社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
脱サラして成功した「農業×ITベンチャー企業」
最近、スーパーで通常の陳列とは別に囲った野菜売り場を見かけることが多くなりました。よく見ると、そこには「農家の直売所」の文字が。これこそが、及川智正氏が代表をつとめる株式会社農業総合研究所(以下、農業総合研究所)の販売コーナーなのです。
及川氏いわく「農業×ITベンチャー企業」として、ITを駆使し、新しい農産物流通プラットフォームを創造し続けているこの会社。平成28年6月には、農業ベンチャー初の上場企業として東証マザーズに上場し、業界で話題となりました。新規業態として躍進中の農業総合研究所のスタートのきっかけは、実は及川氏の「農家さんに消費者からの“ありがとう”を届けたかった」という思いにありました。
大学卒業時はバブル崩壊の最中で、やりたいことをすぐにできる環境ではなかったため、半導体を扱う会社で営業職についたものの、及川氏は常に「日本の農業をなんとかしたい」という思いを抱き続けていました。そこで、とうとう結婚という人生の節目に、和歌山でキュウリ農家を始めたのです。
なぜ、キュウリ農家なのか。農業の衰退を食い止めるにはその「仕組み」を変えなければいけない。そのためにはまず自分で生産者として農業を体験してみる必要がある、と考えたからです。
もう1つは、一農家では、日本の農業の仕組みを変えるといった大事業は不可能ということ。そこで、今度は生産ではなく「販売」の側面から農業改革にチャレンジしよう、と自身で農家から直接仕入れる「産直八百屋」を始めました。
ところが、ここでさらに問題点が浮かび上がります。つまり、生産者としては1円でも高く売りたい。販売者としては1円でも安く仕入れたい。同じ農業に関わることなのに立場が変わると、考え方が正反対になってしまったのです。
及川氏の脱サラ人生は、決して一直線の道のりではありませんでしたが、「ありがとう」を現場の人々に届けたい、「ありがとう」の一言で農業を盛りあげたい。この思いが、なによりの支えであったのは間違いありません。農業に限らず、脱サラ成功の鍵はこうした「誰かのためになりたい」にあるのかもしれません。
農業界のプラットフォーム業のきっかけは…
農業総合研究所は全国の生産農家から野菜や果物を集める集荷場を72拠点持っており、この拠点を活用してスーパーマーケットを中心にコーナーを構えて、新鮮な野菜、果物を供給するビジネスを行っています。登録農家は約7200名、直売所を設けているスーパーは約1100店舗にのぼり、農業総合研究所は集荷した生産物を流通させるいわゆる「プラットフォーム業」をメインに行っています。及川氏いわく「農業×ITベンチャー企業」として、ITを駆使し、新しい農産物流通プラットフォームを創造し続けているこの会社。平成28年6月には、農業ベンチャー初の上場企業として東証マザーズに上場し、業界で話題となりました。新規業態として躍進中の農業総合研究所のスタートのきっかけは、実は及川氏の「農家さんに消費者からの“ありがとう”を届けたかった」という思いにありました。
農業の危機をなんとかしたくてキュウリ農家に
東京農業大学の農業経済学科で学んだ及川氏の卒論テーマは、日本の農業の将来予測だったそうです。その研究の結果は、50年後も100年後も今と同じ傾向が続く。つまり、農業人口はどんどん減り、生産農家の平均年齢は上がる一方、従って食料自給率は右肩下がりという希望がひとかけらも見い出せないという現実を、及川氏は目の当たりにしたのです。大学卒業時はバブル崩壊の最中で、やりたいことをすぐにできる環境ではなかったため、半導体を扱う会社で営業職についたものの、及川氏は常に「日本の農業をなんとかしたい」という思いを抱き続けていました。そこで、とうとう結婚という人生の節目に、和歌山でキュウリ農家を始めたのです。
なぜ、キュウリ農家なのか。農業の衰退を食い止めるにはその「仕組み」を変えなければいけない。そのためにはまず自分で生産者として農業を体験してみる必要がある、と考えたからです。
生産者と販売者を経験してわかったこと
その結果、見えてきたことが2つありました。1つは、「農業はつまらない仕事だ」ということ。なぜならば、農家は誰からも「ありがとう」と言ってもらえないからだ、と及川氏は痛切に感じたと言います。農協に品物を出荷したらそれで終わり。自分が精魂こめて育てた野菜や果物が、そこからどんな店に出荷されて、どんな人に買われて、どのように食べてもらっているのか。全くと言っていいほど分からないというのが、農業という仕事の現実でした。これではモチベーションの上げようがありません。もう1つは、一農家では、日本の農業の仕組みを変えるといった大事業は不可能ということ。そこで、今度は生産ではなく「販売」の側面から農業改革にチャレンジしよう、と自身で農家から直接仕入れる「産直八百屋」を始めました。
ところが、ここでさらに問題点が浮かび上がります。つまり、生産者としては1円でも高く売りたい。販売者としては1円でも安く仕入れたい。同じ農業に関わることなのに立場が変わると、考え方が正反対になってしまったのです。
決定的な問題点をビジネスヒントに
しかし、この生産者と販売者の間のジレンマという問題点が、農業総合研究所のビジネスヒントとなりました。全く正反対の立場にある生産と販売の交わる「流通」をうまくコーディネートできれば、農業という産業の可能性が見えてくるかもしれない。このように及川氏は考えて、なけなしの50万円を投じて農業総合研究所を設立したのです。及川氏の脱サラ人生は、決して一直線の道のりではありませんでしたが、「ありがとう」を現場の人々に届けたい、「ありがとう」の一言で農業を盛りあげたい。この思いが、なによりの支えであったのは間違いありません。農業に限らず、脱サラ成功の鍵はこうした「誰かのためになりたい」にあるのかもしれません。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
社会的時差ボケの発生には、働き方も大きな影響をもっている。特にシフトワークによって不規則な生活リズムを強いられる業種ではその回避が難しい。今回は、発がんリスク、メンタルヘルスの不調など、シフトワークが抱える睡眠...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/08/30