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日本人は「人助け」の意識が低いのか?
「日本人は人助けをしない!」「日本人の冷たさは世界トップクラスだ!」「日本人は人助けの意識が低い!」といった意見が、ネットで散見されるようになっています。
これらの意見の拠り所に、「CAF World Giving Index」(以下「世界寄付指数」)が、さらには
「Helping a stranger」(以下「人助け指数」)、「Donating money」(以下「寄付指数」)、「Volunteering time」(以下「ボランティア指数」)といった、「寄付を科学的に検証」するための「指数」が潜んでいるようです。
調査方法は、世界各国での“過去数ヶ月の間に、1)外国人や見知らぬ人を助けたか「人助け指数」、2)慈善団体に寄付したか「寄付指数」、3)組織的なボランティアに時間を割いたか「ボランティア指数」――を行ったかどうか”のアンケート調査です。回答結果は統計処理のうえ指数化され、さらに3指数を総合した指数が「世界寄付指数」となります。
2018年は144ヵ国を対象に調査が行われ、『CAF WORLD GIVING INDEX 2018』としての国ごとのランキングが発表されました。結果日本は、1)「人助け指数」142位・指数23%、2)「寄付指数」99位・指数18%、3)「ボランティア指数」56位・指数23%、そして3指数の総合となる「世界寄付指数」128位・指数22%――という後ろから数えた方が早い、先進国の中で最も低い結果となっています。
特に「人助け指数」が低かったこと、さらには過去の結果も、2010年:指数25%、2011年:指数26%、2012年:138位・指数25%、2013年(数値なし)、2014年:134位・指数26%、2015年:137位・指数28%、2016年:138位・指数25%、2017年:135位・指数23%と低かったことなどから、冒頭で紹介したような意見につながっていることがうかがえます。
統計データ分析家の本川裕氏は、アメリカの世論調査会社・ギャラップの国際調査によって発表された、「困っている見知らぬ人を助けたことがあるか」という設問の回答からうかがえる「社会的援助の比率」についての、39ヵ国の2007年および2012年の国際比較結果を取り上げ、考察しています。
実はこのデータでも、1位アメリカ2007年・68.2%、2012年・77.4%に比べ、残念ながら日本は最下位の2007年・28.0%、2012年・24.7%となっています。しかし本川氏はデータと各国の情勢を鑑み「日本人が人助けしない冷たい国民だからなのではなく、じつは助けなければならない相手が周りに少ない理想的な社会だからだと理解することも可能なのである」と述べています。
一方、2010年から日本で初めてとなる寄付についての『寄付白書』を発行しているNPO法人・日本ファンドレイジング協会編の『寄付白書 2017』によると、2016年の日米英韓の4ヵ国の個人寄付総額比較を比較すると、1位アメリカの30兆6,664億円(現地通貨額2,818.6億ドル)に比べ、同様に日本は最下位の7,756億円となっています。しかし、日本全体の個人寄付総額は2009年の5,455億円から、2016年は7,7556億円と増えています。そして、東日本大震災の発生した2011年は10,182億円と突出しています。
さらには、市民活動としてのボランティアの原義がイギリスの17世紀中期のピューリタン革命における「自警団への参加者」にあるなど、国や地域による経済状況だけでなく文化や宗教観の違いによっても、人助け・寄付・ボランティアの背景も捉え方も異なってきます。そのため、いくら科学的手法を用いて指数化したとしても、世界的な指数と個々人の実感の相違のすべては拭えないかもしれません。
『寄付白書 2017』では「寄付を科学する」と称して、NPO研究、行動経済学における知見から分析を行っており、「利他性」「互恵性」「同調性」「依頼の圧力」「不平等回避」「評判形成」「寄付税制」などの観点から、それぞれの効果や可能性あるいは負の効果も述べています。
そのうえで「寄付の帰結」として、「寄付を行うことによって寄付者本人の幸福感が向上することを実証した研究がすでに存在している」「寄付によって寄付者本人の健康も向上する可能性がある」などの実験結果を解説し、人助け・寄付・ボランティアといった行為が、行為者にポジティブな感情や状況が発生する可能性を示しています。
他方、詩人の谷川俊太郎氏が『幸せについて』において、「コンビニの募金箱におつりの十円玉やアルミの一円が入っているのを見ると、侘しくなる。いつかは集まって役に立つはずだけど、身銭を切らないお金には、ヒトを幸せにするパワーがないような気がする」と述べているように、やはり人助け・寄付・ボランティアは行為や金銭の多寡よりも、あくまでも行為者の主体性や積極的な意思が必要だとも思えます。
ともあれ、人助け・寄付・ボランティアに世界的に関心が高まり、調査されたり指数化されたりすることによって、より多くの人に意識され考察される機会が増えることはすばらしいことです。ぜひこの機会に他者ではなく、あなたにとっての人助けや寄付、ボランティアの意識を考え直してみてはいかがでしょうか。
これらの意見の拠り所に、「CAF World Giving Index」(以下「世界寄付指数」)が、さらには
「Helping a stranger」(以下「人助け指数」)、「Donating money」(以下「寄付指数」)、「Volunteering time」(以下「ボランティア指数」)といった、「寄付を科学的に検証」するための「指数」が潜んでいるようです。
日本の「人助け指数」は有意に低い?
