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DATE/ 2017.09.11

日本で「ジェネリック医薬品」が普及しない理由

 「日本の財政赤字が膨らみ続けている。その大きな要因の一つが社会保障費の増大である。中でも医療費拡大は、少子高齢化現象を少しでも改善しない限り避けられない」ーこれらのことは、もう何度も耳にしていることです。

 しかし、この医療費増大には、普段私たちが何気なくしていることが影響している可能性があるのです。国家財政と私たち個人がダイレクトに結びついているという実感はなかなか持てないものですが、学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重氏の話を聞くとなるほどと思えます。

ジェネリック医薬品の利用率が伸びないわけ

 最近、「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」のテレビコマーシャルを頻繁に見かけます。薬局でも、ジェネリックの利用を促すポスターが貼ってあったり、薬剤師さんから「ジェネリック薬品がありますよ」と言われたりします。新薬のパテント(特許権)が切れると各メーカーで製造可能となり、同じ有効成分の薬を安い値段で利用できるようになる、というのがジェネリック医薬品。「同じ効き目なら安い方が」と誰しもが考えるのではと思いきや、実はそうとは限らない、と伊藤氏は言います。

 ジェネリック利用が思ったように伸びない一つの原因が、「長期収載品」です。パテントが切れてジェネリック医薬品が発売されていても、それまでのブランド力を生かして販売が続いている先発医薬品のことです。ジェネリックより高い値段設定がされているのですが、保険でカバーされているので患者はあまり値段のことを意識せずに、例えば「今までと同じ薬の方が慣れているし安心だ」といった理由で長期収載品を選んでしまいます。こうしたことが、ジェネリックへの切り替えを妨げているのです。

ジェネリックとAGの違い

 もう一つの医療財政を圧迫している原因が、「オーソライズドジェネリック(AG)」というもの。これは、新薬メーカーが他のメーカーに特許の使用権を与えて作っている薬品です。ジェネリックが有効成分、効果・効能において新薬と同一であるのに対して、オーソライズドジェネリックはそのほかに、原薬、添加物、製法まで先発医薬品と同一というもの。いわば新薬開発メーカーにオーソライズ、認められたお墨付き薬品です。「何から何まで先発の薬と同一」と聞けば、「ジェネリックより効き目が確かだろう」と思うのが人情というもの。したがって、ジェネリックより高価なオーソライズドジェネリックの利用者も多く、これもまた保険でカバーすることとなるため、財政圧迫につながります。

ジェネリックの方が改善されている場合も

 長期収載品もAGも、患者の持つ「なんとなく安心」「信用できる」といった印象で選択されることが多いようなのですが、実際にはこれらの医薬品も第三者の製造メーカーに委託して作っていることが多いのだとか。つまり、その場合はジェネリックも変わりはないということです。もちろんジェネリックで十分とは言い切れませんが、実質的には後発で作られる薬の方がカプセルなどの性能面が改善されていたり、飲みやすさを工夫していたりなど、優れている面も多いといいます。

 品質は変わらないのに、有名なメーカーやブランドのマークがついている方が高品質、安全と思ってしまう消費者心理は、食品や衣料品だけでなく医薬品にも働いてしまうのですね。

「ついつい」や「ついでに」処方は控えよう

 伊藤氏が、もう一つの医療財政圧迫要因として挙げているのが「ついつい処方、ついでに処方」の問題。これは、ドラッグストアで風邪薬、うがい薬や湿布薬を買うよりも、医師に処方してもらう薬の方が安くて済むから、とつい病院に行ってしまうという問題です。あるいは、いつもの薬を処方してもらう「ついでに」、「最近ちょっと風邪気味で」と風邪薬を処方してもらうというようなこと。保険がきけば、3割負担、高齢者なら1割負担で済むため、無理からぬ話ですが、裏を返せば、薬価の7割、あるいは9割を保険がカバーしているということ。「ついつい」「ついでに」を国民一人一人がしていれば、その総額は膨大なものになるのは明らかです。

 その他にも、いくつかの病院に通っているので、同じような薬を複数処方されているといったことも、ありがちな問題でしょう。

薬の利用について、考える機会に

 このように聞くと、一人一人の意識づけによって財政赤字を減らせると思えてこないでしょうか。何よりも、医療費の圧迫が少しでも減れば、その分、社会保障費を介護のほうへ回せたり、新たに難病治療のための新薬の保険適用の道が開けたりするかもしれません。

 薬は誰にとっても命、健康にかかわる大切なもの。この機会に一度、この問題について考えてみてはいかがでしょう。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授