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ブラック・ムスリムの「歴史と背景」とは?
今なお、「ボクシングチャンピオン」の代名詞のように語られるモハメド・アリ。2016年6月、74歳で亡くなった彼は、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」の名言とともに、カシアス・クレイから名前を変えたことでも知られていますが、これはアリがイスラム教に改宗をしたためです。その背景には、マルコム・X、そしてイライジャ・ムハンマドという黒人のイスラム運動、ブラック・ムスリムを代表する2人の人物の影響があった、と歴史学者・山内昌之氏は語ります。
その教えは、黒人に勤勉、尊厳、経済的自立を説き、道徳的一体性を取り戻そうと鼓舞するものでしたが、イスラムの伝統的、正統的な教えと衝突する部分もありました。つまりそれは、白人を悪魔と呼ぶ一方で黒人を善人とみなす、一種の人種主義的主張だったのです。
「イスラムの民」の活動により、黒人のイスラム運動の一大ムーブメントが広がっていきました。注目すべきは、彼が服役中の黒人たちに教えを説き、心を捉えていったということです。こうして罪を犯した多くの黒人が民族の尊厳、誇りに目覚め、更生の道を歩みました。この刑務所での布教活動に接してイスラム教に改宗した黒人も少なからずおり、その中にモハメド・アリが最も共鳴したといわれるマルコム・Xもいたのです。
「地球上の最も誇り高い人種の直系子孫は抑圧された黒人だ」とし、黒人を統一させ誇りを持たせることがイスラムの使命だと主張したのです。黒人の優越性を説き、その誇り高い要素を保証するものとしてイスラムの教えを位置づけました。この独特なイスラム運動は、やがてデトロイトやフィラデルフィアにも広がっていきました。
このような白人批判の伝統が、黒人のイスラム信仰回帰の主張とともに、イライジャ・ムハンマド、マルコム・Xなどに引き継がれていったのです。
そこにはアフリカ系アメリカ人、すなわち黒人とイスラム教の歴史的関係があります。イスラムは、黒人たちがもともとの故郷、アフリカで培ってきた宗教文化システムでした。その後、アメリカに渡った、というより奴隷として強制的に渡らされた黒人たちは、支配層である白人の抑圧を受け、イスラム教信仰を奪われました。キリスト教への改宗を余儀なくされた者も多かったのです。「支配層である白人のキリスト教と抑圧される層である黒人のイスラム教」という構図が長くアメリカ社会を覆っていた中から、ブラック・ムスリムの主張が生まれました。
現代のアメリカのムスリムの約3分の1以上が黒人といわれる中、これからトランプ大統領はアメリカの内なるムスリム、とりわけブラック・イスラムに対して、どのような行動に出るのでしょうか。イスラムと黒人の歴史を思うと、ますます目が離せません。
刑務所での教えが黒人を変えていった
モハメド・アリは、黒人解放指導者としてキング牧師と並び称されるマルコム・Xの多大なる影響を受けました。そのマルコム・Xが一時傾倒したのが、「イスラムの民」と呼ばれる黒人のイスラム運動の組織をつくったイライジャ・ムハンマドです。彼は、「神の預言者」とも「黒人の真の本性を取り戻すことのできる男」とも呼ばれ、1930年代頃より黒人にイスラムの教えを広めました。その教えは、黒人に勤勉、尊厳、経済的自立を説き、道徳的一体性を取り戻そうと鼓舞するものでしたが、イスラムの伝統的、正統的な教えと衝突する部分もありました。つまりそれは、白人を悪魔と呼ぶ一方で黒人を善人とみなす、一種の人種主義的主張だったのです。
「イスラムの民」の活動により、黒人のイスラム運動の一大ムーブメントが広がっていきました。注目すべきは、彼が服役中の黒人たちに教えを説き、心を捉えていったということです。こうして罪を犯した多くの黒人が民族の尊厳、誇りに目覚め、更生の道を歩みました。この刑務所での布教活動に接してイスラム教に改宗した黒人も少なからずおり、その中にモハメド・アリが最も共鳴したといわれるマルコム・Xもいたのです。
黒人の優越性と誇りを主張したティモシー・ドリュー
このようなアメリカの黒人のイスラム運動は、ティモシー・ドリューの存在なくしては語れません。ドリューは、1913年にニュージャージー州ニューアークに礼拝堂を設立。彼はノーブル・ドリュー・アリと自称し、かなり特殊なイスラムの教えを広めました。「地球上の最も誇り高い人種の直系子孫は抑圧された黒人だ」とし、黒人を統一させ誇りを持たせることがイスラムの使命だと主張したのです。黒人の優越性を説き、その誇り高い要素を保証するものとしてイスラムの教えを位置づけました。この独特なイスラム運動は、やがてデトロイトやフィラデルフィアにも広がっていきました。
白人批判を繰り広げたウォーレス・ファード・ムハンマド
黒人の中に広まっていったイスラム現象は、20世紀に入り、ウォーレス・ファード・ムハンマドという指導者により、変化を遂げます。彼のイスラム解釈もいささか変わっていました。すなわち、アメリカ人に対して、アルコールの摂取や婚外の性交渉をしてはならない、豚肉を食べてはいけない、賭博はいけないということを、かなり厳しく禁じたのです。そして、彼もまた、黒人こそ最初につくられた人間で白人は悪魔の種族だ、と白人批判を繰り広げました。このような白人批判の伝統が、黒人のイスラム信仰回帰の主張とともに、イライジャ・ムハンマド、マルコム・Xなどに引き継がれていったのです。
本来の信仰を取り戻そうとしたブラック・ムスリム
なぜ、ティモシー・ドリューに始まるアメリカのブラック・ムスリムの指導者たちは、過激といえるほどの教えを説いたのでしょうか。そこにはアフリカ系アメリカ人、すなわち黒人とイスラム教の歴史的関係があります。イスラムは、黒人たちがもともとの故郷、アフリカで培ってきた宗教文化システムでした。その後、アメリカに渡った、というより奴隷として強制的に渡らされた黒人たちは、支配層である白人の抑圧を受け、イスラム教信仰を奪われました。キリスト教への改宗を余儀なくされた者も多かったのです。「支配層である白人のキリスト教と抑圧される層である黒人のイスラム教」という構図が長くアメリカ社会を覆っていた中から、ブラック・ムスリムの主張が生まれました。
アメリカの「内なるムスリム」の行く先は?
2017年3月、トランプ大統領はムスリム入国禁止令を発令。アメリカ連邦地方裁の差し止め決定に対抗して、トランプ氏は最高裁まで戦うと豪語しています。現代のアメリカのムスリムの約3分の1以上が黒人といわれる中、これからトランプ大統領はアメリカの内なるムスリム、とりわけブラック・イスラムに対して、どのような行動に出るのでしょうか。イスラムと黒人の歴史を思うと、ますます目が離せません。
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