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電子書籍は売れているのか?今後の展望は?
2018年7月30日、電子書籍ビジネス黎明期である2003年から電子書籍ビジネス調査し報告書を発行しているインプレス総合研究所が、2017年度の電子書籍の市場規模を予測した『電子書籍ビジネス調査報告書2018』(以下『調査報告書』)を発行しました。
『調査報告書』では、2017年度の電子書籍市場規模を2241億円と推計し、2016年度の1976億円から金額にして265億円、対前年度比13.4%の増加としています。さらに電子雑誌市場規模の315億円(2016年度より金額にして13億円、対前年度比14.3%増)と推計。合わせて2556億円となり、2500億円を突破したことを発表しました。
ところで、そもそも「電子書籍」とは何なのでしょうか。
元京都大学総長・元国立国会図書館長の長尾真氏監修の『デジタル時代の知識創造』では、「電子書籍とは、業界が命名した言葉である。“書籍”という語は、通常の本を雑誌と区別して呼ぶ際の業界用語であり、一般には本とか書物としか言わない」と定義しています。ただし本コラムでは「電子書籍」をさらに汎用的にとらえ、電子雑誌や電子コミックなども含めた「オンスクリーンで読む本」の実態として、考えてみたいと思います。
1990年代よりCD-ROMやフロッピーディスクなどを使ったデジタルデータ化された書籍、いわゆる電子ブックやデジタル書籍が販売されるようになっていましたが、電子書籍の配信は2000年に開始されました。この2000年が「電子書籍元年」とよばれるようになります。ただし、この頃はあまり人気がでませんでした。
そして2010年も「電子書籍元年」と言われています。その理由を「Mr.電子書籍」と呼ばれる萩野正昭氏が『電子書籍奮戦記』で「一つのきっかけはアマゾンのKindle、アップルのiPadなど、電子書籍を読むためのハードが登場したこと<中略>この使い勝手の良さはこれまでなかったもの」と述べています。また同時期に、スマートフォンやタブレットといった手頃なハードの普及が伴ったことも、電子書籍利用者の増加につながりました。
『調査報告書』では電子書籍市場と電子雑誌市場を合わせて電子出版市場と定義していますが、日本の電子出版市場は2018年度以降もゆるやかな拡大基調を続け、2022年度には2017年度の1.4倍の3500億円程度になると予測しています。こうした市場の動向や調査結果、市場予測を見てみると、電子書籍の売上は上々で展望も明るいと思えるかもしれません。
しかし『調査報告書』を分析したクリエイシオン代表・早稲田大学非常勤講師の高木利弘氏は、「全体的な傾向として言えることは、2013年度から2016年度まで続いてきた対前年比20%以上の成長率が、2017年度は約10%とスローダウン」し、電子書籍市場の成長にブレーキがかかったことを懸念しています。
また、全国出版協会も「2017年の出版市場(電子)」として、推定販売金額を前年比16.0%増の2215億円と発表しており、電子書籍の点数の増加と比例して売上げが上昇していることを報告していますが、同時に伸び率が縮小していることも示唆しています。
同じく全国出版協会の「2017年の出版市場(紙)」を見てみると、紙の出版物(書籍・雑誌合計)推定販売金額を前年比6.9%減の1兆3701億円と発表しています。このマイナス分は電子書籍の増加分をもってしても補填とならず、かつ13年連続のマイナスであり、書籍全般、出版業界全体の売上が落ちていることがわかります。
他方、日本以外ではどうでしょうか。一例としてアメリカの近況をみてみましょう。
米出版社協会によると、2017年1~6月期の電子書籍全体の販売額は前年同期比4.6%減の5億5570万ドルと減少が続くなど、アメリカでは2年以上電子書籍の販売が減り続けているとのこと。その背景には、2015年に大手出版社が電子書籍を値上げしたことやタブレット端末を長時間使うことによる「デジタル疲れ」があるとされ、ひるがえって日本の文庫本に相当するペーパーバックへの回帰が進んでいるそうです。
まず「1.ハードの課題」は、端末やPCなど、オンスクリーンで表示する機器をはじめとした情報発信用のコンテナ(入れ物)から電源の確保までといったハードウェア全般の課題です。
