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脆弱国家ランキング、日本は何位?
「脆弱国家」という言葉をご存知でしょうか。たとえば、「あなたが住んでいる日本は脆弱国家ですか?」と問われたとしたら、どのように答えることができるでしょうか。
「脆弱国家」の参考となるデータとして、アメリカのシンクタンク「平和基金会(The Fund for Peace:FFP)」が2006年から毎年公表している、「脆弱国家ランキング(Fragile States Index:FSI)」があります。
今回は、2022年7月に公表された2022年版の「脆弱国家ランキング」に過去データを対照しながら、日本の国家としての脆弱性を考えてみたいと思います。
具体的には、内戦・民族紛争・政治腐敗などで統治機能が停止することによって、国民に安全や基本的公共サービスを提供できなかったり国民の生計を保証するといった国家の基本的役割を果たすことが困難であったりする国家、またそのことによって国家に対する国民の信頼が失われている国家が、「脆弱国家」と呼ばれています。
もっとも、現時点では「脆弱国家」の世界基準の統一された定義はないようです。ただし、「平和基金会」は(1)領土支配の喪失、あるいは公権力の独占の喪失、(2)正統な合議制意思決定機関の腐敗、(3)公益事業の提供不能、(4)国際社会の一員としての外交活動の不能――と定義しています。
なお、「脆弱国家」は、以前は「失敗国家」「破綻国家」「崩壊国家」などとも呼ばれていました。例えば、「脆弱国家ランキング」も、2013年までは「失敗国家ランキング」でした。そのため、現在でも用語が混在して使われている場合があり、過去データを調べる際などにも注意が必要となります。
「脆弱国家ランキング」は、12項目の指標のスコアの合計で順位付けされます。各指標は10満点で、合計の最高点数は120。したがって、スコアが120に近いほど不安定で危険な状態であり、0に近いほど安定的で持続的な状態と判定されます。
【2022年「脆弱国家ランキング」トップ&ワースト10+日本の順位】
順位:国名(スコア)
1位:イエメン(111.7)
2位:ソマリア(110.5)
3位:南スーダン(108.4)
3位:シリア(108.4)
5位:中央アフリカ共和国(108.1)
6位:コンゴ民主共和国(107.3)
7位:スーダン(107.1)
8位:アフガニスタン(105.9)
9位:チャド(105.7)
10位:ミャンマー(100.0)
-----
161位:日本(31.0)
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170位:スウェーデン(20.9)
171位:アイルランド(20.8)
172位:カナダ(20.1)
173位:ルクセンブルグ(20.0)
174位:スイス(18.9)
175位:デンマーク(18.1)
176位:ニュージーランド(17.5)
177位:アイスランド(17.1)
178位:ノルウェー(15.6)
179位:フィンランド(15.1)
2022年「脆弱国家ランキング」の日本の順位は161位でスコアは31.0でした。残念ながら30.0未満の「持続可能な国」という評価には至っていませんが、179カ国中の19位という低スコアかつ、40.0未満の「非常に安定した国」という十分に良い評価となっています。
トップ10の国家は、内戦・紛争・無政府状態であったり軍事政権や武装勢力の実効支配の影響下であったりと、まさに「脆弱国家」の条件を満たした有事の渦中にある国家といえます。なお、「脆弱国家」の国際的な視点からの問題点として、自国民には最大の不幸かつ周辺諸国には難民流出やテロの拡散など大いなる脅威である反面、世界的な紛争に発展する可能性が低く国際的な関心を集めにくい点が挙げられています。
反対にワースト10の国家は、「脆弱国家」の対概念といえる「(非常に)安定した持続可能な国家」といえます。高福祉国家や治安安定国家として挙げられるような、「世界の幸福度ランキング」や「ジェンダー・ギャップ指数」などでもハイスコアな常連国がランクインしています。
【12項目の指標:2022年~2018年の日本のスコア】※隔年の()は視認性向上のため
12項目の指標:2022年(2021年)2020年(2019年)2018年
C1:SecurityApparatus(安全機構・治安):1.5(1.8)1.9(1.6)1.9
C2:FactionalizedElites(エリートの派閥):2.6(2.6)2.6(2.6)2.6
C3:GroupGrievance(集団の不平不満):2.2(2.5)2.8(3.1)3.4
