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DATE/ 2017.03.23

やってはいけないプール後の「あの習慣」

昔の「常識」は、今の「非常識」

 子どもの頃に教わった「常識」が、今では全く違うように教えられていることは、よくあります。一昔前まで、鎌倉幕府が始まったのは1192年とされていましたが、今では1185年が定説です。また最近では、江戸時代に「鎖国」していたとするのは、妥当ではないという議論もあるようです。

 子どもたちの目をめぐる状況も、同じです。筑波大学眼科教授・大鹿哲郎氏は、以前ならば当たり前のように行われていたことが、実は医学的には問題があるものだったことを教えてくれます。

プール後の洗眼は今や非常識!?

 その代表例が、プール後の洗眼です。夏、プールで泳ぎ終わったら、今ではあまり見かけなくなりましたが、ちょっと変わった蛇口を縦にひねって目を洗うよう言われてきました。ところが、プール後のそうした洗眼は、実は目にあまり良くないそうです。

 かつてプール後の洗眼が行われたのは、目の感染症を予防するためでした。しかし、大鹿氏によると、プール後の洗眼によって、かえって目に必要な成分を洗い流してしまうということが明らかになったそうです。つまり、感染予防のメリットよりも、プール後の洗眼によって涙を洗い流してしまうデメリットのほうが大きいということです。

 涙は、単に「目から出る水」ではありません。水だけでなく油を含んだ三層構造になっており、目を覆って保護したり殺菌したりする役割があります。プール後の洗眼でそれを流してしまうと、目が丸裸の状態になるため、かえって傷つきやすくなってしまうのです。

 大鹿氏は、プールで泳ぐときに必要なのは、プール後の洗眼ではなくゴーグルをつけることだと言います。どうしても洗いたければ、薬局などで売られている人工涙液を使うことも一つの手だそうです。いずれにしても、プール後の洗眼というかつての「常識」は、今や「非常識」になっていました。

あの白線は、実は危険物質だった?

 学校教育の現場で、かつて「常識」で今や「非常識」となったものは、ほかにもあります。たとえば、学校の校庭に引く白線です。あれは、消石灰、すなわち水酸化カルシウムです。

 この水酸化カルシウムは、水に溶けると強アルカリ性になります。アルカリ性の物質は、タンパク質を溶かします。そのため、あの白線の粉が目に入って溶けると、目を傷つけたり、最悪の場合、失明したりする可能性すらあるのです。

 現在では、文部科学省の指導によって消石灰は使用しないことになっており、代わりに炭酸カルシウムが使われているとのことです。とはいえ、これも水酸化カルシウムほどではないにせよ、水に溶けるとアルカリ性になるので、扱いには注意が必要です。

大人でも油断大敵!保護用ゴーグルのススメ

 また大鹿氏は、常識か非常識かとは関係なく、普段の学校生活で目にけがをするリスクにもっと敏感になるべきだと、注意喚起しています。たとえば、球技をする場合でも、ボールが目に当たれば、傷ついたり破裂したりすることも考えられます。特に野球やテニスのボール、バドミントンのシャトルなどが眼球に直撃すれば、目へのダメージはとても大きいでしょう。

 そして、日常生活で目をけがする危険性は、子どもだけに限りません。大人でも、ゴルフのボールが飛んできたり、日曜大工で木や石の破片が目に入ってしまったりする可能性はあります。そこで、大鹿氏が提唱するのは、プールの場合と同じく、目を保護するゴーグルの着用です。どんなときも油断大敵、目をいたわるためにできることをしましょう。

 ということで、時代が変われば、「常識」も変わるものです。思い込みに頼ることなく、自分の目で確かめて行動することが大切ということですね。
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授