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DATE/ 2017.12.04

日本は1000兆円の借金をどうやって減らすのか?

 日本の国債残高は1000兆円を超え、名目GDPの2倍強にまで達しています。一部のマスコミは、この数字だけを大きく取り上げて「日本破綻」のシナリオを描いてみせますが、政策をより近くで観察する経済学者の見方はもっと落ち着いたものです。ここでは学習院大学国際社会科学部の伊藤元重教授による「借金の減らし方」と「日本の財政のあり方」の関係を、ごくかいつまんで聞いてみましょう。

借金の原因と返済しない場合のリスクをきちんと見つめる

 国債残高すなわち国の借金が、政府にとって最重要の課題であるのは間違いありませんが、「そもそもいつ、どのようにできたのか」という原因と、「返済をしぶったらどうなるのか」の結果を真剣に見つめることが肝心だと、伊藤教授は示唆します。

 戦後の日本は、バブル崩壊直前まで財政黒字を達成してきました。バブル崩壊と経済低迷のなか、税収激減により収入面で国庫は、景気対策として多額の財政支出や赤字国債の発行を繰り返したのです。これが「財政赤字」の原因で、時間的に見ると1990年代の初めから2015年まで、約25年かけて積もらせた結果が現在の数字となっています。

 25年かけて増やした借金を3年や5年で返すことはまず不可能ですが、ここには国際的な「信義」がかかっています。日本の財政に対する不安感が募り、マーケットの信任が揺らいだときには、即座に国債の金利上昇となって跳ね返る可能性があります。仮に現在0.5%程度の10年物国債の金利が2.5%にまで上がったとすれば、1000兆円の2%の金利負担を負わねばならなくなります。それは日本にとって本当に避けたい「危機」です。

借金を減らす最大の特効薬は、成長率アップによる「穏やかなインフレ」

 政府にとって優先順位が高いのは、財政健全化に向けていかに日本が努力しているかを、きちんと形にしてアピールすること。いわば借金を減らすための下地作りといえるでしょう。財政健全化政策として政府が現在基本方針としているのは、財政赤字の削減と社会保障改革の二本柱。前者のためには歳出カットと消費税率のアップが議論され、後者のためには医療や年金を量から質へ改革することが要求されています。

 財政健全化へのめどさえ立てば、そこから借金を徐々に返済することに取り掛かっても遅くありません。伊藤教授が描いているのは、25年かけて増やした債務を、30年がかりで80%台に減らすシナリオです。

 それを可能にするのが、政府の強調する「GDP名目成長率3%」の達成です。これができれば、30年運用することにより、借金の分母は1.03の30乗の計算で2.4倍になります。借金総額という分子は変わらなくても、分母が増えることにより、30年後の債務GDP比率は、現在の200%から83~84%にまで下げられるのです。なんとも頭のいい方法ではないでしょうか。

 25年間の借金を増やした最大の理由は、デフレと経済的低迷。それを減らす最大の特効薬は、成長率アップによる「穏やかなインフレ」だと伊藤教授。デフレ慣れした国民生活も、そろそろ転換を迫られているのでしょう。
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