社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
定額働かせ放題?「働き方法案」のブラックな中身
日本で働く多くの人々にとって、「過労」は大きな問題のひとつです。「過労死」という言葉は海外にも輸出され、「KAROSHI」とそのままの意味で使用されているそうです。
そんな日本では今、さまざまな形で働き方の見直しが行われています。政府も「働き方改革」と銘打って、課題の解消に取り組んでいますが、みなさんは「高度プロフェッショナル制度」をご存じでしょうか?
法案のひとつにあがっていた制度ですが、実はこの制度、「残業代ゼロ法案」とも呼ばれています。なぜ「働き方改革」で「残業代ゼロ」がうたわれているのでしょう?
高収入で高度な専門職に就いている人であれば、自分の判断で自由に働けるはず、というのが政府の考えです。休日の取り方、労働時間なども、個人の裁量に任せるというもの。その分、残業代や休日出勤の手当もなくなるわけです。
現在、「裁量労働制」という働き方の制度があります。こちらも、仕事量を個人の裁量に任せるというものですが、労働基準法の保護対象となるため、あらかじめ定められた「みなし時間」を超えた場合、残業代や休日手当が支給されるのです。「高度プロフェッショナル制度」は、この点で「裁量労働制」をより拡大させたものといえます。いくら専門職とはいえ、繁忙期には残業もありますし、上司に指示をされたら「自分は高度プロフェッショナル制度の該当者なので」と断るわけにも行きません。この制度を、「定額働かせ放題」と揶揄する声もあがっています。
仕事をしている間、その代価をもらうということは当たり前のことですが、仕事の成果から考えると、また違う側面が見えてきます。例えば、定時に退社する人と、仕事が終わらず残業をして帰る人、ともに同じ分の仕事の成果であれば、仕事が終わらず残業をした人の方に多く代金が支払われることになります。成果主義は必ずしもよいとはいえませんが、経営サイドにとっては頭の痛い課題でもあります。
ならば「働いた時間ではなく、成果に応じて賃金が決まる制度」を、と考えますよね。そうした側面へのフォローを売りにしていたのが「高度プロフェッショナル制度」だったのですが、法案の文面には「成果に応じて賃金が決まる」とは記載されていないのです。
また、「高度プロフェッショナル制度」と同時に、「残業上限規制法案」と「同一労働同一賃金」もあがっていました。「同一労働同一賃金」は正規社員と非正規社員の格差をなくすことが目的ですが、「残業上限規制法案」は問題が残っているといわれます。繁忙期の残業の上限「月100時間未満」を設定していますが、これは国が労災認定をする目安の過労死ラインと同じなのです。
多様な人の生活と人生があり、その分、働き方にもさまざまな形が存在していますが、労働や成果に対して、相応の対価をもらうことは当たり前のことです。どれだけ労働基準や法律が整備されている国でも、忙しければ残業もしますし、理想としているワーク・ライフ・バランスが崩れることもあります。
さまざまな方法や理論が提示され、社会全体を一度に変えようとすることは、難しいことなのかもしれませんが、現在の日本に合う制度を模索していく姿勢は、有権者であるわたしたちにも必要ではないでしょうか。
そんな日本では今、さまざまな形で働き方の見直しが行われています。政府も「働き方改革」と銘打って、課題の解消に取り組んでいますが、みなさんは「高度プロフェッショナル制度」をご存じでしょうか?
法案のひとつにあがっていた制度ですが、実はこの制度、「残業代ゼロ法案」とも呼ばれています。なぜ「働き方改革」で「残業代ゼロ」がうたわれているのでしょう?
専門職には残業代も労働基準法もいらない?