E1:EconomicDecline(経済の衰退):3.4(3.7)3.3(3.5)3.8
E2:UnevenEconomicDevelopment(経済発展の不均衡):2.4(1.9)1.4(1.4)1.3
E3:HumanFlightandBrainDrain(海外への人材流出):2.9(2.9)3.1(3.3)3.5
P1:StateLegitimacy(国家の正当性):0.2(0.5)0.6(0.9)0.9
P2:PublicServices(公共サービス):1.5(1.8)1.3(1.6)1.9
P3:HumanRightsandRuleofLaw(人権と法の支配):2.9(3.0)3.2(3.2)3.1
S1:DemographicPressures(人口動態圧力):6.2(5.7)5.7(6.2)4.5
S2:RefugeesandIDPs(難民と国内避難民):2.9(3.2)3.5(3.8)4.1
X1:ExternalIntervention(海外からの干渉):2.3(2.6)2.9(3.2)3.5
※合計および順位:2022年は31.0で161位、2021年は32.2で161位、2020年は32.3で158位、2019年は34.3で157位、2018年は34.5で158位。
以上のように過去5年の日本のスコアを12項目の指標で見てみると、日本の脆弱性として一番気になる点は、やはり「人口動態圧力」(S1)です。一貫して4.5以上と他のスコアよりも突出して悪く、2022年のスコアでも1番悪い6.2となっています。日本の国家として喫緊の最大課題ともいえる少子高齢化と、日本の地理的な最大課題ともいえる自然災害の多さが主な要因とされています。
また、「経済の衰退」(E1)も気になります。こちらも一貫して3.3以上という結果となっており、政府債務の高さとGDP成長率の低さが要因となっているようです。世界基準で相対化すると特に悪い結果ではないものの、「経済の衰退」(E1)は国家の脆弱性の大きなバロメーターでもあるため、注意が必要です。同様に、「海外への人材流出」(E3)も、日本という資源が少ない国家にとって懸案となるスコアといえます。
最後に、「難民と国内避難民」(S2)について補足します。「難民と国内避難民」(S2)は、2011年の東日本大震災の影響を受けるまでは1.0~1.2と低スコアでした。しかし、2012年に4.0となり、その後も改善方向にあるものの未だ高い傾向にあるということからも、地元に帰ることのできない方々がいることがうかがえます。なお、東日本大震災は、「人口動態圧力」(S1)にも影響を及ぼしています。
いかがでしたでしょうか。「脆弱国家」という視点から、日本の国家として脆弱性の相対的な課題と絶対的な課題を見渡すことができたでしょうか。「脆弱国家ランキング」をはじめとしたさまざまなデータが公表されています。自身にまつわる脆弱性を知ることは重要です。自国や自国にまつわるすべての他国の弱さや強みについて、過去から学び、今を知り、未来に備えるために、ぜひ活用してほしいと思います。
「脆弱国家」の参考となるデータとして、アメリカのシンクタンク「平和基金会(The Fund for Peace:FFP)」が2006年から毎年公表している、「脆弱国家ランキング(Fragile States Index:FSI)」があります。
今回は、2022年7月に公表された2022年版の「脆弱国家ランキング」に過去データを対照しながら、日本の国家としての脆弱性を考えてみたいと思います。
「脆弱国家」とはどんな国家?
「脆弱国家(fragile state)」とは、「国のガバナンス(統治)や制度が弱く適切な政策を実施する能力が弱い国」といった概念です。具体的には、内戦・民族紛争・政治腐敗などで統治機能が停止することによって、国民に安全や基本的公共サービスを提供できなかったり国民の生計を保証するといった国家の基本的役割を果たすことが困難であったりする国家、またそのことによって国家に対する国民の信頼が失われている国家が、「脆弱国家」と呼ばれています。
もっとも、現時点では「脆弱国家」の世界基準の統一された定義はないようです。ただし、「平和基金会」は(1)領土支配の喪失、あるいは公権力の独占の喪失、(2)正統な合議制意思決定機関の腐敗、(3)公益事業の提供不能、(4)国際社会の一員としての外交活動の不能――と定義しています。
なお、「脆弱国家」は、以前は「失敗国家」「破綻国家」「崩壊国家」などとも呼ばれていました。例えば、「脆弱国家ランキング」も、2013年までは「失敗国家ランキング」でした。そのため、現在でも用語が混在して使われている場合があり、過去データを調べる際などにも注意が必要となります。
2022年「脆弱国家ランキング」、日本は161位!
