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DATE/ 2017.08.05

AI時代を勝ち抜く鍵は学校教育とファミリービジネス

 電車広告でたびたび見かける進学塾が提供する中学入試問題に、思わず考え込んで乗り過ごしそうになった方、案外多いのではないでしょうか。一頃の○×方式への反省から、入試やテスト問題の多くは「考える力」を問うものに変わりつつあるようです。東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏も、今までの学校教育は人工知能やコンピューターで代替えできる能力を養成してきたに過ぎない、と苦言を呈しています。では、いったいどういうことなのでしょうか。

褒め言葉ではなくなった「百科事典みたいな人」

 柳川氏は、今はもう「百科事典みたいな人」というのは褒め言葉にはならないと言います。なぜなら、スマホやタブレットを使えば、一発検索であっという間にいろいろな情報が手に入るからです。

 今や、いろいろ知っている人ではなく、AIやコンピューターの使い方に長けていて、うまくツールを使いこなし、欲しい情報を瞬時に得られる人が「できる人」と評価されてしまうのではないでしょうか。学生時代に知識を詰め込み、ひたすら暗記するという勉強をしてきた優等生は、今の時代、必要な人とは言われなくなっているということです。

これからの学校に求められるもの

 ではこれからはどんな能力が求められるのでしょうか。柳川氏は、これからの学校教育は人工知能に負けない、代替えされにくい能力を育てる必要があると言います。具体的には、得た情報をもとに、他者とコミュニケーションをきちんととって理解を深め、そこから話を広げ、交渉を続けていく能力です。

 このことを聞いてひと昔前までは当たり前のように行われていた、個人商店でのお客さんとお店の人のやりとりを思い出しました。何が欲しいのか、今日入った品物はどんな点でおすすめなのかといった情報を交換しながら、お天気の話、世間の噂などの雑談も交え、だんだんと核心に迫っていって、最後に値段交渉。時にはおまけをしてもらったり、その代わりに、お店を贔屓にして何度でも足を運ぶ。対話を十分に交わし駆け引きも行いながら、お互い必要なものを手にいれる…。

 かつて、このようなことが、近くの八百屋さん、魚屋さんなどでごく日常的に行われていました。こうしたコミュニケーション術、交渉術は機械では逆立ちしても真似のできないものです。その時々に生じる関係を見計らい、お互いの温度、空気も読みながら、状況に応じて対応の仕方を変化させていく。これからは、こうしたしなやかな能力を養うことが大事になってくるということです。

ファミリービジネスの「決断力」に期待

 次に、ビジネス社会に目をうつすと、現代では社会構造に大きな変化が起こっていて、この変化のスピードにいかについていくかが重要だと、柳川氏は語ります。一言でいえば、小さくて小回りの利く会社が圧倒的に有利であり、その意味では、トップのリーダーシップが発揮されやすいファミリービジネスに大きな利点があるのです。

 トップの裁量に負うところが大きい分、確かにリスクも背負っているわけですが、強いリーダーシップはそのリスクを補って余りあるファミリービジネスならではのメリットです。迅速な意思決定が成されるので、大きな環境変化にも柔軟に対応できます。いくつもの会議をしないと結論を出せなかったり、稟議書を回すなど決定までに時間がかかってしまう大企業ではなかなか叶わない決断力があるということです。

 こうした小回りが利いてお互いの顔が見える、声の届きやすい会社であれば、なおさらのことコミュニケーション力、察知力、交渉力が問われるはず。どうやらAI時代を勝ち抜くビジネス戦略は、柔軟な能力を育てる学校教育から始まっているといっても過言ではなさそうです。
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