次に「2.ソフトの課題」は、いわゆるコンテンツといった書籍の内容やテーマ、中身に関する課題を指します。
そして「3.コンテキストの課題」は、紙の書籍のように単なる文脈だけでなく、電子書籍ならではのつながりを可能にする、電子書籍を取り巻くある種の環境までを含んだ課題のことです。
さらに「4.システムの課題」は、出版元のデータ作成部門の体制や社を超えたデータフォーマット統一といった課題から、各電子書籍ストアと出版社の価格決定権、刊行時期、閲覧権や信頼性、「デジタル著作権管理(DRM)」など、一企業から業界全体、社会全般や法律といった制度や体系にまつわる課題があります。
最後は「5.ユーザーの課題」です。萩野氏が『電子書籍奮戦記』で「読書と本とがあまりにも密接に結びついていて、この二つが別物だとは誰も思えなくなっていました。“読書”と“紙”と言い換えてもいいでしょう」と述べているように、いわゆる紙の書籍の形態があまりにも読書に適していたため、特に読書好きな読者ほどユーザーとして「書籍」の固定観念に縛られてしまい、紙の書籍とは違った電子書籍の良さに気がつけなくなっているのかもしれません。
しかし電子書籍の良さを見逃すことは、とてももったいないことです。紙の書籍と同じく書籍としての大いなる価値を、そして紙とは違う電子を介した媒体としての多様な可能性を、電子書籍を読むことによって読者が手に入れることができるようになれば、電子書籍の売上も上がり、ひいては電子書籍の展望も明るくなるのかもしれません。
『調査報告書』では、2017年度の電子書籍市場規模を2241億円と推計し、2016年度の1976億円から金額にして265億円、対前年度比13.4%の増加としています。さらに電子雑誌市場規模の315億円(2016年度より金額にして13億円、対前年度比14.3%増)と推計。合わせて2556億円となり、2500億円を突破したことを発表しました。
ところで、そもそも「電子書籍」とは何なのでしょうか。
元京都大学総長・元国立国会図書館長の長尾真氏監修の『デジタル時代の知識創造』では、「電子書籍とは、業界が命名した言葉である。“書籍”という語は、通常の本を雑誌と区別して呼ぶ際の業界用語であり、一般には本とか書物としか言わない」と定義しています。ただし本コラムでは「電子書籍」をさらに汎用的にとらえ、電子雑誌や電子コミックなども含めた「オンスクリーンで読む本」の実態として、考えてみたいと思います。
二度の「電子書籍元年」を経て売上は上々?
日本において、電子書籍は二度の「電子書籍元年」を経てきました。1990年代よりCD-ROMやフロッピーディスクなどを使ったデジタルデータ化された書籍、いわゆる電子ブックやデジタル書籍が販売されるようになっていましたが、電子書籍の配信は2000年に開始されました。この2000年が「電子書籍元年」とよばれるようになります。ただし、この頃はあまり人気がでませんでした。
そして2010年も「電子書籍元年」と言われています。その理由を「Mr.電子書籍」と呼ばれる萩野正昭氏が『電子書籍奮戦記』で「一つのきっかけはアマゾンのKindle、アップルのiPadなど、電子書籍を読むためのハードが登場したこと<中略>この使い勝手の良さはこれまでなかったもの」と述べています。また同時期に、スマートフォンやタブレットといった手頃なハードの普及が伴ったことも、電子書籍利用者の増加につながりました。
『調査報告書』では電子書籍市場と電子雑誌市場を合わせて電子出版市場と定義していますが、日本の電子出版市場は2018年度以降もゆるやかな拡大基調を続け、2022年度には2017年度の1.4倍の3500億円程度になると予測しています。こうした市場の動向や調査結果、市場予測を見てみると、電子書籍の売上は上々で展望も明るいと思えるかもしれません。
しかし『調査報告書』を分析したクリエイシオン代表・早稲田大学非常勤講師の高木利弘氏は、「全体的な傾向として言えることは、2013年度から2016年度まで続いてきた対前年比20%以上の成長率が、2017年度は約10%とスローダウン」し、電子書籍市場の成長にブレーキがかかったことを懸念しています。
また、全国出版協会も「2017年の出版市場(電子)」として、推定販売金額を前年比16.0%増の2215億円と発表しており、電子書籍の点数の増加と比例して売上げが上昇していることを報告していますが、同時に伸び率が縮小していることも示唆しています。
紙の書籍との相関は? アメリカでは頭打ち?
