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なぜ日本でキャッシュレス化が進まないのか?
2019年10月1日からの消費税アップに向け、政府は増税による消費の落ち込みを防ぐ対策の一つとして、「キャッシュレス決済」を広げようとしています。「現金信仰」が強いといわれる日本に、キャッシュレスは浸透するのでしょうか。
SuicaやPASMOのような交通系電子マネーは、あらかじめ券売機などで現金をチャージしておく「プリペイド」の代表格。図書カードやデジタルコンテンツ購入用カード、セブンイレブンが発行するnanacoなどもこの方式で、チャージした金額を上限として少額の買い物にも便利に利用できます。
リアルタイムペイメントの代表例は、デビットカード。ATMで現金を引き出すことなく、買い物代金を銀行口座の残高から支払える仕組みですが、口座に残高が不足していると当然決済不能となってしまいます。最近増えているQRコード決済も、口座からの即時払いとして、このグループに入ります。
ポストペイは、おおむね1か月の利用額をまとめて支払うタイプ。クレジットカードが代表格ですが、最近では携帯電話の利用料金と一緒に引き落とす『キャリア決済』のサービスを取り入れるところが増えてきました。メルカリやZOZOTOWNなど、クレジットカードを持たない世代の買い物にも便利ということです。
支払い時期で分類しきれないのがApple PayやGoogle Payなどのモバイル決済。これらは、Suicaやnanacoなどと連携するもの、クレジットカードと連携するものがあるためです。
【キャッシュレス決済比率】
・日本………18.4%
・韓国………89.1%
・中国………60%
・カナダ……55.4%
・イギリス…54.9%
・米国………45%
(経済産業省「キャッシュレス・ビジョン要約版」より)
もともとモバイル決済の元祖は日本の「おサイフケータイ」でしたが、対応する読み取り機器の価格などの問題から、津々浦々に広がらないままに終わりました。一方、中国では「Alipay(アリペイ)」や「WeChat Pay(ウィチャットペイ)」がQRコードを用いた決済システムを普及させ、スマホ決済が日常的に行われています。韓国の高い普及率は国の施策によるもので、「所得控除」「宝くじ制度」が功を奏したと言われています。
「ポケットの小銭をジャラジャラさせているから、それが減ると“お金を使った”という感覚が得られる。カードやスマホだと“お金を支払う”という行為を意識しにくいから、ついつい使いすぎてしまうような気がする。ビジネスとしては正解かもしれないけど、私のような現金派としては疑問ですね」
レジでお釣りがあり、会話がある方が生活が明るくなると、氏は「いつもニコニコ現金払い」の良さを締めくくっています。しかし、まったく違う観点から現金とキャッシュレスの違いを分析しているのが、日銀副総裁雨宮正佳氏の講演「マネーの将来」(2018年10月20日、日本金融学会2018年度秋季大会における特別講演)でした。
雨宮氏の講演は、マネーとデータの接近を語るもの。そこで強調されたのは「デジタル化された支払決済手段は『誰が、いつ、どこで、何を買ったか』といったデータまで媒介することも可能」だという点への危惧でした。「ユーザーは、サービス利用の対価を、自らのデータを提供する形で支払っているとみることもできる」という雨宮氏の分析は、説得力の高いものでした。
消費税増とオリンピックに向けて、便利なキャッシュレスが本当にいいのか、もう一度考えて見る材料になりそうです。
キャッシュレスな支払い手段のおさらい
現金を使わない支払い手段であるキャッシュレスを、おさらいしておきましょう。すぐ浮かぶのは、電子マネー、デビットカード、モバイルウォレット、クレジットカードなどです。いろいろな分け方がありますが、支払い時期で分類すると、前払いのプリペイド、即時決済のリアルタイムペイメント、後払いのポストペイの3種類に分けられます。SuicaやPASMOのような交通系電子マネーは、あらかじめ券売機などで現金をチャージしておく「プリペイド」の代表格。図書カードやデジタルコンテンツ購入用カード、セブンイレブンが発行するnanacoなどもこの方式で、チャージした金額を上限として少額の買い物にも便利に利用できます。
リアルタイムペイメントの代表例は、デビットカード。ATMで現金を引き出すことなく、買い物代金を銀行口座の残高から支払える仕組みですが、口座に残高が不足していると当然決済不能となってしまいます。最近増えているQRコード決済も、口座からの即時払いとして、このグループに入ります。
