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DATE/ 2020.06.10

テレワークにみる「業務効率」とは?

 世の中が急速にテレワークにシフトして少し経ちました。新型コロナの影響で止むを得ずという側面が強いこの状況ですが、業務効率や生産性が上がったという話も聞きます。ここでは、テレワークによって生産性は向上したのかという点について、企業や個人に向けてのアンケートを元に見てみましょう。

企業の62%は「業務の効率化に有効」と回答

 5月のロイター企業調査で、新型コロナウイルスへの対応としてテレワークを導入した企業は、調査対象企業の9割に上ったのこと。実際に業務の効率化に有効だとした企業は62%、うち「かなり有効」との回答は5%となっています。実施した企業はそれなりの手応えを掴んでいることがわかります。テレワークになって一番変わったところは、言うまでもなく出勤しなくてよくなった点です。これまで通勤に数時間かけていた、満員電車で体力や神経を消耗していたと言う人にとっては大きなメリットといえるでしょう。また、遠隔地に出張して顧客対応していた案件も、端末でやりとりすることが可能になり効率がよくなった、という話もあります。

 たとえば、大和証券グループ本社の中田誠司社長は、「名古屋のお客様に対し、M&A(合併・買収)など大きな案件では東京から出張していた。端末でやりとりしたら往復4時間を短縮できた」といいます。またこの点については今後「元に戻す必要はない」とのこと。顔を見せるというのは、いわばこれまでの商習慣のようなものと考えていいのかもしれません。習慣をどちらか一方が勝手に省くことは失礼になる面もあるため、これまでは非効率だと思いつつもどうにもできなかったということかもしれません。しかし今回のことを機に、従来の習慣の意義を問い直すことができれば、意味があったと考えていいのではないでしょうか。

一般従業員にとっては生産性が上がった実感は薄い

 また、一般従業員に対する調査も行われています。日経BizGateが行った会員(20~70代の有効回答1951件)への調査によると生産性が「上がった」「やや上がった」と答えた人は計27.3%で「やや下がった」「下がった」と答えた人の計42.4%を下回っています。一方、ストレスは「下がった」「やや下がった」が計30.7%と「やや上がった」「上がった」の計40.0%を下回っています。また、年代別でみると、若い世代ほど、生産性が上がりストレスが下がる傾向はあるものの、全体をみれば、生産性は低下し、ストレスは上昇する傾向にあるとのこと。

 一般従業員に関して言うと、ことはそう簡単ではないようです。筆者が想像するに、家では仕事に集中できない、仲間とのちょっとしたコミュニケーションが取りづらいといった問題はあるのかもしれません。また、コンピュータやネットワーク、システムといったところにある程度強くなければ、トラブルがあった時に即座に対応できないといった問題も起こりそうです。

 さらに、この調査で今回の事態が収束後、どんな働き方をしたいかという質問では、「テレワーク中心にオフィスでも働く」が35.1%、「テレワークだけで働く」が3.9%。テレワーク中心の働き方をしたい人が39.0%に達し、従来からの「オフィスだけ」という人は全体の7.5%にとどまっています。同サイトでの分析では、今回の事態でこれまでの無駄があぶり出されており、改革のきっかけにしたいと考える人が増えているのではないか、としています。実際にアンケートの自由記述欄では、ペーパーレス化、印鑑レス化、社内決裁フローの見直しなど、多くの課題が期せずしてあぶり出され、業務の進め方など今後社内業務改革を行う上での重要なヒントがたくさん見つかったといった声もあったようです。

飲食、接客、運輸・配送は厳しい

 ここまでみた通り、今回の急速なテレワークの普及は、これまで業務効率が悪かったり、非合理的であったりした作業が一気にあぶり出される結果になっているといえるでしょう。ただ、現状ではテレワークではどうしても対応できない業種もあります。たとえば飲食業や接客業は、面と向かって人が人に行うことに価値が生じる分野と言えます。また、運輸・配送業に関しても、物理的に人が動かなければ仕事を行うことができません。建築や医療、介護、といったところも同じです。現場に人がいなければどうにもならない分野と言えます。
 
 自動化がもっと進んだ未来では、もしかしたらこういったところもコンピュータやロボットが担う時代が来るのかもしれません。たとえば今後自動運転技術の精度と安全性に保障が付き、ドローンなどの利用の幅が広がっていけば、人は画面をみて指示を出すだけで配送もテレワークという時代はくるかもしれません。こういった技術実験の話は時折耳にしますが、今はまだ人間が人間と向き合うことで多くの現場は動いています。

新型コロナの影響で業績悪化企業が増える

 今後、テレワーク導入はオフィスの賃貸料(固定費)の削減につながると考えられます。今回のコロナ禍における企業の業績不振に加え、こういったテレワークの拡大により、一時期増加基調だったオフィス需要は大幅に下振れする見込みです。世の中は想像以上のペースで変化が起きています。

 今後、どのようなところでお金が回るのか、経済の先行きは気になりますが、少なくとも、働き方改革のときはピンとこなかったテレワークの導入は、さまざまな技術の進歩、商習慣の見直し、業務フローの合理化の流れ、といったことと相まって、今後一層進むことは間違いないと考えていいでしょう。

<参考サイト>
・テレワーク「業務の効率上がっている」 大和証券社長|朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASN5P6K4ZN5PULFA00B.html
・日本企業のテレワーク実施9割に 6割が効率化に有効と評価|Newsweek
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2020/05/96.php
・「収束後もテレワーク中心に働きたい」4割 現状はストレスも コロナ後の働き方 BizGateアンケート|日経BizGate
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO5879473006052020000000/
・テレワーク化でオフィス需要が大幅減に|日本総研
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=36274
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授