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「最低賃金」が「生活保護」より安いのは本当か?
格差と分断が社会の大問題となる中で、いつも真っ先に取り上げられるのが「生活保護」と「最低賃金」。この2つは比較されることも多く、最低賃金が生活保護より安いという話や、そもそもこの2つは比較すべきではないという意見も見られます。
実際のところ、最低賃金で働く方が損なのか。どんな議論が望ましいのか、今回はこの点について考えていきます。
2015年7月15日に厚生労働省が最低賃金で働いた場合の手取り収入が生活保護費を下回る「逆転現象」が起きていないと発表したことに対して、藤田氏は、「結論から言えば、『最低賃金は依然として低いまま』であり、実質的な生活保護基準と比較したなら、最低賃金の方がはるかに低い」と喝破したのです。
記事では、この厚労省の算定方法のずさんさを暴いています。たとえば、厚労省の算定方法では、普通に働いた場合を「週40時間」として、計上しているのですが、ここには「祝日や夏季休暇、年末年始休暇など」は含まれておらず、とても現実的な数値とはいえないということです。
さらに良くないことに、バッシングの矛先が「生活保護」に向かうように意図的に方向づけされていたのではないかと推測しています。
それに対し、藤田氏は「生活保護」と「最低賃金」はそもそも制度的な機能が異なることを理解し、もし比較されるのであれば、正しく比較されるべきであり、それを議論するより先に、諸外国に比べて、日本の「最低賃金が低すぎる」ことを直視すべきだ述べています。
現在、アベノミクス効果もあって、最低賃金の「全国平均」は上昇傾向にあります。しかしながら、日経新聞によると、2017年現在、最低賃金はなんと200円超もの地域格差があるそうです。
この「全国平均」という言い方には実に注意すべきでしょう。上記の厚労省の算出における時給も、「全国平均」で計算されています。
「BUSINESS INSIDER JAPAN」の記事では、ベーシックインカムについて「全ての人に生活に最低限必要なお金を無条件に支給する制度」と説明しています。これなら、すべてに平等なので、「最低賃金」派と「生活保護」派が争いになることはありません。
実現可能性について、希望の党所属の木内孝胤衆院議員によると、今からでも「国民の新たな負担増はなく、国民に月額5万円程度のベーシックインカム給付がすでに可能」なのだそうです。
ただし、このベーシックインカム案の中身は、各種控除の全廃を前提としており、「控除をすべてなくせば最低生活費にも税金がかかり低所得者層にとっては大増税」となることから、「弱者切り捨て」「矛盾だらけのバラマキ」という意見もあります。
「最低賃金」派と「生活保護」派の対立構図が、最低賃金の全国平均が上がったことで解消するのかと思えば、今度は「最低賃金が低い地域」と「最低賃金が高い地域」の格差が生まれ、加えて、ベーシックインカム制度案が現実感をもって浮上してきました。
「生活保護」受給者に対するバッシングはいまだ健在です。ベーシックインカムに対しては「弱者切り捨て」という意見もあります。社会が分断されることのない社会保障制度にたどり着くまで、まだ時間がかかりそうです。
実際のところ、最低賃金で働く方が損なのか。どんな議論が望ましいのか、今回はこの点について考えていきます。
2015年の厚労省の発表はウソ?
2015年の記事になりますが、「Yahoo!ニュース」に「生活保護」と「最低賃金」の比較について、NPOほっとプラス代表理事の藤田孝典氏の意見が掲載されています。2015年7月15日に厚生労働省が最低賃金で働いた場合の手取り収入が生活保護費を下回る「逆転現象」が起きていないと発表したことに対して、藤田氏は、「結論から言えば、『最低賃金は依然として低いまま』であり、実質的な生活保護基準と比較したなら、最低賃金の方がはるかに低い」と喝破したのです。
記事では、この厚労省の算定方法のずさんさを暴いています。たとえば、厚労省の算定方法では、普通に働いた場合を「週40時間」として、計上しているのですが、ここには「祝日や夏季休暇、年末年始休暇など」は含まれておらず、とても現実的な数値とはいえないということです。
問題の根っこは「日本の最低賃金が低すぎること」
詰まるところ、「厚労省によって『最低賃金』は高く算定され、『生活保護基準』は低く算定されるように仕組まれている」と藤田さんは主張しています。算定は、「結論ありき」だったともいえるわけです。さらに良くないことに、バッシングの矛先が「生活保護」に向かうように意図的に方向づけされていたのではないかと推測しています。
それに対し、藤田氏は「生活保護」と「最低賃金」はそもそも制度的な機能が異なることを理解し、もし比較されるのであれば、正しく比較されるべきであり、それを議論するより先に、諸外国に比べて、日本の「最低賃金が低すぎる」ことを直視すべきだ述べています。
現在、アベノミクス効果もあって、最低賃金の「全国平均」は上昇傾向にあります。しかしながら、日経新聞によると、2017年現在、最低賃金はなんと200円超もの地域格差があるそうです。
この「全国平均」という言い方には実に注意すべきでしょう。上記の厚労省の算出における時給も、「全国平均」で計算されています。
ベーシックインカムは希望になるか
生活保護や最低賃金などに代えて、労働者と失業者を守るための新たな社会制度として「ベーシックインカム」制度が、小池百合子氏が率いる希望の党が先日行われた2017年総選挙で公約として掲げていたこともあって、大きな注目を浴びています。「BUSINESS INSIDER JAPAN」の記事では、ベーシックインカムについて「全ての人に生活に最低限必要なお金を無条件に支給する制度」と説明しています。これなら、すべてに平等なので、「最低賃金」派と「生活保護」派が争いになることはありません。
実現可能性について、希望の党所属の木内孝胤衆院議員によると、今からでも「国民の新たな負担増はなく、国民に月額5万円程度のベーシックインカム給付がすでに可能」なのだそうです。
ただし、このベーシックインカム案の中身は、各種控除の全廃を前提としており、「控除をすべてなくせば最低生活費にも税金がかかり低所得者層にとっては大増税」となることから、「弱者切り捨て」「矛盾だらけのバラマキ」という意見もあります。
「最低賃金」派と「生活保護」派の対立構図が、最低賃金の全国平均が上がったことで解消するのかと思えば、今度は「最低賃金が低い地域」と「最低賃金が高い地域」の格差が生まれ、加えて、ベーシックインカム制度案が現実感をもって浮上してきました。
「生活保護」受給者に対するバッシングはいまだ健在です。ベーシックインカムに対しては「弱者切り捨て」という意見もあります。社会が分断されることのない社会保障制度にたどり着くまで、まだ時間がかかりそうです。
<参考サイト>
・Yahoo!ニュース:「最低賃金」と「生活保護基準」の「逆転現象」は解消されていない!
https://news.yahoo.co.jp/byline/fujitatakanori/20150717-00047593/
・NIKKEI STYLE:最低賃金、200円超の地域差 地方は人口流出を懸念
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO21263080Z10C17A9905E00?channel=DF010320171966
・BUSINESS INSIDER JAPAN:希望の党「ベーシックインカム公約」発案者を直撃
https://www.businessinsider.jp/post-105678
・Yahoo!ニュース:「最低賃金」と「生活保護基準」の「逆転現象」は解消されていない!
https://news.yahoo.co.jp/byline/fujitatakanori/20150717-00047593/
・NIKKEI STYLE:最低賃金、200円超の地域差 地方は人口流出を懸念
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO21263080Z10C17A9905E00?channel=DF010320171966
・BUSINESS INSIDER JAPAN:希望の党「ベーシックインカム公約」発案者を直撃
https://www.businessinsider.jp/post-105678
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