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クジャクの雄の羽はなぜゴージャスなのか?
違って当たり前だけど違い方はさまざまな雄と雌
最近は、サラサラのロングヘアーをなびかせるしなやかな後ろ姿に見とれた直後、振り返ったその顔をみて「あ、男の人だったんだ…」と気づくこともしばしば。見事に分割した腹筋をもつ女性、白魚のような手指の男性など、皆さんの周りにもいるでしょう。ことヒトに関しては、見た目だけで性差を区別するのは、年々難しくなってくるように思います。しかし、生物界全体で見れば、たとえば一方が派手な色の羽を持っていたり、立派な角やたてがみを持っていたりと、やはり雄と雌には目に見えるはっきりした違いがあるのが普通です。
こうした違いは、子孫を残すため、種を絶やさないための生き残りをかけた戦略であることが多いのですが、行動生態学、進化生物学を専門とする総合研究大学院大学学長・長谷川眞理子氏によれば、その雌雄の違い、性差のパターンは実にさまざまなのです。
ダーウィンの自然淘汰説と性淘汰説
まず、性差は目で見てはっきり分かる場合と見た目ではなかなか分からない場合があります。雄が色鮮やかな羽を広げるクジャクのような鳥もいれば、スズメのようにぱっと見ただけでは雄か雌か分からない鳥もいます。また、一般的な「雄が強くて雌が弱い」イメージとは逆に、雌の方が大きかったり派手で強かったりして、雄の方が小さめで地味、という種も多くあります。なぜ、このようなさまざまなパターンが生じるのか、その疑問から探求を重ね、性淘汰(セクシャル・セレクション)の理論を打ちだしたのがチャールズ・ダーウィンでした。ダーウィンはご存じのように進化論の理論に基づき、「生物は常に物理的な環境に適応するように変化する」という自然淘汰説(ナチュラル・セレクション)を提唱しました。よく例に出されるのが、キリンは高いところの葉を食べやすいように、首の長い個体が生き残って今のような形態になった、というものです。
しかし、この自然淘汰だけでは、同じ自然環境の条件下にある同一の種の雄と雌に違い、性差が生じることの説明がつきません。そこで、ダーウィンが打ちだした新たな理論が性淘汰説だったのです。
理論1-雄同士の戦いは厳しい
この理論のポイントは2つあります。まず、ダーウィンはさまざまな動物の生態を観察して、「繁殖競争においては雄同士の競争の方が雌同士のそれよりも厳しい」ということに気づきました。だから、戦いに有利なように雄はより大きく、角や牙も発達させ、「立派」な外見を手に入れるようになったのだ、という考え方です。威風堂々たるたてがみを持つ雄ライオン、立派な角が自慢の雄のヘラジカ。いずれも雌の外見のおとなしさとは大きな違いがありますね。ゾウの中には、雄は牙が口の外に露出しているのに、雌は牙はあっても外からは見えないという種類もあるそうです。また、雄の方が雌の何倍もの大きさである動物も。ゾウアザラシは、雄の体重が平均1800キロであるのに対して雌の平均は650キロと、3倍弱の差があるとか。
理論2-雌はえり好みをする
2番目のポイントは、「雌はえり好みをする」ということです。厳しい選択眼を持った雌に気に入ったもらうために、クジャクの雄はあの見事な羽をまとうようになったというわけです。ほかにも、カメレオンは色を変えながら、なかなかユニークな求愛ダンスを披露するらしく、必死な雄の様子がほほえましいやら、涙ぐましいやら。また、アカショウビンというカワセミの仲間は、まず雄がその美しいさえずりで求愛行動をしてカップルになった後、さらに雄の巣作りを雌が点検して気に入ったら巣に入って卵を産むそうで、えり好みもこのくらい徹底すればご立派というもの。特に、雄の持つ特徴が強さや大きさに特化していなくても、そこには雌の好みに応えるために色や声の美しさ、ダンスや巣作りのテクニックなど何らかの工夫がされている、というわけです。
ちなみに長谷川氏によれば、この性淘汰説は、人間にも基本的には当てはまるとのこと。ただし、社会が複雑でその中での人間の活動も多彩なので、一概に理論通りとはいかないそうですが、雄同士の雌をめぐる激しい戦い、雌のえり好みという説を聞くと、「基本的には当てはまる」という意見に、大きくうなずいてしまいます。
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