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DATE/ 2020.02.03

なぜ企業は店舗の急拡大で失敗するのか?

 ハンバーガー屋、牛丼屋、ファミリーレストラン。日々、多くの飲食チェーンができるだけ店舗を増やそうと、しのぎを削っています。当然ながら、店舗を拡大するのは、事業を大きくし、利益を増やすためです。

 けれども、店舗の拡大はそう簡単なことではありません。「いきなり!ステーキ」などの具体的な失敗例を参考に、なぜ企業は店舗の急拡大で失敗するのかに焦点を当てて、飲食チェーンの失敗の本質を検証します。

ブームの牽引者がなぜ? 大赤字で大量閉店

 株式会社ペッパーフードサービスは、「いきなり!ステーキ」の不振が原因で、2019年11月、従来20億円の黒字を見込んでいた通期の業績予想を7億3100万円の赤字に下方修正しました。さらに、2019年度の出店計画を210店舗から115店舗へ縮小し、44店舗の退店を発表。

 「いきなり!ステーキ」は、2013年に1号店を出店してからステーキブームを牽引していました。商機を逃したくなかったのか、拡大路線を突き進み、結果的には経営は大きく悪化しました。

競争の輪から外れる悪夢

 「いきなり!ステーキ」の業績不振について、運営会社のペッパーフードサービスは、「カニバリゼーション(自社競合)」が原因だとしています。これは「共食い」という意味です。

 カニバリゼーションを起こしてしまったということは、他社と競争できなくなってしまったということです。その理由には「急激な店舗拡大」、それから「値上げによる高価格化」が挙げられます。

 他社との差別化ができなくなると、どういう結果を招くのか。一言で言うと、競争力の低下です。競争力が低下すると、飲食業の基本であるQSC(クオリティー、サービス、クリンリネス)が揺らぎます。競争の輪から外れると、このような弊害があるのです。

 ちなみに、カニバリゼーションは絶対的に悪いというわけではありません。あえて競合企業のカニバリゼーションを創出することで、シェアを拡大するマーケティング戦略もあります。

あの牛丼チェーン店がなぜ

 別の例も見てみましょう。2010年代前半に現れた「東京チカラめし」。牛丼業界に彗星の如く現れ、ハイペースの出店を推し進めました。しかし、全盛期は100店舗を超えていたにもかかわらず、閉店が相次ぎ、現在はたったの7店舗にまで落ち込みました。

 「いきなり!ステーキ」の置かれていたシチュエーションとは異なり、牛丼業界には吉野家・松屋・すき家という最強の御三家が君臨しています。大手は膨大な経営ノウハウを蓄積しており、この業界で戦い、生き残るためには綿密な戦略が欠かせません。東京チカラめしには何が足りなかったのか。縮小を余儀なくされた理由は何か。

 失敗の理由は、店舗拡大を優先し、人材の育成がおろそかになったこと。人材の育成がおろそかになると、やはり飲食業の基本であるQSCが低下します。これが急拡大する多くのチェーン店が共通して陥る失敗です。

 飲食業に限らず、あらゆるサービス、社会も国も、人材こそが宝です。教育に軽視すれば、必ず大きなツケを払わされることになります。

<参考サイト>
・いきなり!ステーキ、いきなり拡大し失速 │日経ビジネス
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/031900178/
・戦う相手が強すぎて衰退した東京チカラめし│ITmedia ビジネスオンライン
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1804/27/news036.html
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