一方、紙の書籍の売上げとの相関関係はどうなっているのでしょうか。同じく全国出版協会の「2017年の出版市場(紙)」を見てみると、紙の出版物(書籍・雑誌合計)推定販売金額を前年比6.9%減の1兆3701億円と発表しています。このマイナス分は電子書籍の増加分をもってしても補填とならず、かつ13年連続のマイナスであり、書籍全般、出版業界全体の売上が落ちていることがわかります。
他方、日本以外ではどうでしょうか。一例としてアメリカの近況をみてみましょう。
米出版社協会によると、2017年1~6月期の電子書籍全体の販売額は前年同期比4.6%減の5億5570万ドルと減少が続くなど、アメリカでは2年以上電子書籍の販売が減り続けているとのこと。その背景には、2015年に大手出版社が電子書籍を値上げしたことやタブレット端末を長時間使うことによる「デジタル疲れ」があるとされ、ひるがえって日本の文庫本に相当するペーパーバックへの回帰が進んでいるそうです。
電子書籍に潜む5つの課題
電子書籍には大きな可能性がありますが、同時に大きな課題が潜んでいると考えられます。電子書籍の課題は、大きく5つに分類することができます。まず「1.ハードの課題」は、端末やPCなど、オンスクリーンで表示する機器をはじめとした情報発信用のコンテナ(入れ物)から電源の確保までといったハードウェア全般の課題です。
次に「2.ソフトの課題」は、いわゆるコンテンツといった書籍の内容やテーマ、中身に関する課題を指します。
そして「3.コンテキストの課題」は、紙の書籍のように単なる文脈だけでなく、電子書籍ならではのつながりを可能にする、電子書籍を取り巻くある種の環境までを含んだ課題のことです。
さらに「4.システムの課題」は、出版元のデータ作成部門の体制や社を超えたデータフォーマット統一といった課題から、各電子書籍ストアと出版社の価格決定権、刊行時期、閲覧権や信頼性、「デジタル著作権管理(DRM)」など、一企業から業界全体、社会全般や法律といった制度や体系にまつわる課題があります。
最後は「5.ユーザーの課題」です。萩野氏が『電子書籍奮戦記』で「読書と本とがあまりにも密接に結びついていて、この二つが別物だとは誰も思えなくなっていました。“読書”と“紙”と言い換えてもいいでしょう」と述べているように、いわゆる紙の書籍の形態があまりにも読書に適していたため、特に読書好きな読者ほどユーザーとして「書籍」の固定観念に縛られてしまい、紙の書籍とは違った電子書籍の良さに気がつけなくなっているのかもしれません。
しかし電子書籍の良さを見逃すことは、とてももったいないことです。紙の書籍と同じく書籍としての大いなる価値を、そして紙とは違う電子を介した媒体としての多様な可能性を、電子書籍を読むことによって読者が手に入れることができるようになれば、電子書籍の売上も上がり、ひいては電子書籍の展望も明るくなるのかもしれません。
<参考文献・参考サイト>
・『デジタル時代の知識創造』(長尾真監修、KADOKAWA)
・「電子書籍」、『日本大百科全書』(小学館)
・『本のことがわかる本』(稲葉茂勝著、能勢仁監修、ミネルヴァ書房)
・『電子書籍奮戦記』(萩野正昭著、新潮社)
・「『電子書籍ビジネス調査報告書2018』を分析する」、『出版ニュース』(2018年8月21日号、高木利弘著、出版ニュース社)
・「電子書籍:米で販売減 紙に回帰、値上げやデジタル疲れ」、『毎日新聞』(2018年1月7日付)
・『マニフェスト 本の未来』(ヒュー・マクガイア&ブライアン・オレアリ編、ボイジャー)
・『これ1冊で完全理解電子書籍』(西田宗千佳監修、日経BP社)
・2017年度の市場規模は電子書籍、電子雑誌合わせて2500億円を突破! 2022年には3500億円規模に 『電子書籍ビジネス調査報告書2018』7月30日発売
https://www.impress.co.jp/newsrelease/2018/07/20180724-01.html
・2017年出版市場(紙+電子)
https://www.ajpea.or.jp/information/20180125/index.html
・『デジタル時代の知識創造』(長尾真監修、KADOKAWA)
・「電子書籍」、『日本大百科全書』(小学館)
・『本のことがわかる本』(稲葉茂勝著、能勢仁監修、ミネルヴァ書房)
・『電子書籍奮戦記』(萩野正昭著、新潮社)
・「『電子書籍ビジネス調査報告書2018』を分析する」、『出版ニュース』(2018年8月21日号、高木利弘著、出版ニュース社)
・「電子書籍:米で販売減 紙に回帰、値上げやデジタル疲れ」、『毎日新聞』(2018年1月7日付)
・『マニフェスト 本の未来』(ヒュー・マクガイア&ブライアン・オレアリ編、ボイジャー)
・『これ1冊で完全理解電子書籍』(西田宗千佳監修、日経BP社)
・2017年度の市場規模は電子書籍、電子雑誌合わせて2500億円を突破! 2022年には3500億円規模に 『電子書籍ビジネス調査報告書2018』7月30日発売
https://www.impress.co.jp/newsrelease/2018/07/20180724-01.html
・2017年出版市場(紙+電子)
https://www.ajpea.or.jp/information/20180125/index.html
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