ではここで、2022年版の「脆弱国家ランキング」から、トップ&ワースト10と日本の順位を見てみましょう。「脆弱国家ランキング」は、12項目の指標のスコアの合計で順位付けされます。各指標は10満点で、合計の最高点数は120。したがって、スコアが120に近いほど不安定で危険な状態であり、0に近いほど安定的で持続的な状態と判定されます。
【2022年「脆弱国家ランキング」トップ&ワースト10+日本の順位】
順位:国名(スコア)
1位:イエメン(111.7)
2位:ソマリア(110.5)
3位:南スーダン(108.4)
3位:シリア(108.4)
5位:中央アフリカ共和国(108.1)
6位:コンゴ民主共和国(107.3)
7位:スーダン(107.1)
8位:アフガニスタン(105.9)
9位:チャド(105.7)
10位:ミャンマー(100.0)
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161位:日本(31.0)
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170位:スウェーデン(20.9)
171位:アイルランド(20.8)
172位:カナダ(20.1)
173位:ルクセンブルグ(20.0)
174位:スイス(18.9)
175位:デンマーク(18.1)
176位:ニュージーランド(17.5)
177位:アイスランド(17.1)
178位:ノルウェー(15.6)
179位:フィンランド(15.1)
2022年「脆弱国家ランキング」の日本の順位は161位でスコアは31.0でした。残念ながら30.0未満の「持続可能な国」という評価には至っていませんが、179カ国中の19位という低スコアかつ、40.0未満の「非常に安定した国」という十分に良い評価となっています。
トップ10の国家は、内戦・紛争・無政府状態であったり軍事政権や武装勢力の実効支配の影響下であったりと、まさに「脆弱国家」の条件を満たした有事の渦中にある国家といえます。なお、「脆弱国家」の国際的な視点からの問題点として、自国民には最大の不幸かつ周辺諸国には難民流出やテロの拡散など大いなる脅威である反面、世界的な紛争に発展する可能性が低く国際的な関心を集めにくい点が挙げられています。
反対にワースト10の国家は、「脆弱国家」の対概念といえる「(非常に)安定した持続可能な国家」といえます。高福祉国家や治安安定国家として挙げられるような、「世界の幸福度ランキング」や「ジェンダー・ギャップ指数」などでもハイスコアな常連国がランクインしています。
日本の国家としての脆弱性
ところで、「非常に安定した国」という評価となった日本ですが、日本という国家に課題がないわけではありあません。そこで、脆弱国家ランキングの12項目の指標別に、2022年~2018年の日本のスコアを見ながら日本の国家としての脆弱性を考察してみたいと思います。【12項目の指標:2022年~2018年の日本のスコア】※隔年の()は視認性向上のため
12項目の指標:2022年(2021年)2020年(2019年)2018年
C1:SecurityApparatus(安全機構・治安):1.5(1.8)1.9(1.6)1.9
C2:FactionalizedElites(エリートの派閥):2.6(2.6)2.6(2.6)2.6
C3:GroupGrievance(集団の不平不満):2.2(2.5)2.8(3.1)3.4
E1:EconomicDecline(経済の衰退):3.4(3.7)3.3(3.5)3.8
E2:UnevenEconomicDevelopment(経済発展の不均衡):2.4(1.9)1.4(1.4)1.3
E3:HumanFlightandBrainDrain(海外への人材流出):2.9(2.9)3.1(3.3)3.5
P1:StateLegitimacy(国家の正当性):0.2(0.5)0.6(0.9)0.9
P2:PublicServices(公共サービス):1.5(1.8)1.3(1.6)1.9
P3:HumanRightsandRuleofLaw(人権と法の支配):2.9(3.0)3.2(3.2)3.1
S1:DemographicPressures(人口動態圧力):6.2(5.7)5.7(6.2)4.5
S2:RefugeesandIDPs(難民と国内避難民):2.9(3.2)3.5(3.8)4.1
X1:ExternalIntervention(海外からの干渉):2.3(2.6)2.9(3.2)3.5
※合計および順位:2022年は31.0で161位、2021年は32.2で161位、2020年は32.3で158位、2019年は34.3で157位、2018年は34.5で158位。
以上のように過去5年の日本のスコアを12項目の指標で見てみると、日本の脆弱性として一番気になる点は、やはり「人口動態圧力」(S1)です。一貫して4.5以上と他のスコアよりも突出して悪く、2022年のスコアでも1番悪い6.2となっています。日本の国家として喫緊の最大課題ともいえる少子高齢化と、日本の地理的な最大課題ともいえる自然災害の多さが主な要因とされています。
また、「経済の衰退」(E1)も気になります。こちらも一貫して3.3以上という結果となっており、政府債務の高さとGDP成長率の低さが要因となっているようです。世界基準で相対化すると特に悪い結果ではないものの、「経済の衰退」(E1)は国家の脆弱性の大きなバロメーターでもあるため、注意が必要です。同様に、「海外への人材流出」(E3)も、日本という資源が少ない国家にとって懸案となるスコアといえます。
最後に、「難民と国内避難民」(S2)について補足します。「難民と国内避難民」(S2)は、2011年の東日本大震災の影響を受けるまでは1.0~1.2と低スコアでした。しかし、2012年に4.0となり、その後も改善方向にあるものの未だ高い傾向にあるということからも、地元に帰ることのできない方々がいることがうかがえます。なお、東日本大震災は、「人口動態圧力」(S1)にも影響を及ぼしています。
いかがでしたでしょうか。「脆弱国家」という視点から、日本の国家として脆弱性の相対的な課題と絶対的な課題を見渡すことができたでしょうか。「脆弱国家ランキング」をはじめとしたさまざまなデータが公表されています。自身にまつわる脆弱性を知ることは重要です。自国や自国にまつわるすべての他国の弱さや強みについて、過去から学び、今を知り、未来に備えるために、ぜひ活用してほしいと思います。
<参考文献・参考サイト>
・「脆弱国家」『デジタル大辞泉』(小学館)
・「失敗国家」『デジタル大辞泉』(小学館)
・「破綻国家」『現代用語の基礎知識』(自由国民社)
・『開発と平和』(稲田十一編、有斐閣)
・Fragile States Index | The Fund for Peace
https://fragilestatesindex.org/
・「脆弱国家」『デジタル大辞泉』(小学館)
・「失敗国家」『デジタル大辞泉』(小学館)
・「破綻国家」『現代用語の基礎知識』(自由国民社)
・『開発と平和』(稲田十一編、有斐閣)
・Fragile States Index | The Fund for Peace
https://fragilestatesindex.org/
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