社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
なぜ子どもを虐待する親が後を絶たないのか?
テレビを見ていると、時おり「子どもの虐待」のニュースが流れてきます。いくら時代が流れても、こうした幼児虐待や児童虐待がなくなる様子はありません。倫理的に悪いことは誰もがわかっているはずなのに、なぜ子どもを虐待する親が後を絶たないのでしょうか。
この問題に対して、「倫理を金科玉条にして、虐待をする母親に“人権の意識がない”とか“母親のくせに”と言っていても、問題は解決しません」と語るのは、総合研究大学院大学長の長谷川眞理子氏です。長谷川氏は自身の専門である進化生物学の観点から、その理由を独自に説明しています。
長谷川氏によれば、古今東西の記録や資料を探ってみると、ヒトは昔からかなり子殺しをしていることが分かるそうで、しかも母親自身による子殺し、嬰児殺が多いのです。現代社会では殺人は全て罪になります。嬰児殺も決して例外ではありません。しかし、近代以前の伝統的な社会では、特に母親による嬰児殺は、一般の殺人と区別され、容認されてきたのです。
伝統社会での嬰児殺は、次のようなときに行われました。1つ目は、資源が十分でないときです。狩りの獲物が少なかったり、農作物が不作だったりして、食糧難に陥ったときに子殺しが実行されました。2つ目に、奇形があったり、明らかに子どもの体が弱いときです。3つ目に、父親が不明な子、不倫の子、部族の違う男との間にできた子、離婚した前の夫の子など、共同体が喜んで皆で一緒に子育てしていこうという気にならない出自の子どもたちのケースです。
実をいえば、現代の子どもの虐待も、基本的には近代以前と同じ理由で起こっています。金や職がない、子どもに障害や疾患がある、片親や継父・継母であるという理由で、虐待やネグレクトが行われるケースが多いのです。
長谷川氏が警察庁のデータを調べたところ、特に0歳児の赤ちゃんの虐待死リスクが高いことがわかっています。これは子育てが一番大変なときです。また、全体のほんの1~数パーセントであろうシングルマザー・シングルファーザー、あるいは新しいパートナーがいる家庭は、虐待の確率がかなり高いことも判明しました。つまり、近代以前なら共同体に認められないような子どもは、現代ではすぐに殺されないまでも、虐待されるケースが多いということです。昔も今も、実の父母がそろわない家庭の虐待リスクは非常に高いのです。
とはいえ、もちろん新しいパートナーが絶対に駄目というわけではありません。ヒトは皆、共同繁殖の種であるがゆえ、潜在的に他のこどもをかわいいと思う素地があり、面倒を見てあげたいと思うものです。現に、ほとんどの義理関係はうまくいっています。しかし、他の物理的な条件などが整わず、義理関係で新しいパートナーが若く次の繁殖のチャンスがあるといったことが重なると、虐待リスクは大きく上昇するということです。
先述したように、ヒトは資源と周囲のサポート、そして文化的なセーフティネットがある状況でなければ、なかなか子育てできない生き物なのです。このことを前提にしないと、子どもの虐待はいつまでたっても解決しません。つまり、子どもの虐待は虐待する本人たちというより、社会システム全体の問題なのです。
この問題に対して、「倫理を金科玉条にして、虐待をする母親に“人権の意識がない”とか“母親のくせに”と言っていても、問題は解決しません」と語るのは、総合研究大学院大学長の長谷川眞理子氏です。長谷川氏は自身の専門である進化生物学の観点から、その理由を独自に説明しています。
ヒトは昔からかなり子殺しをしている
母親による子殺しや嬰児殺は、人間以外の生物にはあまり見られない行為です。「なぜなら、わが子を殺してしまうことは、自分の遺伝子の継承者を消してしまうことだからです」と、長谷川氏は語ります。しかし、人間だけは別なのです。長谷川氏によれば、古今東西の記録や資料を探ってみると、ヒトは昔からかなり子殺しをしていることが分かるそうで、しかも母親自身による子殺し、嬰児殺が多いのです。現代社会では殺人は全て罪になります。嬰児殺も決して例外ではありません。しかし、近代以前の伝統的な社会では、特に母親による嬰児殺は、一般の殺人と区別され、容認されてきたのです。
伝統社会での嬰児殺は、次のようなときに行われました。1つ目は、資源が十分でないときです。狩りの獲物が少なかったり、農作物が不作だったりして、食糧難に陥ったときに子殺しが実行されました。2つ目に、奇形があったり、明らかに子どもの体が弱いときです。3つ目に、父親が不明な子、不倫の子、部族の違う男との間にできた子、離婚した前の夫の子など、共同体が喜んで皆で一緒に子育てしていこうという気にならない出自の子どもたちのケースです。
