社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.12.13

「死ぬほどつらい」のに会社を辞められない理由

 『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』という漫画をご存知でしょうか。電通の新入社員の過労自殺報道の直後、センセーショナルなタイトルで発表されたこともあり、大きな話題を呼びました。

 エキサイトニュース(2017年11月2日)は、10月20日に「ブックスあんとく 三瀦店」のビジネスランキングで1位を獲得と報じており、今なお多くの読者を獲得し続けているようです。

 本書にもとづいて、「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができなくなる理由、また、どうすれば過労自殺を防ぐことができるのかを追跡したいと思います。

リツイート数は約30万、「いいね」は約26万、漫画の総閲覧数は3000万人

 日経トレンディの記事によると、『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』は、広告制作会社の元グラフィックデザイナーで、現在はイラストレーター・漫画家の著者・汐街コナさんが「昔、その気もないのにうっかり自殺しかけました。」という、過労自殺についての漫画をツイッターに投稿したことがきっかけで企画されたのだそうです。

 当時、投稿された漫画は、仕事に追われ、長時間労働やパワハラなどのストレスに苦しむ多くの人から共感を集め、「おかげで会社辞められました、ありがとう」「リアルすぎて泣ける」というコメントなどが寄せられ、リツイート数は約30万、「いいね」数は約26万を超え、漫画の総閲覧数は3000万人に達しました。

なぜそうなる前に辞めなかったんだろう

 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「BOOKasahi」の書評で、本書について「ベストセラーになるべくしてなったと言える本であり、おそらく誰もが「もっと多くの人に届いてほしい」と感じるであろう今年屈指の好著だ」と絶賛しています。

 また書評では、先述の電通の話に触れ、「なぜそうなる前に辞めなかったんだろう」と思った人も少なくなかったはずだと述べたうえで、本書では、これを「学習性無力感」という心理学用語で説明しています。それは、人や動物がストレスを受け続けると、その状況から逃げ出そうとする努力すら行わなくなってしまうという現象のことだと本書の監修者・ゆうきゆう氏(精神科医)の解説を紹介しています。

過労死ラインを見極めるために

 マイナビニュースでは、本書を手引きに「労働時間だけでは見極められない過労死ライン」について取り上げています。

 一般的な過労死ラインは「残業時間が月平均80時間以上」とされています。しかし、それだけではなかなか見極めるのが難しいのです。それに対して、「がんばっていることが自分自身で決めたことかどうか」「がんばったことの成果がわかりやすいかどうか」の2点が、がんばり続けても大丈夫か否かを見極める際に重要な要素になるという本書の指摘を取り上げています。
 
 さらに、「眠れない」「食欲がわかない」「仕事に行きたくない」「好きなことや趣味が楽しく思えない」「死について考えることが増えてきた」の5つのなかで、3つ以上に該当する場合は「即座に医療機関を受診すべきだとしている」と記されています。

 ということで、汐街コナさんの実体験のツイートから始動した本書が、過労自殺問題に一石を投じたということは間違いないでしょう。それだけこの問題が与えた影響は大きかったということす。

 ちなみに、本コラムで取り上げた「過労死ライン」については、連合(日本労働組合総連合会)も同様のチェックリストを公表しているので、もし、別の指標が欲しいという方は、そちらもご参照ください。

<参考文献・参考サイト>
・『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』(汐街コナ著、ゆうきゆう監修、あさ出版)
・エキサイトニュース:ブラック企業でお勤めでお悩みの方々必須『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』著者汐街コナ、監修ゆうきゆうが、「ブックスあんとく 三瀦店」のビジネスランキングで1位を獲得
https://www.excite.co.jp/News/release/20171102/Dreamnews_0000163000.html
・日経トレンディ:書名が話題「死ぬくらいなら会社辞めれば」にした理由 リツイート数約30万の漫画が書籍化
http://trendy.nikkeibp.co.jp/atcl/pickup/15/1008498/051000742/?rt=nocnt
・BOOKasahi:「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由[著]汐街コナ[監修]ゆうきゆう
http://book.asahi.com/reviews/column/2017062500002.html
・マイナビニュース:「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由に学ぶ過労死防止への心構え
http://news.mynavi.jp/articles/2017/04/20/overwork/001.html
・連合「過労死防止のためのチェックリスト」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/digestnews/monthly/4509
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴

国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
小原雅博
東京大学名誉教授
2

大統領選が10年早かったら…全盛期のヒラリーはすごすぎた

大統領選が10年早かったら…全盛期のヒラリーはすごすぎた

内側から見たアメリカと日本(5)ヒラリーの無念と日米の半導体問題

ヒラリー・クリントン氏の全盛期は、当時夫のクリントン氏が大統領だった2000年代だったという島田氏。当時、ダボス会議での彼女の発言が全米の喝采を浴びたそうだが、およそ10年後、大統領選挙でトランプ氏と対峙した際、彼女...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/24
3

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法

「熟睡とは健康な睡眠」だと西野氏はいうが、健康な睡眠のためには具体的にどうすればいいのか。睡眠とは壊れやすいもので、睡眠に影響を与える環境要因、内面的要因、身体的要因など、さまざまな要因を取り除いていくことが大...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/23
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
4

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方

人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?

不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実

改革開放当時の中国には技術も資本もなく、工場を建てる土地があるだけだった。経済成長とともに市民が不動産を複数所有する時代となり、地価は高騰し続けた。だが、習近平政権による総量規制は不動産価格を低下させ、消費低迷...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/10/16
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使