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愛のために一生苦悩するか、魂の苦悩を捨てて幸福になるか

憂国の芸術(9)人間は家畜に向かっている

情報・テキスト
カトリック信者だったミゲール・デ・ウナムーノは、「人間とは、愛のために一生苦悩して生きるか、それとも魂の苦悩を全部捨てて幸福になるか、どちらかしかない」と書いた。しかし、今を生きる人間の多くが、苦悩を捨てて、「幸福」だけを取って生きていないか。これは人間ではなく、家畜に向かっているのと同じである。有名な洋画家・林武の父は国学者で、明治以降、国語運動に命懸けで取り組み、貧しいまま一生を終えた。このような父がいたから、林武も立派な画家になった。このような魅力ある人は、少し前の日本にはザラにいた。今の世の「家畜」のような人間に魅力などあるはずがない。(全9話中第9話)
時間:10:49
収録日:2021/12/02
追加日:2022/03/11
≪全文≫

●ウナムーノの思想を失ったからヨーロッパは崩れつつある


執行 ミゲール・デ・ウナムーノなども同じです。ウナムーノはスペイン人でカトリック信者だから、愛のために命を懸けて生きました。彼の有名な言葉は『生の悲劇的感情』という哲学書に出てきます。

 ここはすごく重要だから、よく聞いてほしいのです。「人間とは、愛のために一生苦悩して生きるか、それとも魂の苦悩を全部捨てて幸福になるか、どちらかしかない」。これを『ベラスケスのキリスト』を書いたミゲール・デ・ウナムーノは、『生の悲劇的感情』という哲学書に書いたのです。

 このうち「幸福」だけを取って、幸福、幸福、健康、健康……、これが今の日本です。だから「魂の苦悩」を全部捨てた。つまり、ウナムーノに言わせれば、「人間じゃない」ということになるのです。

―― そうか、人間じゃない。

執行 魂の苦悩に生きるのが、昔の哲学者たちの言う「人間」です。だから悪いですが、これから日本人は全部、「家畜」に向かっているのです。

―― 家畜に向かっているんですね。

執行 これはしょうがない。ウナムーノが『生の悲劇的感情』を書いたのは1920年ぐらいです。今から100年前に哲学者は、みんなそう言っているのです。20世紀に入ってすぐ、近代や機械文明が始まった頃のヨーロッパでは、余暇や遊びやレジャーといったものばかりを言い出すようになりました。まだ日本は貧しかったけれど、ヨーロッパは豊かになっていた。その頃にもうウナムーノは警告を発していたのです。

―― そのときに見えていたわけですね。

執行 今、『生の悲劇的感情』というウナムーノの代表的な哲学書の話が出ましたが、ついでに言うと『西洋の自死』というダグラス・マレーが書いた本も素晴らしいです。「ヨーロッパが移民で潰れる」と。移民をもう断わることができない。ヨーロッパはヒューマニズム、人道主義によって潰れると書いてある本です。

 彼はジャーナリストなので、数字を挙げて全部書いてある、素晴らしい本です。読むと本当にヨーロッパがダメになるのが分かります。

 この原因としてダグラス・マレーがはっきり書いているのは、ヨーロッパ人が、ミゲール・デ・ウナムーノが書いた『生の悲劇的感情』の思想(つまりはキリスト教信仰)を失ったから、ヨーロッパはこうなったというです。はっきりと、その本に書かれています。

 私はそれ見たとき嬉しかったし、ビックリしました。『生の悲劇的感情』は二十歳のときから私の最大の愛読書でしたから。

―― ああ、そうですか。

執行 私は、ここにヨーロッパ精神が一番出ていると思います。ウナムーノはカトリシズムで一生苦しんだ人ですから。信仰です。それがヨーロッパの本体です。それを失ってヨーロッパ人みんなが、ウナムーノが言う「幸福になりたい」と思った。自分が幸福ならそれでいい、と。それで今のヨーロッパができた。

 幸福の前に、もっと人間として何が価値あるのか。人間として生きるには何が正しいのか。愛なのか。愛のため。信のため。義のため。そういうものがあれば、移民問題なんて起こるはずもないし、悪いと思ったらドンとやめられます。

 でも人道主義は、つまり「幸福が欲しい」「平和になりたい」ということです。平和で幸福で争いがなく、みんな豊かになって、みんな仲良く。「みんな仲良く」と「幸福主義」は一緒だから、それを取ってしまったということです。

―― 「幸せになりたい」ということですね。

執行 一言でいうとそういうことです。今の日本も、問題はそこです。

―― そのためには持っている大切な魂、大事にしているものを全部捨ててもいいと。

執行 それで魂の苦悩も捨てるところに来たということです。信仰というのは、みんなそういうものです。昔のヨーロッパの本も、全部それが書いてあります。

 だから今ヨーロッパの偉大な文学も、もう読む人はいません。アンドレ・ジイド、ロマン・ロラン、ドストエフスキー、トルストイ、誰も読みませんよ、もう。でも、あれに書いてあるのは全部それです。

 あの大作家がいた頃は、キリスト教信仰がまだ残っていました。私が好きなアンドレ・ジイドもそうです。青春文学で言うと、昔の青年がみんな読んだのは僕も感動した『狭き門』です。

 これに出てくるアリサという人の「人間というのは幸福になるために生まれてきたのではない」という一番有名な台詞があります。これを言ってアリサはジェロームという恋人、プラトニック・ラブだけれど恋する人との結婚を諦め、修道院に入って尼僧になるのです。そういう純愛の物語です。これに昔の人は一番感動したのです。

―― なるほど。

執行 アリサが最後の台詞でそう言ったのは、これが昔の偉大なヨーロッパを作っていたからです。自分の幸福のた...
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