テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.07.25

職場から帰りたくない…帰宅恐怖症とは?

「プレミアムフライデー」の現実味のなさ

 2017年に生まれた言葉で、本来の目的と現実が大きくかけ離れたもの――その代表格と言えば「プレミアムフライデー」ではないでしょうか。政府と経済団体連合会によって2017年2月から月末の金曜日は「15時退社」をするという“働き方改革”を打ち出しました。公式サイトには「月末金曜は、少し早めに仕事を終えて、ちょっと豊かな週末を楽しみませんか?」と記して“週休2.5日”を推奨。旅行やスポーツなどを楽しんでほしいとしています。

 しかし、長時間労働が常態化している日本において、急に「プレミアムフライデー」の理念を取り入れようとするのは無理があったようです。ウェブメディア「ITmediaビジネスオンライン」によると、カルチュア・コンビニエンス・クラブ調べの「プレミアムフライデー」を導入した企業の割合は、わずか3.4%という低さになっています。プレミアムフライデーが定着しない理由として、長時間労働にプラスして“早い時間に帰ってもOKな職場の雰囲気か”、“仕事以外の時間の余暇をどう使うか”という点にもあります。

その象徴として捉えられている言葉が「帰宅恐怖症」です。

「帰宅恐怖症」になりやすいのは一見「いい夫」タイプ

 「ベリーベスト法律事務所」が運営するサイト「LEAGAL MALL」では、帰宅恐怖症について「仕事が終わっても家に帰りたくない、同僚と飲むわけでもなく、一人でネットカフェ等で時間をつぶして、家族が寝静まった後でないと家に帰れない、ひいてはカプセルホテルに泊まってそこから出勤する」と例示しています。つまり、本来一番安らげるはずの家庭が、安らげる場所にならずに敬遠しているという矛盾が生じているのです。

 同サイトでは、帰宅恐怖症に陥りやすい夫のタイプについて紹介しており、妻が子どもにばかり関心を向けて、夫に関心を向けないなど、プライベートでも自らに関心を向けてくれないことで知らず知らずのうちに傷つくケースがあるとしています。また「真面目で温厚、争い事が嫌い」という一見「いい夫」タイプが帰宅恐怖症に陥りやすいことも指摘しています。

 また、「帰宅恐怖症」というタイトルで文春新書から出版されている新書では、仕事が終わっても家庭などプライベートな部分に煩わしさを感じる部分について触れられています。ウェブサイト「文春オンライン」では「帰宅恐怖症チェックポイント」として、「妻はコントロールしたがる傾向がある」「妻の顔色をうかがったり、ご機嫌とりをしてしまう」「妻が寝静まった頃に帰ろうとする」など10項目を挙げていますので、疑わしいと感じたらチェックしてみるといいかもしれません。

プライベートの時間まで仕事はあり得ない?

 定時で帰れないのは家族を持つ社会人だけでなく、20代の若手社員も同じこと。ウェブサイト「マイナビウーマン」では『定時で「帰れる人」と「帰れない人」のちがい5つ』を掲載。その要素として定時中までに「仕事ができるか」、「優先順位を受けているか」、「計画性があるか」、「段取りがいいか」、そして「帰る気があるかどうか」も挙げています。ここでの「帰る気」とは定時までに終わらせることを示していますが、人によっては「帰りづらい」という感覚もあるのではないでしょうか。

 ウェブサイト「サイボウズ式」でも『定時後の「帰りにくい空気」とどう向き合うか』とのタイトルで紹介。『「プライベートの時間まで仕事をするなんてありえない」という価値観をチーム内に浸透させること』が大事だとしています。

 ただし前述した「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」のアンケートでは、もしプレミアムフライデーを使用できる立場になった場合、何がしたいかとの質問に対してトップは「家でゆっくり過ごす」の58.5%と、過半数の人が「のんびりする」ことを選んでいます。逆に言えば「何かをしたい!」という積極的な姿勢を持っているわけではなさそうです。

 ありきたりの答えかもしれませんが、職場をすぐ出てでもやりたい趣味があるかどうか。それを働く人それぞれが見出すことが、「帰宅恐怖症」の改善であることは間違いありません。

<参考文献・参考サイト>
・『帰宅恐怖症』(小林美智子 著、文春新書)
・SHARP公式ツイッター
https://twitter.com/SHARP_JP/status/890735411928064002
・文春オンライン
http://bunshun.jp/articles/-/2766
・プレミアムフライデー公式サイト
https://premium-friday.com/
・LEGAL MALL:帰宅恐怖症
http://best-legal.jp/family-phobia-5042
・サイボウズ式:定時後の「帰りにくい空気」とどう向き合うか
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m001013.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(2)江藤淳の「リアリズムの源流」

文芸評論を再考するに当たり、江藤淳氏の「リアリズムの源流」を振り返ってみる。一般的に日本で近代小説が始まった起源は坪内逍遥だといわれるが、江藤氏はそれに疑問を呈す。そして注目したのが、夏目漱石の「坊ちゃん」であ...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/07/02
與那覇潤
評論家
2

ヨーロッパとは?地図で読み解く地政学と国際政治の関係

ヨーロッパとは?地図で読み解く地政学と国際政治の関係

地政学入門 ヨーロッパ編(1)地図で読むヨーロッパ

国際政治の戦略を考える上で今やかかせない地政学の視座。今回のシリーズではヨーロッパに焦点を当て、地政学の観点から情勢分析をする。第1話目では、まず地政学の要点をおさらいし、常に揺れ動いてきた「ヨーロッパ」という領...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/05/05
小原雅博
東京大学名誉教授
3

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道

機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
木下康司
元財務事務次官
4

「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?

「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?

キリスト教とは何か~愛と赦しといのち(1)「イエス」とは一体誰なのか

キリスト教とは何か。「文明の衝突」が世界中で現実化する中、この問題は日本人にとっても重要なものになっている。上智大学神学部教授・竹内修一氏は、「キリスト教とは何か」という問いは、同時に「イエスとは誰なのか」も意...
収録日:2016/12/26
追加日:2017/02/28
竹内修一
上智大学神学部教授
5

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者