テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.06.22

不倫したら「石打ちの死刑」~イスラムの罪と罰


ムハンマドの制裁だけが問題を解決できた

 唯一神アッラーから啓示を受けた預言者ムハンマドは、実在した歴史的人物だ。

 ムハンマドが啓示を受けた7世紀のアラビア半島、中でもメッカやメディナでは、商取引や遺産相続、女性の権利侵害といった面で、多くの不正が蔓延しており、社会正義が実現されていなかった。

 ムハンマドは、こうした社会的な不公正や不正義に異議を申し立てただけでなく、その結果生まれた社会的な矛盾をいかにして救うのか、いかにして社会問題を解決するのかといったことに取り組んだ。

 神の預言者である「ムハンマドの裁定だけ」が問題を解決できたのだ。

ムハンマドが下した裁定

 ムハンマドが生前に残した行動や発言の記録は、「ハディース」という言行録に今も残っている。

 その中で歴史学者・山内昌之氏が興味を持つのは「刑罰」の章だ。そこには、ムハンマドの下した裁定の例がいくつも取り上げられている。

 例えば、ある日、「姦通(社会的・道徳的に容認されない性交渉、不倫)」を告白しに来た男がいた。  当時、アラビア半島の性道徳は乱れに乱れていたので、ムハンマドは、幸福な家族と夫婦関係に信仰の理想を置こうとしていたのだ。

 しかしムハンマドは男の訴えから顔をそらし、知らぬふりを決め込んだのだが、なんと、その男は4度も不倫の証言を繰り返したのだ。

 ムハンマドは男の正気と既婚かどうかを確かめ、「石打ち」を宣告した。

 いざ石打ちとなると、男はおじけづいたのか後悔したのか、逃げ出そうとするが、結局、追い詰められ、石打ちの刑にあって死んだ。

 その後、ムハンマドは預言者として、彼のために良かれと祈った、という伝承が残っている。

罪をなるべく聞かないふりをしていたムハンマド

 また別の伝承では、ムハンマドが顔を背ける度に男はそちらへ告白を向けたとされている。

 つまり、自分から罪に当たる行為を聞き出して罰を科すことはなかったのだ。ここから分かるのは、ムハンマドが、法律だけを至上化して人間性を無視するような輩では決してなかったということである。

 イスラム教においては「飲酒」も罪になり、信者の中にはその行為者に呪いの言葉を浴びせようとする者もいたが、ムハンマドはそれを制止し、禁を犯す者にも神や人を愛する心はあると説いたという。

 また、ムハンマドの最愛の妻アイーシャによれば、彼が二者択一の場に立たされたときには、「罪でなければ優しい方を選び、罪に当たるときは最も遠く離れた」という。

 なるべく聞かないふりを心掛けたのは、預言者が告白を聞いた以上は厳しい罰を科さざるを得ないからだ。

 ムハンマドを知るには、そのようなバランス感覚を踏まえる必要があると、歴史学者:山内氏は言っている。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために

百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために

大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために

硫黄島の戦いでの奇跡的な物語を深く探究したノンフィクション『大統領に告ぐ』。著者の門田隆将氏は、「読者の皆さんには、その場に身を置いて読んでほしい」と語る。硫黄島の洞窟の中で、自分が死ぬ意味を考えていた日本人将...
収録日:2025-07-09
追加日:2025/08/15
門田隆将
作家 ジャーナリスト
2

日本は集権的か分権的か?明治以来の国家の仕組みに迫る

日本は集権的か分権的か?明治以来の国家の仕組みに迫る

「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念

今も明治政府による国家モデルが生きている現代社会では、日本は中央集権の国と捉えられがちだが、歴史を振り返ればどうだったのかを「集権と分権」という切り口から考えてみるのが本講義の趣旨である。7世紀に起こった「大化の...
収録日:2025-06-14
追加日:2025/08/18
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
3

原発建設には10年以上も…小型モジュール炉の可能性と課題

原発建設には10年以上も…小型モジュール炉の可能性と課題

日本のエネルギー政策大転換は可能か?(2)世界のエネルギーと日本の原発事情

再生可能エネルギーのシェアが世界的に圧倒的な伸びを見せる中、第7次エネルギー基本計画において原子力発電を最大限活用する方針を示した日本政府だが、それはどこまで現実的なのか。国際エネルギー機関が発表した今後のエネル...
収録日:2025-04-04
追加日:2025/08/17
鈴木達治郎
長崎大学客員教授 NPO法人「ピースデポ」代表
4

全ては経済?…米中対立の現状とリスクが高まる台湾危機

全ては経済?…米中対立の現状とリスクが高まる台湾危機

トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(2)米中対立の現在地

世界第一、第二の経済力を誇る米中の対立は由々しい問題である。第1次トランプ政権下で始まった対立はバイデン政権に継承されてきたが、トランプ第2次政権では主題はもっぱら経済に集中している。われわれも米中協議の行方を注...
収録日:2025-06-23
追加日:2025/08/14
佐橋亮
東京大学東洋文化研究所教授
5

なぜウェルビーイングが大事?DEIとの関係と価値の多様化

なぜウェルビーイングが大事?DEIとの関係と価値の多様化

DEIの重要性と企業経営(2)人的資本経営とウェルビーイング経営

今、企業の中に「人的資本経営」が急速に浸透している。経産省の定義によると、人的資本経営とは、人材を資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のこと。類似する概念と...
収録日:2025-05-22
追加日:2025/08/15
山本勲
慶應義塾大学商学部教授