テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.03.14

なぜ人は「スタバ」に惹かれるのか

 日本でもおなじみ、アメリカのシアトル発コーヒー店、スターバックス。1996年、銀座松屋通りに一号店ができてから増えに増えました。2024年2月末の時点で、全国に1885店舗。コーヒー一杯のお値段がそう安くはないスタバに、なぜみんな行きたくなるのか。その理由を探っていきましょう。

大事にすべきは空間づくり

 カフェに行く多くの人は、もちろんコーヒーを飲みに来ているのですが、もっと重要なのは、そこでくつろぐために来ているということです。コーヒーの味や価格でいえば、もっと良いところがある、という意見が出るのはもっともです。しかしそれでもスタバが選ばれる理由は、落ち着いた色合いの内装で全席禁煙、お客さん一人一人に対する臨機応変な対応、姿勢などのサービスが行き届いていることが挙げられます。

 つまり、そこで過ごす人にとって「心地よい空間」を作り出すことで、人気を勝ち得たといえるでしょう。これは意外と大事なことです。そこがオシャレな空間であれば、それだけで人に刺激を与え、あるときには安心感を与えます。「その場所にもう一度行きたい」と思わせることにスタバは成功しているのです。

 早い! 安い! うまい! のように、わかりやすい看板を立てお客さんを呼び寄せるのは、一つの方法です。しかし、すべてのお店がそのやり方でうまくいくわけではありません。ターゲットを絞り、重点的なサービスをおけば、その分高くなっても人はやってくるのです。安いことよりも静かにおいしいコーヒーを飲むことに重きをおく人は、雰囲気や接客態度、サービスが良ければまた来ようと思います。「高い」と思うのは、それがコーヒーの値段だけだと考えてしまうからです。

「ドヤリング」という言葉も生まれた

 カフェに来る人の目的はさまざまです。純粋にコーヒーを楽しむ、ゆったりとくつろぐ、読書を楽しんだり、仕事をするためにパソコンを開いたりという使い方をする人もいるでしょう。

 そのカフェでパソコンを使っている人に対して、「ドヤリング」と揶揄する風潮が、ネットを中心に数年前から広がり始めました。「ドヤリング」とは、「どや顔をしている(現在進行形)」という意味で、主にオシャレなカフェ(スタバ)でスタイリッシュなノートパソコン(MacBookAir)を使っている人が、自分自身を「できる人・かっこ良い人」だと演出している、ととらえ、その自己顕示を揶揄した言葉です。そう思われてしまうのが恥ずかしくて、あえてスタバでMacBookAirを使うのを避けるという人もいるのだとか。

 スターバックスの公式サイトでは、経営理念の一つとして、「感動経験」を提供するということを掲げています。また、価値観として

「お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。」

 と記しています。もっとも重要視しているのは、お客様ともに創り出す徹底して心地よい空間なのです。ドヤリングと揶揄するのを止めて、お互いに「心地よい空間」を求めて来ているのだと思えばいやな気持ちはしないのではないでしょうか。

 ただ、いくらくつろぎの空間でも、コーヒー一杯で長時間ねばっていると、他にも「感動経験」を求めたい人たちからその機会を奪ってしまうことになるので、節度というものは必要です。迷惑をかけないという客側の姿勢があって、快適な空間は作られるのです。
 

人気はいつまで続く…?

 こうして見ていくと、スターバックスが「心地よい空間」を武器にここまで大きくなったのも頷けます。しかし、過去には顧客満足度が陥落した苦い経験も。2016年8月に書かれたBusiness Journalのコラム「スタバ劣化で行く意味消失…ただ高いだけ、顧客満足度もドトール以下に転落」では、

 「店舗数の拡大に伴ってバイトが増えたことで、自慢のホスピタリティの質も明らかに落ちている」

 と言及しながら、スタバ人気が陰ってきていると指摘しています。
 
 確かに、人気が出たことで新しい客層が増えて、お店が騒がしくなったりすると、落ち着いた空間が好きで通っていた人は「昔と違う」と感じて離れてしまうかもしれません。ここは商売としても難しいところです。

 しかし、毎シーズン発表される新商品は、出るたびにテレビの情報番組で紹介されるなど、そのブランド力はいまだ抜群です。過去の苦い経験がありつつも、2022年度JCSI(日本版顧客満足度指数)第1回調査の結果では顧客満足度1位を獲得しています。また、たとえ人気が衰えたとしても、絶対に離れないお客さんも多く存在するでしょう。「スタバ」に「スタバ」らしさがある限り、その価値が消えることはないのです。

<参考サイト>
・スターバックス OUR MISSION
http://www.starbucks.co.jp/company/mission.html
・Business Journal スタバ劣化で行く意味消失…ただ高いだけ、顧客満足度もドトール以下に転落
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16289.html
・公益財団法人 日本生産性本部 2022年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)第1回調査結果 https://www.jpc-net.jp/research/detail/005937.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る

なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る

今どきの若者たちのからだ、心、社会(1)ライフヒストリーからみた思春期

なぜ思春期に注目するのか。この十年来、10歳だった子どもたちのその後を10年追跡する「コホート研究」を行っている長谷川氏。離乳後の子どもが性成熟しておとなになるための準備期間にあたるこの時期が、ヒトという生物のライ...
収録日:2024/11/27
追加日:2025/07/05
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長
2

フェデラリスト・ハミルトンの経済プログラム「4つの柱」

フェデラリスト・ハミルトンの経済プログラム「4つの柱」

米国派経済学の礎…ハミルトンとクレイ(1)ハミルトンの経済プログラム

第2次トランプ政権において台頭する米国派経済学。実はこの保護主義的な経済学は、アメリカの成長と繁栄の土台を作っていた。その原点を振り返り解説する今シリーズ。まずはワシントン政権の財務長官でフェデラリストとして、連...
収録日:2025/05/15
追加日:2025/07/08
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
3

グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味

グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味

地政学入門 ヨーロッパ編(10)グリーンランドと北極海

北極圏に位置する世界最大の島グリーンランド。ここはデンマークの領土なのだが、アメリカの軍事拠点でもあり、アメリカ、カナダとヨーロッパ、ロシアの間という地政学的にも重要な位置にある。また、気候変動によってその軍事...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/07/07
小原雅博
東京大学名誉教授
4

スターバックスのコンセプトは「サードプレイス」

スターバックスのコンセプトは「サードプレイス」

ストーリーとしての競争戦略(6)事例に見る経営者の戦略

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木建氏が、ホットペッパーとスターバックスを事例として、コンセプトの重要性を解説する。スターバックスやホットペッパーは、「第3の場所」・「狭域情報」といったコンセプトを的確に...
収録日:2017/05/25
追加日:2017/07/18
楠木建
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 特任教授
5

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者