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小林秀雄と吉本隆明の営為とプラグマティズムの格率

小林秀雄と吉本隆明―「断絶」を乗り越える(1)「断絶」を乗り越えるという主題

浜崎洋介
文芸批評家/ 京都大学経営管理大学院特定准教授
概要・テキスト
日本の文芸批評に大きな足跡を残した人物といえば、戦前の小林秀雄と戦後の吉本隆明の2人が挙げられる。そして、日本が近代の激動の時代を乗り越えていく中で、文学はその狭間を生きる人々にとって心の支柱となった。今回から7回にわたる「小林秀雄と吉本隆明」についての講義では、その時代の日本人の心や思想に文学がどのように影響していったのか、そして今の日本の繁栄を築くことができた原点を、この2人の批評家から読み解いていく。(全7話中第1話)
時間:12:07
収録日:2023/04/07
追加日:2023/08/15
≪全文≫

●近代日本の社会を文学者がつくってきた


 こんにちは。文芸批評家の浜崎洋介です。今回、テンミニッツTVで小林秀雄と吉本隆明についての話をしながら、文学が社会にもたらす役割や、あるいは文学がなぜ今までわれわれにとって重要な位置づけをされてきたのかということを、皆さんと一緒に考えたいと思ってやってきました。

 ということで、まず最初に、それぞれ10分の構成なので、本当に手短にお話をする必要があると思っています。小林秀雄と吉本隆明(たかあき)、あるいは吉本隆明(りゅうめい)と言う人もいますが、彼らはどういう人だったのか、それを最初に見ておきたいと思います。

 結論からいうと、実は、右といわれている小林秀雄と、左といわれている吉本隆明ではあるのですが、ともにある種の「断絶」を乗り越えるという主題を持っていただろうと思っています。

 ただ、いきなり断絶を乗り越えると言っても、何が何だかよく分からないと思いますので、まず近代日本で文学者が持っていた役割というか、担っていた課題、それを少しだけご紹介したいと思っています。

 例えば、名前としてたぶんご存じだと思うのですが、夏目漱石、森鷗外は、誰もが聞いたことがある。あるいは小林秀雄、これもだいたい聞いたことがあります。福田恆存(つねあり)くらいにいくとちょっと微妙なところになってきます。あるいは吉本隆明、これも「戦後最大の思想家」などといわれることがあります。

 さらに三島由紀夫とか大江健三郎になれば、ノーベル文学賞を受賞するかしないかという話でしたが、大江健三郎に至っては、実際にノーベル文学賞を受賞しています。批評家でいうと蓮實重彦(はすみしげひこ)ですが、のちに東大の学長になる人です。あるいは柄谷行人(からたにこうじん)、この人も最近でいうところの一番代表的な批評家だと思います。

 このような人たちが社会をつくってきたのです。なぜ、社会科学者でもない、政治家でもない、文学者が、社会をつくるのかというところが見えないところだと思いますので、そのあたりを少し見ていきたいと思います。

 つまり、これも結論からいってしまえば、彼らは西洋ヨーロッパから輸入した近代思想というものをまず身に引き受けながら、しかし、それを単に言葉として器用にブロックのように並べるだけではなく...
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