東洋経済ONLINEの記事でコメントしている弁護士によると、この「高度プロフェッショナル制度」は、平均年収の3倍以上、つまり年収1075万円以上の収入があり、高度な専門職に就いている労働者が対象となっているとのこと。具体的には、為替のトレーダー、研究職などが該当の職業です。この制度の該当者となると、労働基準法の保護外となり、残業代や休日出勤の代金を支払う必要がなくなります。高収入で高度な専門職に就いている人であれば、自分の判断で自由に働けるはず、というのが政府の考えです。休日の取り方、労働時間なども、個人の裁量に任せるというもの。その分、残業代や休日出勤の手当もなくなるわけです。
現在、「裁量労働制」という働き方の制度があります。こちらも、仕事量を個人の裁量に任せるというものですが、労働基準法の保護対象となるため、あらかじめ定められた「みなし時間」を超えた場合、残業代や休日手当が支給されるのです。「高度プロフェッショナル制度」は、この点で「裁量労働制」をより拡大させたものといえます。いくら専門職とはいえ、繁忙期には残業もありますし、上司に指示をされたら「自分は高度プロフェッショナル制度の該当者なので」と断るわけにも行きません。この制度を、「定額働かせ放題」と揶揄する声もあがっています。
残業代のあり方と、課題
2017年10月現在、「高度プロフェッショナル制度」は衆議院解散によって廃案となりましたが、度々残業代を押さえる法案が作られます。その理由のひとつにあげられるのは、日本の長時間労働は「残業代」にあるという見方が存在していることです。残業代は、それぞれの会社のルールによっても異なりますが、会社にいればいるほど額があがっていくものです。仕事をしている間、その代価をもらうということは当たり前のことですが、仕事の成果から考えると、また違う側面が見えてきます。例えば、定時に退社する人と、仕事が終わらず残業をして帰る人、ともに同じ分の仕事の成果であれば、仕事が終わらず残業をした人の方に多く代金が支払われることになります。成果主義は必ずしもよいとはいえませんが、経営サイドにとっては頭の痛い課題でもあります。
ならば「働いた時間ではなく、成果に応じて賃金が決まる制度」を、と考えますよね。そうした側面へのフォローを売りにしていたのが「高度プロフェッショナル制度」だったのですが、法案の文面には「成果に応じて賃金が決まる」とは記載されていないのです。
また、「高度プロフェッショナル制度」と同時に、「残業上限規制法案」と「同一労働同一賃金」もあがっていました。「同一労働同一賃金」は正規社員と非正規社員の格差をなくすことが目的ですが、「残業上限規制法案」は問題が残っているといわれます。繁忙期の残業の上限「月100時間未満」を設定していますが、これは国が労災認定をする目安の過労死ラインと同じなのです。
働き方を見直すには
「働き方」に多くの人の注目が集まり、長時間労働の是非や過労死事件のニュースが頻繁に取り上げられるなど、多くの人々の意識は確かに変わろうとしています。「高度プロフェッショナル制度」も、一昔前であればさしてニュースにもならず、法案が通るということもあったかもしれません。多様な人の生活と人生があり、その分、働き方にもさまざまな形が存在していますが、労働や成果に対して、相応の対価をもらうことは当たり前のことです。どれだけ労働基準や法律が整備されている国でも、忙しければ残業もしますし、理想としているワーク・ライフ・バランスが崩れることもあります。
さまざまな方法や理論が提示され、社会全体を一度に変えようとすることは、難しいことなのかもしれませんが、現在の日本に合う制度を模索していく姿勢は、有権者であるわたしたちにも必要ではないでしょうか。
<参考サイト>
・東洋経済ONLINE:「働き方法案」に潜むブラック要素を検証する
http://toyokeizai.net/articles/-/189579
・東洋経済ONLINE:「働き方法案」に潜むブラック要素を検証する
http://toyokeizai.net/articles/-/189579
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
なぜモンゴルがあれほど大きな帝国を築くことができたのか。小さな部族出身のチンギス・ハーンは遊牧民の部族長たちに推されて、1206年にモンゴル帝国を建国する。その理由としていえるのは、チンギス・ハーンの圧倒的なカリス...
収録日:2022/10/05
追加日:2023/01/07