●ポーランド貴族の歩く踊り「ポロネーズ」
―― 続いては「ショパンとポロネーズ」というテーマでお話と演奏をいただければと思います。「ポロネーズ」というのもショパンの曲ではよく聞くフレーズですが、そもそもポロネーズとはどういう意味でしょうか。
江崎 はい、ポロネーズは「ポーランドの踊り」という意味があります。マズルカが、「農民の、地方の踊り」だとすると、ポロネーズというのは、どちらかというと「貴族の踊り」です。宮殿で踊られるような、ゆったりとした行進曲のような雰囲気で、歩く踊りというか、くるくる回る踊りではなく、歩く、歩む踊りという感じのものです。
―― これは「ポーランド風の」ということですから、当然「ほかの国の人から見て」という視点もあるのでしょうけれども、最初にご紹介いただきますのは、バッハの「フランス組曲第6番」のなかから「ポロネーズ」ということですが、これはバッハが「ポーランド風に」ということで書いたというということですね。
江崎 そうです。「フランス組曲」には、ジーグ、サラバンド、アルマンド、クーラントとか、いろいろな国の踊りが入っています。その「フランス組曲第6番」のなかに、この「ポロネーズ」というのがあって、ゆったりとして、エレガントで、ちょっと歩くような雰囲気の音楽であることが分かるのが、このポロネーズです。
―― はい。では、まず早速それを聴いてみたいと思います。
(♪:J・S・バッハ作曲 フランス組曲第6番ホ長調よりポロネーズ BWV817 )
―― これは当然バッハの曲なので、ショパンのポロネーズをイメージして聴くと、「あれ?」という感じにはなりますけれど。
江崎 「あれ?」という(笑)、そうですね。
●足運びの実践でわかるポロネーズの基本的リズム
江崎 このポロネーズという踊りは、ほとんど体を動かさないものです。それがどういうものか、ぜひご一緒に、ちょっと歩いていただけますか。
―― いきなりで(笑)。
江崎 いきなり(笑)。ポロネーズは、たとえば催し物の最初などに入場する場面とか、そういうところ。あるいはオープニングとか、そういう雰囲気、「始まり」という雰囲気にとても、ぴったりなのです。たとえばワルツであれば、女性と男性がすごく体をくっつけ、胸と胸をくっつけて一緒に回る踊りなのですが、ポロネーズでは男女が向き合うことはほとんどなくて、列になって踊るような踊りなのです。では、手を、ちょっとお願いしようかしら。
では、こちらに立っていただきまして。手をお借りしてもよろしいですか。男性の手に女性が手をのせて、「タンタタタンタンタンタン」となったら1拍目に、「ランパパパッパッパッパ、タンタタタ」というふうに、1拍目は少しこうして膝を曲げるわけです。だから、2拍目と3拍目は、もう1回やりましょうか。
―― 今のリズムは、ショパンのポロネーズを思い出しますね。
江崎 そうですね。
―― そうか、その足運びの曲なわけですね。
江崎 そうですね。この1拍目が「タンタタタッタッタッタ、タンタタタ」という感じですね。
―― なるほど。
江崎 それで、貴族の踊りなので、貴族はここから上(上半身)は動かさずに、ほとんどこういう感じで(笑)。
―― はい。
江崎 で、途中でお辞儀をするときだけ、一緒に向かい合わせになってお辞儀をするというような、ちょっと礼儀正し過ぎる(笑)、ちょっと距離を置いて踊る踊りと言ったらいいでしょうかね。
―― なんとなく、お上品なフォークダンスみたいなイメージですね。
江崎 そう、そうですね。二人で踊るのではなく、ずらっと並んで、たまにはXのような形で交差をしたりして、そのラインが美しいラインになるように、というものですね。
―― 今の足のリズムを基本にしていると、曲の基本的なリズムというのが見えてくるのですね。
江崎 そうですね、見えてくるわけです。
●祖国の栄光を誇り高きポロネーズに込めたショパン
江崎 そして、この礼儀正しくて、なにか誇り高いポロネーズというものが、ショパンになると、その誇り高さが、だんだんとポーランドの栄光や、国としての、やや強い言い方をすると「意地」と言ったらいいのでしょうか、守り抜きたいものというふうに変わっていくような気がします。
また、そこには理不尽なものに対する戦いの精神も加わって、どんどん力強くなっていく。ロマン派のポロネーズは非常に力強く、揺るぎないリズムなので、その揺るぎなさが力強さに変わっていくというものがあります。
―― 先ほど第1話でも言ったように、ポーランドの歴史自体が反乱とか、分割されることに対する対抗といったことがありますが、やはりそういう精神が出てくる。
江崎 そうですね、出てくるというこ...