昔も今も、実の父母がそろわない家庭の虐待リスクは非常に高い
そうした嬰児殺が行われた根本的な理由について、長谷川氏は「人間が共同繁殖の動物だからだ」として、こう続けて語っています。「人間は非常に特殊な動物で、一人で生きていくことはできませんし、母親だけ、もしくは父母だけで子どもを育てていくこともできません」。つまり、共同体が父母の結婚を正統なものだと認め、その二人の子をしっかりと受け入れない限り、伝統社会では子育てが事実上不可能だったのです。実をいえば、現代の子どもの虐待も、基本的には近代以前と同じ理由で起こっています。金や職がない、子どもに障害や疾患がある、片親や継父・継母であるという理由で、虐待やネグレクトが行われるケースが多いのです。
長谷川氏が警察庁のデータを調べたところ、特に0歳児の赤ちゃんの虐待死リスクが高いことがわかっています。これは子育てが一番大変なときです。また、全体のほんの1~数パーセントであろうシングルマザー・シングルファーザー、あるいは新しいパートナーがいる家庭は、虐待の確率がかなり高いことも判明しました。つまり、近代以前なら共同体に認められないような子どもは、現代ではすぐに殺されないまでも、虐待されるケースが多いということです。昔も今も、実の父母がそろわない家庭の虐待リスクは非常に高いのです。
とはいえ、もちろん新しいパートナーが絶対に駄目というわけではありません。ヒトは皆、共同繁殖の種であるがゆえ、潜在的に他のこどもをかわいいと思う素地があり、面倒を見てあげたいと思うものです。現に、ほとんどの義理関係はうまくいっています。しかし、他の物理的な条件などが整わず、義理関係で新しいパートナーが若く次の繁殖のチャンスがあるといったことが重なると、虐待リスクは大きく上昇するということです。
子どもの虐待は社会システム全体の問題だ
では、子どもの虐待を減らすにはどうしたらよいのでしょうか。長谷川氏は、まずは社会的な認識を変えることが大切だと語っています。先述したように、ヒトは資源と周囲のサポート、そして文化的なセーフティネットがある状況でなければ、なかなか子育てできない生き物なのです。このことを前提にしないと、子どもの虐待はいつまでたっても解決しません。つまり、子どもの虐待は虐待する本人たちというより、社会システム全体の問題なのです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた
55年体制と2012年体制(1)質的な違いと野党がなすべきこと
戦後の日本の自民党一党支配体制は、現在の安倍政権における自民党一党支配と比べて、何がどのように違うのか。「55年体制」と「2012年体制」の違いと、民主党をはじめ現在の野党がなすべきことについて、ジェラルド・カ...
収録日:2014/11/18
追加日:2014/12/09
5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか
5Gとローカル5G(1)5G推進の背景
第5世代移動通信システムである5Gが、日本でもいよいよ導入される。世界中で5Gが導入されている背景には、2020年代に訪れるというデータ容量の爆発的な増大に伴う、移動通信システムの刷新がある。5Gにより、高精細動画のような...
収録日:2019/11/20
追加日:2019/12/01
マスコミは本来、与野党機能を果たすべき
マスコミと政治の距離~マスコミの使命と課題を考える
政治学者・曽根泰教氏が、マスコミと政治の距離を中心に、マスコミの使命と課題について論じる。日本の新聞は各社それぞれの立場をとっており、その報道の基本姿勢は「客観報道」である。公的異議申し立てを前提とする中立的報...
収録日:2015/05/25
追加日:2015/06/29
BREXITのEU首脳会議での膠着
BREXITの経緯と課題(6)EU首脳会議における膠着
2018年10月に行われたEU首脳会議について解説する。北アイルランドの国境問題をめぐって、解決案をイギリスが見つけられなければ、北アイルランドのみ関税同盟に残す案が浮上するも、メイ首相や強硬離脱派はこれに反発している...
収録日:2018/12/04
追加日:2019/03/16
健康経営とは何か?取り組み方とメリット
健康経営とは何か~その取り組みと期待される役割~
近年、企業における健康経営®の重要性が高まっている。少子高齢化による労働人口の減少が見込まれる中、労働力の確保と、生産性の向上は企業にとって最重要事項である。政府主導で進められている健康経営とは何か。それが提唱さ...
収録日:2021/07/29
追加日:2021/09/21