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『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響

万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響

上野誠
國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授
概要・テキスト
4516首、全20巻からなる『万葉集』は日本最古の歌集として知られているが、具体的にどのような性質をもつ書物なのだろうか。詠まれた歌の内容を見ても日本文化のルーツがそこにあるのは確かだが、丁寧に見ていくと中国文明の影響を受けていることが分かる。第一話では、実際に『万葉集』の最初と最後に出てくる歌などを取り上げながら、いかに日本の心を詠んでいるのかを紹介しつつ、一方で、中国からの影響についても言及していく。(全5話中第1話)
時間:12:06
収録日:2022/09/13
追加日:2023/03/14
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≪全文≫

●天皇の問いかける歌で始まる『万葉集』


 ごきげんいかがでしょうか。上野誠です。今日は、『万葉集』の話をしようと思います。『万葉集』の歌の解釈をして、「ここはこうです」という話ではありません。『万葉集』という書物を、どのように受け止めていくかということです。

 『万葉集』は、4516首から成り立っています。全部で20巻あります。1巻から16巻までは1つの編纂をされたものですが、17、18、19、20の「末四巻」といわれる巻は大伴家持の「歌日記」を、編纂の上、そのまま合体させていると考えたらいいかと思います。

 したがって、『万葉集』の巻1、2の世界、巻3、4の世界……と広がっていきます。そして、それはだいたい7世紀の終わり頃から8世紀の中頃までの100年間の歌が集められています。いろいろなところにあった歌を、1つに集めた歌集です。そして、17、18、19、20の「末四巻」は、大伴家持の個人的な日記を編纂した形で歌集が形成されています。大伴家持が『万葉集』の編纂者の1人であると考えればいい、という歌集なのです。

 初めての方もいらっしゃいますので、『万葉集』を開けますと、最初に出てくるのは雄略(ゆうりゃく)天皇の歌です。大泊瀬幼武天皇(おおはつせわかたけるのすめらみこと)の御製歌(おほみうた)と出てきます。

 「籠(こ)もよ み籠(こ)持ち 掘串(ふくし)もよ み掘串(ぶくし)持ち この丘に 菜(な)摘(つ)ます児(こ) 家(いへ)聞かな 名(な)告(の)らさね そらみつ 大和(やまと)の国は おしなべて われこそ居(を)れ しきなべて われこそ座(いま)せ われこそば 告(の)らめ 家をも名をも」

 雄略天皇が出てきて、若菜摘みをしているお嬢さん方がいる。そのお嬢さん方を褒めます。「よいかごを持っていますね。よいへらを持っていますね。若菜を摘んでいらっしゃるのですね。私はあなたたちと結婚がしたいです。名前を教えてください。家を教えてください」と天皇は言います。それに対して、乙女たちは答えない。そこで天皇は、「では、自分から名乗りましょう」、自分の名前も、家のことも、という歌です。

 これは、「若菜摘み」という場があるわけです。これは新春の行事です。春になって若菜を摘む、若菜を煮て食べる、というところに天皇は出ていく(行幸なさる)わけです。そこで、「よいかご、よいへらを持って、この...
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