社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
ディズニーの構想力とブランド戦略の基本
2018年4月15日、東京ディズニーランドが開園35周年を迎えました。「千葉なのに“東京”って」「お弁当の持ち込み禁止だなんて」とあれこれ言われつつも、常に関東圏の観光をリード。上質のアトラクションの数々や園内の徹底的な清掃、そしてそれらを支えるスタッフ教育で、日本においても「ディズニーランド」のブランド力を不動のものにしたからこその35周年と言えるでしょう。
ディズニーのシンボル的存在であるミッキーマウスは1928年に映画デビューをしていますが、この時すでにウォルト・ディズニーの頭の中では「ディズニーレシピ」と呼ばれる全体構想が形を成していました。映画事業を核とし、その周辺にハブとなるディズニーランドやテレビ、人形などのグッズによるマーチャンダイジング、出版、音楽の各事業を置き、それぞれを連携させた全体構想です。どの時代にも、そして幅広い年齢層に支持されるブランド構想を、ディズニーは第一歩のスタートをきった時から持っていました。
田中氏は、このディズニーの成功事例から「偉大なブランドの根本には、確固とした構想がある」というブランド戦略の基本を導き出します。
そこで田中氏が勧めるのが「ブランドについて考える時は、“ブランド”という言葉を使わない」ということ。つまり、「ブランドとは何か」と大まかなテーマを掲げるのではなく、「自社の商品について、消費者にどのようなイメージを持ってもらいたいのか」と考える。社内の組織をブランドでまとめるインターナルブランディングについても「社内の意識を統一して考えよう」と言い替えてみる。ブランドという言葉を使わずに議論した方が、かえってブランドについて具体的な意見、考えが出しやすくなるというわけです。
はとバス「なら」できる。はとバスに「しか」できない。はとバスの「ならしか」ってなんだろう、と運転手もガイドも一緒になって考え、一人でも気軽に参加できるツアー、さまざまな体験ツアー、利用客の声を反映する仕組みなどが盛り込まれていきました。結果、今では「東京人を都内観光させる」と言われるほどのブランド力を復活させました。
ブランド戦略と聞くとちょっと身構えてしまいますが、ブランドの全体像を描く。「ブランド」という言葉を言い替えて具体的に発想していく。こうした基本的な作業が強いブランドの鍵となるようです。
ウォルト・ディズニーのブランド構想力
中央大学大学院戦略経営研究科教授であり『ブランド戦略論』(有斐閣)の著者である田中洋氏も、このディズニーという一大ブランドのあり方に注目しています。ブランド戦略においては、企業のコミュニケーション力で発信するロゴやシンボル、キャラクターといった見える部分が重要なのは当然なのですが、それと同様、あるいはそれ以上に見えない部分の経営戦略やマーケティングが要となります。こうした経営からコミュニケーションまでを一連のプログラムのようにブランド構築する。その構想力が非常に重要であり、ウォルト・ディズニーはその構想力に長けていた、と田中氏は分析します。ディズニーのシンボル的存在であるミッキーマウスは1928年に映画デビューをしていますが、この時すでにウォルト・ディズニーの頭の中では「ディズニーレシピ」と呼ばれる全体構想が形を成していました。映画事業を核とし、その周辺にハブとなるディズニーランドやテレビ、人形などのグッズによるマーチャンダイジング、出版、音楽の各事業を置き、それぞれを連携させた全体構想です。どの時代にも、そして幅広い年齢層に支持されるブランド構想を、ディズニーは第一歩のスタートをきった時から持っていました。
田中氏は、このディズニーの成功事例から「偉大なブランドの根本には、確固とした構想がある」というブランド戦略の基本を導き出します。
「ブランドって何?」を考えるために
しかし、ここで田中氏が一つの問題点を提示します。それは「ブランドとは何か」というそもそもの問題です。田中氏はブランドの定義は常にあいまいであり、ブランドをテーマに会議を行うと議論百出状態になってしまうと言います。「ブランド力で勝負しよう」「わが社のブランドに問題があるのではないか」「もっとブランドのオリジナリティを追求するべきだ」…こういったお題目には皆賛成しても、ではいざその「ブランド」についてどうしたらよいのかを議論するとなると、途端に焦点がぼやけてしまうのです。そこで田中氏が勧めるのが「ブランドについて考える時は、“ブランド”という言葉を使わない」ということ。つまり、「ブランドとは何か」と大まかなテーマを掲げるのではなく、「自社の商品について、消費者にどのようなイメージを持ってもらいたいのか」と考える。社内の組織をブランドでまとめるインターナルブランディングについても「社内の意識を統一して考えよう」と言い替えてみる。ブランドという言葉を使わずに議論した方が、かえってブランドについて具体的な意見、考えが出しやすくなるというわけです。
「ならしか」で復活したはとバス
この方式で、見事ブランドの活性化を果たした成功例が、はとバスの「ならしか運動」です。東京都内のいくつもの観光コースを有するはとバスですが、邦人客数が落ち込み、頼みの外国人観光客も地方に分散したりと、一時期かなり業績は低迷したのです。そこで、サービスの質を向上するブランド活動強化に乗り出したのですが、その際に「ブランド活動」ではなく「ならしか運動」という言葉を使ったのです。はとバス「なら」できる。はとバスに「しか」できない。はとバスの「ならしか」ってなんだろう、と運転手もガイドも一緒になって考え、一人でも気軽に参加できるツアー、さまざまな体験ツアー、利用客の声を反映する仕組みなどが盛り込まれていきました。結果、今では「東京人を都内観光させる」と言われるほどのブランド力を復活させました。
ブランド戦略と聞くとちょっと身構えてしまいますが、ブランドの全体像を描く。「ブランド」という言葉を言い替えて具体的に発想していく。こうした基本的な作業が強いブランドの鍵となるようです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの
徳と仏教の人生論(6)物事の本質を見極めるために
10年の修行で自我を手放し宇宙と一体化する境地に達すると、自分中心からホリスティックな視点に変わり、物事の表と裏の共通点が見えてきて、その本質がつかめるという田口氏。人生は常に新たな命題を解き明かし続ける旅である...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/11/08
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
40代前半に訪れる「中年の危機」、鍵は「人生の成長戦略」
人生100年時代の「ライフシフト概論」(3)キャリアの危機〈下〉
40代前半で訪れる「中年の危機」を脱するためには、会社中心の人生から「未来は自分で作る」という自分を中心とした人生への意識転換が必要だ。そのためのカギは、「Will・Can・Create」の3つから自分の「人生の成長戦略」を考...
収録日:2022/06/15
追加日:2022/09/24


