テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.11.28

有給を【100%】消化する方法

 「2020年までに有給休暇取得率70%とする」

 これは、2017年3月、政府が主導する「働き方改革実行計画」で掲げられた数値目標になります。

 そして、改正が予定される労働基準法においては、有給休暇の義務化が見込まれています。具体的に、会社は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうちの5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないというものです。

有給休暇の取りにくさ

 労働者の権利であるといわれている有給休暇ではありますが、ご自身の職場を顧みるまでもなく、なかなか取りにくい状況を反映しての「働き方改革実行計画」の数値目標であることがご理解できるのではないでしょうか。

 その取りにくさは、職場環境のみならず、有給休暇についての正しい知識が不足しているところにあるといってよいでしょう。

 少ないスタッフでまわしている仕事環境では、一人休んだときの負担から、なかなか申請しにくいという雰囲気、また、人事評価にマイナスになるのではという懸念も影響しているようです。

 しかし、こうした有給取得申請から、労働者の不利益になるような会社の扱いは、労働基準法附則136条で禁止されています。

 労働者の権利である有給休暇取得について、取りにくさのある環境を是正するのは経営の役割であり責任なのです。

有給休暇申請と時季変更権

 では、会社サイドは、労働者の有給休暇取得に対して、どんな状況でも断ることはできないのでしょうか?

 労働者の有給申請は日時の指定があります。その取得日時に事業の正常な運営が妨げられるときには、会社は年休取得を拒否する権利、労働基準法39条5項但書による時季変更権が設定されています。

 この時季変更権は、事業の内容、規模、労働者の担当業務、忙しさ、他の労働者の休暇状況など様々な要因を考慮して判断し、労働者の希望が実現できるように配慮を行うことが求められます。

 なお、日常的な業務の忙しさ、慢性的な人手不足を理由に、時季変更権を行使することはできません。慢性的な人手不足は経営責任なのです。人手不足を理由に時季変更権を行使できれば、その会社ではおよそ有給休暇がとれなくなってしまうからです。

有給休暇を100%消化する方法

 そうはいっても、なかなか簡単にはいかない有給休暇。実際には退職時にまとめて消化というケースが多いようです。そして、退職時にも消化させない悪質な企業もあり、その場合にはとっておきの方法があります。それは、「弁護士に依頼して辞職の意思表示を内容証明でしてもらう。そこに有休取得の意思表示も書いてもらう」という方法です。BLOGOSに掲載されているおおたかの森法律事務所の三浦義隆弁護士による記事によると、「過去に私は同種の内容証明を何度も出しているが、今のところこれで支払われなかった経験はない」とのこと。

 退職時に強引に取得するためにこのような方法もあるのですが、通常、時季についての変更の可能性はあるものの、ご自身の意志の表明次第で、有給休暇は100%取得できることを理解しておきましょう。会社や同僚への気遣い以上に、よりよい労働環境を目指すために有給休暇申請にためらう必要はありません。「働き方改革」が結果的にどのような法律になるか気になるところではありますが、職場環境を改善するためにも、ぜひ有給休暇は100%消化するようにしましょう。

 もし、有給休暇申請に、会社サイドの理不尽な拒否、時季変更権の行使があるなら、速やかに労働基準監査署に相談することをオススメします。

<参考サイト>
・首相官邸:働き方改革実行計画
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/01.pdf
・厚生労働省:有給休暇ハンドブック
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kinrou/dl/040324-17a.pdf
・BLOGOS:退職の際に有休消化させない企業でも強引に消化する方法
http://blogos.com/article/219414/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム

「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長
2

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発

日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
3

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉

現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
4

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家

数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
5

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性

なぜモンゴルがあれほど大きな帝国を築くことができたのか。小さな部族出身のチンギス・ハーンは遊牧民の部族長たちに推されて、1206年にモンゴル帝国を建国する。その理由としていえるのは、チンギス・ハーンの圧倒的なカリス...
収録日:2022/10/05
追加日:2023/01/07
宮脇淳子
公益財団法人東洋文庫研究員