「世界寄付指数」ならびに「人助け指数」「寄付指数」「ボランティア指数」は、イギリスのチャリティー団体「Charity Aid Foundation」(以下「CAF」)発行の調査報告書『CAF WORLD GIVING INDEX』によって、2010年から発表されています。調査方法は、世界各国での“過去数ヶ月の間に、1)外国人や見知らぬ人を助けたか「人助け指数」、2)慈善団体に寄付したか「寄付指数」、3)組織的なボランティアに時間を割いたか「ボランティア指数」――を行ったかどうか”のアンケート調査です。回答結果は統計処理のうえ指数化され、さらに3指数を総合した指数が「世界寄付指数」となります。
2018年は144ヵ国を対象に調査が行われ、『CAF WORLD GIVING INDEX 2018』としての国ごとのランキングが発表されました。結果日本は、1)「人助け指数」142位・指数23%、2)「寄付指数」99位・指数18%、3)「ボランティア指数」56位・指数23%、そして3指数の総合となる「世界寄付指数」128位・指数22%――という後ろから数えた方が早い、先進国の中で最も低い結果となっています。
特に「人助け指数」が低かったこと、さらには過去の結果も、2010年:指数25%、2011年:指数26%、2012年:138位・指数25%、2013年(数値なし)、2014年:134位・指数26%、2015年:137位・指数28%、2016年:138位・指数25%、2017年:135位・指数23%と低かったことなどから、冒頭で紹介したような意見につながっていることがうかがえます。
人助け・寄付・ボランティアの世界ギャップ
しかし本当に、『CAF WORLD GIVING INDEX』のデータのみをもって、「日本人は人助けの意識が低い」といえるのでしょうか。統計データ分析家の本川裕氏は、アメリカの世論調査会社・ギャラップの国際調査によって発表された、「困っている見知らぬ人を助けたことがあるか」という設問の回答からうかがえる「社会的援助の比率」についての、39ヵ国の2007年および2012年の国際比較結果を取り上げ、考察しています。
実はこのデータでも、1位アメリカ2007年・68.2%、2012年・77.4%に比べ、残念ながら日本は最下位の2007年・28.0%、2012年・24.7%となっています。しかし本川氏はデータと各国の情勢を鑑み「日本人が人助けしない冷たい国民だからなのではなく、じつは助けなければならない相手が周りに少ない理想的な社会だからだと理解することも可能なのである」と述べています。
一方、2010年から日本で初めてとなる寄付についての『寄付白書』を発行しているNPO法人・日本ファンドレイジング協会編の『寄付白書 2017』によると、2016年の日米英韓の4ヵ国の個人寄付総額比較を比較すると、1位アメリカの30兆6,664億円(現地通貨額2,818.6億ドル)に比べ、同様に日本は最下位の7,756億円となっています。しかし、日本全体の個人寄付総額は2009年の5,455億円から、2016年は7,7556億円と増えています。そして、東日本大震災の発生した2011年は10,182億円と突出しています。
さらには、市民活動としてのボランティアの原義がイギリスの17世紀中期のピューリタン革命における「自警団への参加者」にあるなど、国や地域による経済状況だけでなく文化や宗教観の違いによっても、人助け・寄付・ボランティアの背景も捉え方も異なってきます。そのため、いくら科学的手法を用いて指数化したとしても、世界的な指数と個々人の実感の相違のすべては拭えないかもしれません。
人助け・寄付・ボランティアの意義とは?
