テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.04.28

少子化の原因は「時間割引」と避妊技術の進化にあった

 今や「少子化」という言葉を知らない日本人は少ないでしょう。日本でそれほど大きな問題となっている少子化ですが、実は世界的な問題でもあります。それほど知られていないことかもしれませんが、先進国の多くでは、日本と同じように子どもの数が減っているのです。韓国をはじめとして、日本以上に急ピッチで少子化が進んでいる国もあるくらいです。しかし、その根本的な原因はいまだにはっきりとしていません。

 少子化の本当の原因についてはさまざまな仮説が挙げられていますが、進化生物学の専門家である総合研究大学院大学学長で先導科学研究科教授の長谷川眞理子氏は、意外な仮説を立てています。少子化の根本的な原因の一つに「避妊技術の進化」があるのではないかというのです。なぜでしょうか。

現代では出産計画は必ずや延長される

 世界的に、避妊の考え方や避妊具が普及してきたのは、第二次世界大戦後のことです。それ以前は世界的にも確実な避妊の方法がなく、避妊するという考え方もそれほど一般的ではありませんでした。自分たちの意志でかなり確実に避妊できるようになったのは、この数十年のことにすぎません。

 長谷川氏は、こうして避妊できるようになったために、私たちに新たな判断が求められるようになったと指摘しています。その判断とは、「子どもがいたらどうだろう」という空想上の判断です。例えば、いま子どものいない夫婦に近い将来、自分たちが子どもをつくるかつくらないかという決断に迫られたとします。それはあくまでも空想上の話ですが、そうしたとき、私たちははたして優れた決断ができるのでしょうか。長谷川氏によると、人間にはおそらくそのような判断を上手に行う脳の機能はなく、備わっているのは「時間割引」という性質だということです。

 時間割引とは、現在の楽しみ・喜び・報酬を高く評価し、将来の不確定な楽しみ・喜び・報酬を低く見積もることです。例えば、今もらう1万円と1カ月後にもらう1万円のどちらが良いかを選ぶとき、私たちは1カ月後のほうをどうしても割り引いて考えてしまうということです。

 これを子育てに当てはめてみると、今の仕事や生活の楽しさに比べて、将来子どもを持つ楽しさは割り引かれてしまう、つまり将来楽しいかもしれない子どものいる生活は後回しになってしまうということです。そうなると、出産計画はどんどんと延長されることになるのです。

 子どもは本来「できてしまうもの」で、できてしまった後で自然と愛情や愛着のスイッチが入るようにできているものだから、避妊ができるようになった世の中では、どうしても子どもの数が少なくなる。これが長谷川氏の仮説です。

女性が社会に進出するほど時間割引が起こる

 長谷川氏がこの仮説を唱える背景には、「女性の社会進出」があります。長谷川氏はこう語っています。

 「女性の地位や学歴が向上し、社会進出が進み、女性が自分自身の価値を追求していいという世の中になればなるほど、現在の楽しみが大きくなり、将来の、特に子育ての楽しさは割り引かれていくのです。(中略)私は、このことが社会経済の発展によって少子化が起こる基本的な理由だろうと思います」

 今、日本では政府が旗振り役となり、いろいろな企業で「女性活躍推進」が進められています。そうなると今後、女性の社会進出はより一層進んでいくでしょうから、少子化はますます深刻な問題になっていくことが予想されます。そうしたなか、少子化に歯止めをかかるためには、何か思いきった工夫や新たな動きが必ず必要になってきます。その意味でも、長谷川氏の話は非常に重要な投げ掛けであったといえるのではないでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

『法華経』と「神道」はアバター!?通底する世界観とは

『法華経』と「神道」はアバター!?通底する世界観とは

おもしろき『法華経』の世界(2)『法華経』と「神道」の共通性

聖徳太子、最澄、空海、日蓮、宮沢賢治など多くの人に多大な影響を与えてきた『法華経』は長い年月にわたり日本宗教史を貫いてきた存在である。『法華経』は、苦悩を前提としつつ、むしろそうであるがゆえに明るい未来や救済の...
収録日:2025/01/27
追加日:2025/05/11
鎌田東二
京都大学名誉教授
2

ブレーキなき極右ポピュリズム…文化戦争を重視し経済軽視

ブレーキなき極右ポピュリズム…文化戦争を重視し経済軽視

第2次トランプ政権の危険性と本質(1)実は「経済重視」ではない?

「第二次トランプ政権は、第一次政権とは全く別の政権である」――そう見たほうが良いのだと、柿埜氏は語る。ついつい「第1次は経済重視の政権だった」と考えてしまいがちだが、実は第2次政権では「経済」の優先順位は低いのだと...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/10
柿埜真吾
経済学者
3

健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと

健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと

健診結果から考える健康管理・新5カ条(1)血管をより長く守ることが重要な時代

健康診断の結果を現在の「病気の有無」だけに注目するのは、健康管理において不十分である。大事なことは、糖尿病、認知症、脳卒中、心筋梗塞など重篤な病気につながる共通点に着目していくこと。キーワードは「血管」である。...
収録日:2025/01/10
追加日:2025/04/15
野口緑
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 特任准教授
4

現代日本人の中に縄文遺伝子!? 弥生人の核ゲノムで判明

現代日本人の中に縄文遺伝子!? 弥生人の核ゲノムで判明

弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(8)弥生人の核ゲノム

渡来系弥生人のルーツを分析していくと、朝鮮半島ですでに混血していた人が渡ってきた可能性が高い。ただ、不思議なことにその痕跡が九州や近畿を飛ばして名古屋近郊の朝日遺跡で検出されている。その他にも、日本列島に渡って...
収録日:2024/07/29
追加日:2025/05/07
藤尾慎一郎
国立歴史民俗博物館 名誉教授
5

全体主義の暴力とは集団のアイデンティティで人を扱うこと

全体主義の暴力とは集団のアイデンティティで人を扱うこと

デモクラシーの基盤とは何か(1)全体主義の暴力

ハンナ・アーレントが批判した全体主義の本質とは何か。その答えは、アーレントが「ユダヤの娘として」考えるよう批判された際の応答に詰まっている。全体主義の暴力の本質とは、「集団的アイデンティティによって人を扱う」こ...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/05/09