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少子化の原因は「時間割引」と避妊技術の進化にあった
今や「少子化」という言葉を知らない日本人は少ないでしょう。日本でそれほど大きな問題となっている少子化ですが、実は世界的な問題でもあります。それほど知られていないことかもしれませんが、先進国の多くでは、日本と同じように子どもの数が減っているのです。韓国をはじめとして、日本以上に急ピッチで少子化が進んでいる国もあるくらいです。しかし、その根本的な原因はいまだにはっきりとしていません。
少子化の本当の原因についてはさまざまな仮説が挙げられていますが、進化生物学の専門家である総合研究大学院大学学長で先導科学研究科教授の長谷川眞理子氏は、意外な仮説を立てています。少子化の根本的な原因の一つに「避妊技術の進化」があるのではないかというのです。なぜでしょうか。
長谷川氏は、こうして避妊できるようになったために、私たちに新たな判断が求められるようになったと指摘しています。その判断とは、「子どもがいたらどうだろう」という空想上の判断です。例えば、いま子どものいない夫婦に近い将来、自分たちが子どもをつくるかつくらないかという決断に迫られたとします。それはあくまでも空想上の話ですが、そうしたとき、私たちははたして優れた決断ができるのでしょうか。長谷川氏によると、人間にはおそらくそのような判断を上手に行う脳の機能はなく、備わっているのは「時間割引」という性質だということです。
時間割引とは、現在の楽しみ・喜び・報酬を高く評価し、将来の不確定な楽しみ・喜び・報酬を低く見積もることです。例えば、今もらう1万円と1カ月後にもらう1万円のどちらが良いかを選ぶとき、私たちは1カ月後のほうをどうしても割り引いて考えてしまうということです。
これを子育てに当てはめてみると、今の仕事や生活の楽しさに比べて、将来子どもを持つ楽しさは割り引かれてしまう、つまり将来楽しいかもしれない子どものいる生活は後回しになってしまうということです。そうなると、出産計画はどんどんと延長されることになるのです。
子どもは本来「できてしまうもの」で、できてしまった後で自然と愛情や愛着のスイッチが入るようにできているものだから、避妊ができるようになった世の中では、どうしても子どもの数が少なくなる。これが長谷川氏の仮説です。
「女性の地位や学歴が向上し、社会進出が進み、女性が自分自身の価値を追求していいという世の中になればなるほど、現在の楽しみが大きくなり、将来の、特に子育ての楽しさは割り引かれていくのです。(中略)私は、このことが社会経済の発展によって少子化が起こる基本的な理由だろうと思います」
今、日本では政府が旗振り役となり、いろいろな企業で「女性活躍推進」が進められています。そうなると今後、女性の社会進出はより一層進んでいくでしょうから、少子化はますます深刻な問題になっていくことが予想されます。そうしたなか、少子化に歯止めをかかるためには、何か思いきった工夫や新たな動きが必ず必要になってきます。その意味でも、長谷川氏の話は非常に重要な投げ掛けであったといえるのではないでしょうか。
少子化の本当の原因についてはさまざまな仮説が挙げられていますが、進化生物学の専門家である総合研究大学院大学学長で先導科学研究科教授の長谷川眞理子氏は、意外な仮説を立てています。少子化の根本的な原因の一つに「避妊技術の進化」があるのではないかというのです。なぜでしょうか。
現代では出産計画は必ずや延長される
世界的に、避妊の考え方や避妊具が普及してきたのは、第二次世界大戦後のことです。それ以前は世界的にも確実な避妊の方法がなく、避妊するという考え方もそれほど一般的ではありませんでした。自分たちの意志でかなり確実に避妊できるようになったのは、この数十年のことにすぎません。長谷川氏は、こうして避妊できるようになったために、私たちに新たな判断が求められるようになったと指摘しています。その判断とは、「子どもがいたらどうだろう」という空想上の判断です。例えば、いま子どものいない夫婦に近い将来、自分たちが子どもをつくるかつくらないかという決断に迫られたとします。それはあくまでも空想上の話ですが、そうしたとき、私たちははたして優れた決断ができるのでしょうか。長谷川氏によると、人間にはおそらくそのような判断を上手に行う脳の機能はなく、備わっているのは「時間割引」という性質だということです。
時間割引とは、現在の楽しみ・喜び・報酬を高く評価し、将来の不確定な楽しみ・喜び・報酬を低く見積もることです。例えば、今もらう1万円と1カ月後にもらう1万円のどちらが良いかを選ぶとき、私たちは1カ月後のほうをどうしても割り引いて考えてしまうということです。
これを子育てに当てはめてみると、今の仕事や生活の楽しさに比べて、将来子どもを持つ楽しさは割り引かれてしまう、つまり将来楽しいかもしれない子どものいる生活は後回しになってしまうということです。そうなると、出産計画はどんどんと延長されることになるのです。
子どもは本来「できてしまうもの」で、できてしまった後で自然と愛情や愛着のスイッチが入るようにできているものだから、避妊ができるようになった世の中では、どうしても子どもの数が少なくなる。これが長谷川氏の仮説です。
女性が社会に進出するほど時間割引が起こる
長谷川氏がこの仮説を唱える背景には、「女性の社会進出」があります。長谷川氏はこう語っています。「女性の地位や学歴が向上し、社会進出が進み、女性が自分自身の価値を追求していいという世の中になればなるほど、現在の楽しみが大きくなり、将来の、特に子育ての楽しさは割り引かれていくのです。(中略)私は、このことが社会経済の発展によって少子化が起こる基本的な理由だろうと思います」
今、日本では政府が旗振り役となり、いろいろな企業で「女性活躍推進」が進められています。そうなると今後、女性の社会進出はより一層進んでいくでしょうから、少子化はますます深刻な問題になっていくことが予想されます。そうしたなか、少子化に歯止めをかかるためには、何か思いきった工夫や新たな動きが必ず必要になってきます。その意味でも、長谷川氏の話は非常に重要な投げ掛けであったといえるのではないでしょうか。
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