ところで、人はなぜ「人助け・寄付・ボランティア」をするのでしょうか。『寄付白書 2017』では「寄付を科学する」と称して、NPO研究、行動経済学における知見から分析を行っており、「利他性」「互恵性」「同調性」「依頼の圧力」「不平等回避」「評判形成」「寄付税制」などの観点から、それぞれの効果や可能性あるいは負の効果も述べています。
そのうえで「寄付の帰結」として、「寄付を行うことによって寄付者本人の幸福感が向上することを実証した研究がすでに存在している」「寄付によって寄付者本人の健康も向上する可能性がある」などの実験結果を解説し、人助け・寄付・ボランティアといった行為が、行為者にポジティブな感情や状況が発生する可能性を示しています。
他方、詩人の谷川俊太郎氏が『幸せについて』において、「コンビニの募金箱におつりの十円玉やアルミの一円が入っているのを見ると、侘しくなる。いつかは集まって役に立つはずだけど、身銭を切らないお金には、ヒトを幸せにするパワーがないような気がする」と述べているように、やはり人助け・寄付・ボランティアは行為や金銭の多寡よりも、あくまでも行為者の主体性や積極的な意思が必要だとも思えます。
ともあれ、人助け・寄付・ボランティアに世界的に関心が高まり、調査されたり指数化されたりすることによって、より多くの人に意識され考察される機会が増えることはすばらしいことです。ぜひこの機会に他者ではなく、あなたにとっての人助けや寄付、ボランティアの意識を考え直してみてはいかがでしょうか。
<参考文献・参考サイト>
・CAF World Giving Index 2018 | Research into global giving behaviour
https://www.cafonline.org/about-us/publications/2018-publications/caf-world-giving-index-2018
・CAF WORLD GIVING INDEX 2018
https://www.cafonline.org/docs/default-source/about-us-publications/caf_wgi2018_report_webnopw_2379a_261018.pdf?sfvrsn=c28e9140_4
・日本人は「ITに不慣れ、現金依存、人助けしない」の誤解│ダイヤモンドオンライン
https://diamond.jp/articles/-/127268
・『寄付白書 2017』(日本ファンドレイジング協会編、日本ファンドレイジング協会)
・日本の寄付市場の推移│日本ファンドレイジング協会
https://jfra.jp/wp/wp-content/uploads/2017/12/2017kifuhakusho-infographic.pdf
・調査研究(寄付白書)│日本ファンドレイジング協会
https://jfra.jp/research/
・「ボランティア」、『イミダス2018』(立木茂雄著、集英社)
・『幸せについて』(谷川俊太郎著、ナナロク社)
・CAF World Giving Index 2018 | Research into global giving behaviour
https://www.cafonline.org/about-us/publications/2018-publications/caf-world-giving-index-2018
・CAF WORLD GIVING INDEX 2018
https://www.cafonline.org/docs/default-source/about-us-publications/caf_wgi2018_report_webnopw_2379a_261018.pdf?sfvrsn=c28e9140_4
・日本人は「ITに不慣れ、現金依存、人助けしない」の誤解│ダイヤモンドオンライン
https://diamond.jp/articles/-/127268
・『寄付白書 2017』(日本ファンドレイジング協会編、日本ファンドレイジング協会)
・日本の寄付市場の推移│日本ファンドレイジング協会
https://jfra.jp/wp/wp-content/uploads/2017/12/2017kifuhakusho-infographic.pdf
・調査研究(寄付白書)│日本ファンドレイジング協会
https://jfra.jp/research/
・「ボランティア」、『イミダス2018』(立木茂雄著、集英社)
・『幸せについて』(谷川俊太郎著、ナナロク社)
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