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DATE/ 2017.08.07

厚生労働省が公表する「ブラック企業リスト」とは

 2017年7月14日、厚生労働省労働基準局監督課より「労働基準関係法令違反に係る公表事案」の最新版がWeb上に発表されています。いわば、国が作成した「ブラック企業リスト」。その内容をちょっとのぞいてみましょう。

毎月更新されるリストの掲載基準は?

 このリストは、平成28年12月26日開催の第4回長時間労働削減推進本部でとりまとめられた「『過労死等ゼロ』緊急対策」の決定事項に基づいて、以下に当てはまる企業の名称や所在地、違反事項を公表するものです。

1.労働基準関係法令違反の疑いで送検した事案

2.「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」に基づき、局長が企業の経営トップに対し指導し、その旨を公表した事案

 すでに5月10日に第1回、6月10日に第2回が発表され、今回は3度目の更新。今後も月1回のペースで定期的に更新されることになっています。

どんな企業が多いのか。県別では、規模別では?

 今回公表されているのは、北海道24、東北39、関東49、北陸甲信38、東海52、近畿67、中国36、四国20、九州・沖縄68の合計393件。都道府県では愛知30件、大阪28件、北海道24件がワースト3です。

 東京商工リサーチが5月時点で調べたところでは、公表された332社のうち、244社の売上高が判明。うち1~5億円未満が77社(31.5%)と最も多く、次いで1億円未満(23.7%)、10~50億円未満が43社(17.6%)となっていました。

 売上高の最大企業はパナソニック(株)で、富山県内の工場で労働者3名に36協定の延長時間を超える違法な時間外労働を行なわせたとして、労働基準法違反で書類送検されています。ついで三菱電機(株)でも鎌倉市の情報技術総合研究所で労働者1名に対する同様の案件が発生しましたが、嫌疑不十分で不起訴処分になりました。

建設業は「安全衛生法」違反、長時間労働はサービス業

 産業別のワースト3は建設業、製造業、サービス業他。一覧公表された393件のうち、違反した関係法令が「労働安全衛生法違反」267件と68%近くを占めていることからも、うなずけます。報告されている内容も「墜落防止措置をとらずに高所での作業を行わせた」「資格のない労働者にフォークリフトやクレーンを操作させた」など、リスク管理面から見ると一発アウトな案件がほとんどです。

 違法な長時間労働などの労働基準法違反は70件(17.8%)、賃金未払いや最低賃金を遵守しない最低賃金法違反は56件(14.2%)。労働基準法違反が多いのはサービス業他。その代表は、2015年末に新人女性社員が違法な長時間労働で過労死し、社長の引責辞任にもつながった電通です。法人としての電通が2017年7月6日に略式起訴されたほか、2017年4月25日付では中部・関西・京都の各支社の幹部が労働基準法違反で書類送検されています。

 最低賃金法違反では、「未払い」「不払い」が目立ちます。最高額は、兵庫県洲本市の運送業「淡路貨物自動車(株)」。労働者10名に、2年11か月にわたり所定賃金(累計総額約5,000万円)を所定支払日に支払わなかったと言います。同社は2015年11月に事実上倒産しましたが、その時点での未払い額は2億8千万円に上ったとも報道されました。

 OECDからも「長時間労働の文化を変革し、ワークライフバランスを改善すること」が経済成長のために必須と勧告されている日本。このブラックリストをみんなが話題にすることで、少しでも抑止力になってくれるといいですね。

<参考サイト>
・厚生労働省:労働基準関係法令違反に係る公表事案
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/dl/170510-01.pdf
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