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DATE/ 2017.09.26

「感情労働」の苦情処理やテレオペ10年後になくなる仕事?

 「肉体労働」、「頭脳労働」という言葉は耳にしたことがあるかと思いますが、「感情労働」という言葉があることをご存じですか?言葉の通り、「心」を使う仕事のこと。「心」と言われても具体的なイメージが湧かないかもしれません。

 今回は、まだあまり言葉として知られていない、「感情労働」についてのお話です。

心を管理される「感情労働」とは

 業務の中で、自らの感情をうまく使い、コントロールしながら行う仕事が「感情労働」と呼ばれます。苦情の処理や電話オペレーター、販売員、レジ係、看護師や客室乗務員などが、感情労働の代表としてあげられます。

 例えば、客室乗務員に何か悪口を言う乗客がいたとしましょう。客室乗務員(いわゆるCA)は女性が多い職業です。これに従事している女性が、容姿を批難するような言葉を浴びせられた時、CAはそれに対して言い返すことを許されていません。「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」と回答をするのがマニュアルだそうです。

 これは他の業種でもあてはまります。電話オペレーターなども、どんな理不尽な怒りをぶつけられても、それに言い返してはいけないのです。ある意味で、心を管理される業務内容といえるでしょう。

接客業だけでない「感情労働」の広まり

 ここまで聞くと、「なるほど、接客業のことか」と思う方も多いかもしれません。しかし近年、こうした人対人のコミュニケーションが欠かせない職業だけでなく、エンジニアなどの技術職でも、「感情労働」を求められる時代になっているのです。

 日本社会は、諸外国と比べても突出してサービス産業が発達した社会です。日本ほど丁寧な接客対応を、カフェやファミリーレストランなど、価格帯の安い店で行う国はないでしょう。さらに、近年はSNSなどのネットの普及によって、様々な事情でクレームが入り、いつ炎上するかわからない時代となりました。どこから矢が飛んでくるか分からない以上、本来であれば表に出ない裏方の業種にまで、過度な気配りを要求することになります。

 感情、つまり心に負った疲労というのは、肉体や頭脳と違い、癒やすことが難しい疲れといえます。気晴らしが上手な人もいれば、うまく排出できずに疲労をためてしまう人もいるでしょう。なぜか疲労が拭えないという方は、もしかすると知らず知らずのうちに、仕事のため、会社のために心を抑え、要求される「感情労働」に振り回されてしまっているということもあるかもしれません。

 ストレスをコントロールする「ストレスマネジメント」では、「感情労働」による疲労と感じたら、カラオケで大声を出したり、お笑い番組を見て大声で笑ったり、意識的に感情を表に出すようにするとよいとされます。また、客観的に自分の状況を分析し、仕事とプライベートをきちんと区別することも必要かもしれません。

感情労働は10年後になくなる?

 また、こうした感情労働の多くは非正規労働者に多くあてられているという事実があります。電話対応や接客業などは、基本的に何か特別な資格を必要するわけではなく、その仕事に就くためのハードルは比較的低いと考えられているからです。

 しかし、こうした「感情労働」は10年後には激減している可能性もあります。AIの発達によって、人の労働環境に変化が表れると言われているからです。例えばスーパーのレジや医療窓口の受付業務など、AIはさまざまな分野の労働を人に代わって行うことになるでしょう。

 一方で、スクールカウンセラーや教師、看護師などは、人の感情に寄り添わなくてはならないため、AIの予測範囲を超えると言われています。また、いくら機械が人の代わりを務めるにしても、人は人との関係を構築せずに生きることはできません。人のあり方は時代とともに変わります。

 感情は、人が持つ当たり前のものです。あらゆるものが変化し、その都度、人もそれに合わせなくてはならない時代。仕事と心のあり方を、一度見つめ直してみることも必要かもしれません。
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