社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.07.16

「ガッツ」があった軍人・なかった軍人

 上智大学名誉教授の渡部昇一氏は、今の教育は「頭が良くなること」「やさしく情があること」の大切さは教えているが、武士の世界で最も大切だった「ガッツ」の重要性を教えていない、と語る。

 渡部氏は、ガッツがあった軍人として、陸軍大臣:木越安綱(きごしやすつな)を、ガッツがなかった軍人として、連合艦隊司令長官:山本五十六の名前を挙げている。

ガッツがあった木越安綱の偉業

 木越は金沢生まれ、軍隊養成学校(陸軍教導団)の出身から頭角をあらわし、日清戦争において功績をあげた。その後、日露戦争でも大活躍して陸軍大臣に抜擢されたが、渡部氏が「ガッツがある」と評したのは、その戦歴ではない。

 軍備拡張をめぐる政治問題で内閣が潰れた際、「軍部が内閣を潰せるようなことでいいのか?戦争をするかどうかを決めるのは政治であり、軍隊ではない」と考え、陸軍部内の反対を押し切って、「陸海軍大臣は現役の大将と中将に限る」という規定を削除したのだ。

 これにより木越は徹底的に陸軍内部から憎まれ、その後、昇進することはなかったが、渡部氏はこの木越の行動を大正デモクラシーの基盤を作ったガッツある行動と評している。

ガッツがなかった山本五十六の不甲斐無さ

 一方、ガッツがない軍人として渡部氏が名前を挙げたのは、意外にも連合艦隊司令長官の山本五十六だった。

 海軍には「指揮官先頭」の伝統があったが、山本はそれを無視し、真珠湾でもミッドウェー海戦でも、先頭に立たず自らの身を後方においたという。日本が苦闘していたガダルカナルにおいても山本が先頭に立つことはなかった。

 渡部氏は、山本のこの気概のなさは「戦艦大和の快適さ」が生み出したものではないか、と興味深い話をしてくれている。

 戦艦大和の居住性が極めて良好で、冷暖房とエレベーターを完備していたほか、なんと「ラムネ製造機」や「アイスクリーム製造機」までが設置されていたという。

 その快適さは「大和ホテル」とも揶揄され、食事は洋食のフルコース。山本が食事をするときには軍楽隊が音楽を演奏していたというから驚きだ。

 渡部氏は言う。

 「このような事例を知るにつけ、なんとも残念な気持ちがこみ上げてきて、日本は本気で戦争をしていたのか、疑いたくなる。ああ、当時の将官にもっと“ガッツ”があればと、あまりの慨嘆に天を仰ぎたくなるのである。」と。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
2

ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話

ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話

ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群

ケルト神話とは何か。ケルトという地域は広範囲にわたっており、一般的にアイルランドを中心にした「島のケルト」と、フランスやスペインの西北部などに広がった「大陸のケルト」があるが、神話が濃厚に残っているのはアイルラ...
収録日:2022/04/12
追加日:2023/07/23
鎌田東二
京都大学名誉教授
3

「土地勘のあるところ、自分たちの武器を持っていく」

「土地勘のあるところ、自分たちの武器を持っていく」

エンタテインメントビジネスと人的資本経営(5)「チーム戦と新規ビジネス」の要点

経営は個人戦でなくチーム戦であり、経営メンバーは「人材の組み合わせ」が大事である。かつて本田宗一郎には藤沢武夫、井深大には盛田昭夫がいたからホンダもソニーも大きくなれた。また、新規ビジネスを始めるときは大事なの...
収録日:2025/05/08
追加日:2025/11/03
水野道訓
元ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役CEO
4

なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ

なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ

算数が苦手な子どもが多く、特に分数でつまずいてしまう子どもが非常に多いというのは世界的な問題になっているという。いったいどういうことなのか。そこで今回は、私たちが言語習得の鍵となる「スキーマ」という概念を取り上...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題

半世紀ほど前、松下幸之助に経営者の条件について尋ねた田口氏は、「運と徳」、そして「人間の把握」と「宇宙の理法」という命題を受けた。その後50年間、その本質を東洋思想の観点から探究し続けてきた。その中で後藤新平の思...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/10/24