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ウナムーノが霊的体験を記した『ベラスケスのキリスト』

憂国の芸術(7)ウナムーノの『ベラスケスのキリスト』

概要・テキスト
芸術作品にほれ込んで、素晴らしい体験をした一人にスペインの哲学者ミゲール・デ・ウナムーノがいる。彼はベラスケスの描いた「十字架上のキリスト」の絵が好きで、プラド美術館でいつもキリスト像と対面しているうちに、キリストと対話する体験をしたのである。その神秘体験を余すところなく描ききったのが、『ベラスケスのキリスト』という長篇詩である。この詩は、スペイン語で書かれているうえ霊的体験をもとにした詩なので日本では翻訳できる人がいなかった。この傑作を、いかに執行草舟が監訳し、『ベラスケスのキリスト』(法政大学出版局)として出版することになったのか。(全9話中第7話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:10:01
収録日:2021/12/02
追加日:2022/02/25
カテゴリー:
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≪全文≫

●哲学者ウナムーノの傑作長篇詩『ベラスケスのキリスト』


執行 ミゲール・デ・ウナムーノというスペインの哲学者が、私が一番尊敬している人の一人です。この人が大好きなのですが、この人が『ベラスケスのキリスト』というスペイン語のすごい詩を書いています。

 ベラスケスというスペインの有名な画家が、キリスト像を描いています。プラド美術館にあるのですが、哲学者のウナムーノはそのキリスト像が若い頃からずっと好きで、その像といつでも対面していました。そうしたらキリストが、出てきたそうです。この体験談、このときのキリストとの会話を詩にしたためたのが、『ベラスケスのキリスト』です。

 1冊の本になるほどの大長編詩ですが、内容が難しくて日本人は誰も訳せなかった。スペイン語学者も。霊的体験だから難しいのです。

―― そうでしょうね。霊的体験、かつ想像力がいるわけですね。

執行 そうです。ウナムーノは哲学者だけど、霊的体験なのでスペイン語の専門家も誰も訳せなかった。それを私は好きで、ただし、私はスペイン語ができないので、仕方なく英語で、ずっと読んでいました。日本語にはなっていないので。

 そうしたら、偶然、この「憂国の芸術」を収蔵する戸嶋靖昌記念館の学芸員として、東京外国語大学スペイン語学科を出た安倍三﨑が入ってきたのです。これは偶然なのですが、彼女のスペイン語は、とんでもないうまさ。「これはいい」とスペイン語の粗訳を、全部、安倍三﨑にやってもらった。スペイン語がうまければ、粗訳ならできますから。

 私はウナムーノの哲学自体にすごく詳しいので、ウナムーノがどうしてそういう解釈をしたかが全部分かっているわけです。だから英文の詩を参考にしながら、安倍の粗訳を監訳して、法政大学出版局から、今、出しています。『ベラスケスのキリスト』(法政大学出版局)です。

―― 『ベラスケスのキリスト』。それはすごいですね。

執行 すごいのです。日本で最初の業績です。この『ベラスケスのキリスト』のミゲール・デ・ウナムーノも、私と同じ、芸術作品に惚れ込んだ人間に起きた霊的体験を詩にしたのです。素晴らしい本です。安倍とのコンビで日本で最初に訳した。

―― それすごいですね。

執行 すごいんですよ。

―― 面白いなぁ。

執行 私は体験しているからできたのです。これだけはスペイン語をどんなに研...
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