社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.08.29

「ひじき」で58分縮まる?「損失余命」とは

 「損失余命(Lost Life Expectancy)」という言葉を聞かれたことはあるでしょうか。「損失余命」とは、食事や行動などにどれだけのリスクがあるかを寿命の減少で示したもの。生まれたときに満タンの余命が、どのぐらい減っていくのかを表したものです。

寿命は「ひじき」で58分、「たばこ」で12分縮まる?

 「損失余命」計算の対象は食品だけでなく、低体重、運動不足、大気汚染、ストレス、幼児虐待など多岐にわたります。例えば喫煙なら1本で12分、コーヒーなら1杯で20秒、コンビニのフランクフルト1本で1分14秒、「持ち時間」が減るというのです。

 日本では「ひじきの煮物(小鉢一杯)」の損失余命が58分というWHO(世界保健機構)の発表にショックが広がりました。が、ここにはひじきを食べることで得られる栄養効果などのプラス面は評価されていません。

 高い数値が出ているのは、無機ヒ素の含有があるためですが、その後の農林水産省の調べにより、乾燥ひじきを水に戻すと50%、茹で戻すと80%、茹でこぼすと90%の無機ヒ素が減ることが分かっています(茹で戻しは水に入れて茹で水洗いする、茹でこぼしは30分水に浸し、新しいお湯で沸騰後5分感茹で、水洗い)。和食として食べられてきた調理法では、あまり問題がないのではないでしょうか。

世界では「低体重」、北米では「過体重」がリスク

 「損失余命」を専門とする機関があるわけではなく、WHOをはじめ各国の医療機関や団体などが各自の研究結果にもとづいてリスク指標として使用していることも注意しつつ、「できれば避けたい」のは何か、考えてみてはいかがでしょうか。以下は、WHOによる「日常的なリスクによる損失余命比較(単位:年)からの抜粋です。

項目/世界/日本/北米/EU
低体重/20.73/0.01/0.01/0.00
体重オーバー/ 3.78/1.92/6.58/5.71
高血圧/9.07/5.94/7.03/8.86
コレステロール/ 5.71/3.01/6.44/6.97
野菜果物不足/3.83/1.87/3.65/2.53
運動不足/ 2.59/1.78/3.03/2.95
危険な性交渉/12.57/0.23/0.98/0.46
たばこ/7.45/6.15/13.81/11.43
酒/5.34/1.61/2.80/3.01
ストレス/0.00/0.00/0.00/0.00
幼児虐待/ 0.28/0.16/0.12/0.07

 ストレスで寿命は減らないのに、子どもにストレスをぶつける日本人の姿が浮かび上がってくるようです。どんなに減らさないでおこうと気遣っても、時とともに減っていくのが寿命ですから、せめて次の世代の寿命をマイナスにはしたくないですね。

余命は「獲得」することもできる!?

 さて、余命に「損失」があるなら「獲得」があってもいいはずだ、と思うのが人情。実際に「獲得余命」という言葉は、損失余命と比較する場面で使われはじめています。

 たとえば胃がんや乳がんの検診で得られる延命効果を「獲得余命」と考え、放射線被ばくリスクを「損失余命」ととらえる。そのプラスマイナスは、年代によって異なることがわかっています。検診による利益を年代別で考えてみるといったことです。

 何かを食べることで獲得できる「余命」は今のところ発見されていないようですので、ご注意を。

<参考サイト>
・いくつかの損失余命
http://www.s.fpu.ac.jp/oka/lle.pdf
・WHO日常的なリスクによる損失余命比較
http://www.env.go.jp/chemi/entaku/kaigi07/shiryo/yasui/yasui23.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か

アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
2

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方

人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
3

近代医学はもはや賞味期限…日本が担うべき新しい医療へ

近代医学はもはや賞味期限…日本が担うべき新しい医療へ

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(3)医療の大転換と日本の可能性

ますます進む高齢化社会において医療を根本的に転換する必要があると言う長谷川氏。高齢者を支援する医療はもちろん、悪い箇所を見つけて除去・修理する近代医学から統合医療への転換が求められる中、今後世界の医学をリードす...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/19
4

AIは「暗黙知・常識に基づく高度な判断」が不得意

AIは「暗黙知・常識に基づく高度な判断」が不得意

AIとデジタル時代の経営論(6)暗黙知と判断力

一橋大学大学院国際企業戦略研究科研究科長・教授の一條和生氏によれば、AIが不得手なのは、暗黙知・常識に基づく高度な判断である。人間の役割はこうした暗黙知を捨てず、個々の状況での判断力を磨いていくことだ。暗黙知を支...
収録日:2017/07/24
追加日:2017/10/30
一條和生
一橋大学名誉教授
5

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授