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DATE/ 2015.08.24

TPP協定で日本のコミケ市場が消滅する!?

 7月、TPPの著作権分野はおおむね合意する方向で話が進んでいるとの報道があった。このニュースに衝撃を受けたのが日本のコミックマーケット、通称コミケ界隈の人々だ。

コミケが日本のマンガ界をささえている?

 コミケとは、同人誌を販売するイベントであり、毎年お盆の頃と年末頃に開催される。それぞれ数10万人以上を集める巨大なイベントで、同人誌の内容は、主にマンガ、アニメ、ゲームなどの二次創作だ。

 二次創作とは、元となる作品のキャラクターを流用して、二次的に創作された作品のことだ。当然、多くの作品が著作権を犯していると言えるのだが、訴訟になることは今のところあまりないと言える。

 あまりない理由は、訴訟のコストがそもそも高いということもあるが、そもそもコミケで盛り上がることが、二次創作の元となるオリジナル作品の売上向上にもつながる。だから、あえて黙認する作家も少なくない。

 また、同人誌の作家として才能をみがくことで、オリジナル作品を描くプロの作家が生まれることも決して珍しくない。つまり、コミケを中心にした二次創作市場は、マンガやアニメ業界全体を活性化する役割を果たしているのだ。

著作権侵害は著作権者の訴えが必要

 さて、TPPとコミケには、どのような関係があるのだろうか。

 日本の著作権法は「親告罪」という制度を採用している。これは、被害を受けた方が自ら訴えを起こさない限り、立件されないというものだ。今回TPPで話されているのはこれの「非親告罪化」である。

 非親告罪になると、著作権者の意思とは関わらず、第三者が訴えれば立件されてしまう。つまり、著作権者の許可がなければ、いかなる二次創作も即裁判沙汰にできる状態になってしまう。今までのような「あえて黙認」というような曖昧な態度はとれなくなってしまうのだ。

賠償金に罰金が加わる

 また、もうひとつ「法定賠償金」制度もコミケを委縮させてしまうと考えられている。現在日本の法律では著作権侵害によって生じた被害額を見積もって、その額を著作権者は賠償請求できることになっているのだが、法定賠償金制度が認められると、被害額の何倍もの金額を罰金的に請求することができる。

 例えば、被害額が50万円だとしても、再び同じような罪を犯す意志をくじくために、罰金的に1,000万円を払わせることが可能だということだ。これらの導入を主張しているアメリカでの法定賠償金額を参考にすれば、1作品につき15万ドル(約1,860万円)までが認められることになる。

TPPの著作権分野はアメリカの都合で動いている

 TPPで二次創作市場を委縮させると言われているのは、「非親告罪化」と「法定賠償金」だが、他にも著作権保護期間を「本人の死後70年」に延長するなどの動きもある。

 これらのほとんどは、アメリカの都合で動いていると言われている。ディズニーやハリウッド映画、テレビドラマなどのコンテンツビジネスにとって有利な方向で話が進んでいるのだ。

 著作権分野は、アメリカにとって、米や自動車よりも本命だと言われている。マンガ、アニメ、ゲームなど、世界に誇る日本のポップカルチャーの原動力であるコミケ、ひいては二次創作市場の危機はすぐそこまで迫っている。

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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授