社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
不倫したら「石打ちの死刑」~イスラムの罪と罰
ムハンマドの制裁だけが問題を解決できた
唯一神アッラーから啓示を受けた預言者ムハンマドは、実在した歴史的人物だ。ムハンマドが啓示を受けた7世紀のアラビア半島、中でもメッカやメディナでは、商取引や遺産相続、女性の権利侵害といった面で、多くの不正が蔓延しており、社会正義が実現されていなかった。
ムハンマドは、こうした社会的な不公正や不正義に異議を申し立てただけでなく、その結果生まれた社会的な矛盾をいかにして救うのか、いかにして社会問題を解決するのかといったことに取り組んだ。
神の預言者である「ムハンマドの裁定だけ」が問題を解決できたのだ。
ムハンマドが下した裁定
ムハンマドが生前に残した行動や発言の記録は、「ハディース」という言行録に今も残っている。その中で歴史学者・山内昌之氏が興味を持つのは「刑罰」の章だ。そこには、ムハンマドの下した裁定の例がいくつも取り上げられている。
例えば、ある日、「姦通(社会的・道徳的に容認されない性交渉、不倫)」を告白しに来た男がいた。 当時、アラビア半島の性道徳は乱れに乱れていたので、ムハンマドは、幸福な家族と夫婦関係に信仰の理想を置こうとしていたのだ。
しかしムハンマドは男の訴えから顔をそらし、知らぬふりを決め込んだのだが、なんと、その男は4度も不倫の証言を繰り返したのだ。
ムハンマドは男の正気と既婚かどうかを確かめ、「石打ち」を宣告した。
いざ石打ちとなると、男はおじけづいたのか後悔したのか、逃げ出そうとするが、結局、追い詰められ、石打ちの刑にあって死んだ。
その後、ムハンマドは預言者として、彼のために良かれと祈った、という伝承が残っている。
罪をなるべく聞かないふりをしていたムハンマド
また別の伝承では、ムハンマドが顔を背ける度に男はそちらへ告白を向けたとされている。つまり、自分から罪に当たる行為を聞き出して罰を科すことはなかったのだ。ここから分かるのは、ムハンマドが、法律だけを至上化して人間性を無視するような輩では決してなかったということである。
イスラム教においては「飲酒」も罪になり、信者の中にはその行為者に呪いの言葉を浴びせようとする者もいたが、ムハンマドはそれを制止し、禁を犯す者にも神や人を愛する心はあると説いたという。
また、ムハンマドの最愛の妻アイーシャによれば、彼が二者択一の場に立たされたときには、「罪でなければ優しい方を選び、罪に当たるときは最も遠く離れた」という。
なるべく聞かないふりを心掛けたのは、預言者が告白を聞いた以上は厳しい罰を科さざるを得ないからだ。
ムハンマドを知るには、そのようなバランス感覚を踏まえる必要があると、歴史学者:山内氏は言っている。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
「何回説明しても伝わらない」「こちらの意図とまったく違うように理解されてしまった」……。そんなことは、日常茶飯事です。しかしだからといって、相手を責めるのは大間違いでは? いやむしろ、わが身を振り返って考えないと...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/13
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる...
収録日:2018/09/27
追加日:2019/03/31
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
アメリカの大転換はトランプ政権以前に起こっていた。1980~1990年代、情報機器と金融手法の発達、それに伴う法問題の煩雑化により、アメリカは「ラストベルト化」に向かう変貌を果たしていた。そこにトランプの誤解の背景があ...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/11