ポストペイは、おおむね1か月の利用額をまとめて支払うタイプ。クレジットカードが代表格ですが、最近では携帯電話の利用料金と一緒に引き落とす『キャリア決済』のサービスを取り入れるところが増えてきました。メルカリやZOZOTOWNなど、クレジットカードを持たない世代の買い物にも便利ということです。
支払い時期で分類しきれないのがApple PayやGoogle Payなどのモバイル決済。これらは、Suicaやnanacoなどと連携するもの、クレジットカードと連携するものがあるためです。
キャッシュレス決済の進展は韓国90%、日本20%未満
一見すると百花繚乱な「キャッシュレス」時代を日本人は謳歌しているように見えますが、国際比較をしてみると、決してそうではありません。【キャッシュレス決済比率】
・日本………18.4%
・韓国………89.1%
・中国………60%
・カナダ……55.4%
・イギリス…54.9%
・米国………45%
(経済産業省「キャッシュレス・ビジョン要約版」より)
もともとモバイル決済の元祖は日本の「おサイフケータイ」でしたが、対応する読み取り機器の価格などの問題から、津々浦々に広がらないままに終わりました。一方、中国では「Alipay(アリペイ)」や「WeChat Pay(ウィチャットペイ)」がQRコードを用いた決済システムを普及させ、スマホ決済が日常的に行われています。韓国の高い普及率は国の施策によるもので、「所得控除」「宝くじ制度」が功を奏したと言われています。
なぜ日本人は「現金払い」にこだわりたいのか
日本が、キャッシュレスに遅れを取っているのはどうしてなのでしょうか。ジャーナリストの鳥越俊太郎氏が、昨今の電子マネーの急速な普及に対して怒りの念を表明して、話題になりました。中国へ行くとスマホ決済がほとんどなため、ガラケー派の鳥越氏が非常に困った経験に続き、次のような「現金感覚」の話も。「ポケットの小銭をジャラジャラさせているから、それが減ると“お金を使った”という感覚が得られる。カードやスマホだと“お金を支払う”という行為を意識しにくいから、ついつい使いすぎてしまうような気がする。ビジネスとしては正解かもしれないけど、私のような現金派としては疑問ですね」
レジでお釣りがあり、会話がある方が生活が明るくなると、氏は「いつもニコニコ現金払い」の良さを締めくくっています。しかし、まったく違う観点から現金とキャッシュレスの違いを分析しているのが、日銀副総裁雨宮正佳氏の講演「マネーの将来」(2018年10月20日、日本金融学会2018年度秋季大会における特別講演)でした。
雨宮氏の講演は、マネーとデータの接近を語るもの。そこで強調されたのは「デジタル化された支払決済手段は『誰が、いつ、どこで、何を買ったか』といったデータまで媒介することも可能」だという点への危惧でした。「ユーザーは、サービス利用の対価を、自らのデータを提供する形で支払っているとみることもできる」という雨宮氏の分析は、説得力の高いものでした。
消費税増とオリンピックに向けて、便利なキャッシュレスが本当にいいのか、もう一度考えて見る材料になりそうです。
<参考サイト>
・経済産業省:キャッシュレス・ビジョン要約版
http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-2.pdf
・マネーポストWEB:越俊太郎氏(78)が電子マネー共生社会に怒り「私たちは現金世代」
https://www.moneypost.jp/326035
・日本銀行:「マネーの将来」日本銀行副総裁雨宮正佳氏講演
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2018/ko181020a.htm/
・経済産業省:キャッシュレス・ビジョン要約版
http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-2.pdf
・マネーポストWEB:越俊太郎氏(78)が電子マネー共生社会に怒り「私たちは現金世代」
https://www.moneypost.jp/326035
・日本銀行:「マネーの将来」日本銀行副総裁雨宮正佳氏講演
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2018/ko181020a.htm/
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