ドラかな?
―― 朝ドラになっていましたね(NHK連続テレビ小説「カーネーション」)。
執行 だから朝ドラの主人公になるような人なのです。これは、コシノジュンコさんの『56の大丈夫』(世界文化社)という本に書いているから、ぜひ読んでもらいたい。コシノジュンコさんも素晴らしいけれども、お母さんもすごい。
●コシノジュンコさんの絵に描かれた「母の精神」
私は、ここにある作品は、お母さんの精神が出ていると思っています。この何とも負けん気の強い、反骨精神というのでしょうか。
これは一般には、ファッション画に見えますが、このシリーズがコシノさんにはいっぱいあって、私は勝手に「ミューズ・ブラッキー」、つまり「黒の女神」と名前を付けています。 これは、そのうちの一つです。
コシノさんのお母さんの魂、もちろんコシノジュンコさんの魂も、この目つきや、この首の曲がり方に感じます。ファッション画に見えますが、まったくファッション画ではない。
―― 確かに反骨精神の塊みたいです。
執行 これは芸術そのものであり、何よりも日本人の、日本的な歴史に根差した真の反骨精神が出ています。素晴らしいものです。私は感動しました。
―― 自分のお母さんの魂を描いた。
執行 私はそう思っています。 コシノさん自身は感じているか分かりませんが。お母さんが貧しい中で多くの子どもを育てた。
しかもコシノ姉妹は、みんな立派で有名なんです。あれだけ立派な人たちを何人も育て上げた女性だから、すごいことです。1人だってすごいのに、姉妹みんなすごいのですから。
●コシノジュンコさんの「宇宙的個性」
(神藏さんは)コシノさんに会われたことがあるそうですが、コシノさんは会ったらすぐに分かります。1回見たら忘れられないほどの個性があります。
―― ...