テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.03.01

北海道「ニセコ」はなぜ外国人に人気なのか

 寒い季節が近づくと雪山が恋しくてソワソワしてしまうウィンタースポーツ愛好家たちから「いつかニセコで滑るのが憧れ」「ニセコの雪質は桁違い」など、「ニセコ」の地名を聞くようになったのは20年ほど前から。日本のスキーヤー、スノーボーダーも憧れる北海道のニセコは、その後多くの外国人観光客で賑わい「日本にある海外」と呼ばれる人気リゾートとなっています。ニセコを訪れ滞在する客層はシーズンによっては9割近くが外国人。中でも海外富裕層に好まれる観光地となったのには、どんな理由があるのでしょうか。

ニセコが世界から愛される理由とは

・世界一と言われるパウダリーな雪質
 ニセコの雪質は「シルキーパウダー」と称され、絶妙に湿度を含んだ雪は固過ぎずサラサラとした軽やかさ。シーズン中は毎日のように雪が降り降雪量も多いため、雪不足の海外のスキーリゾートのように人工雪を使わずとも、毎日その新鮮な「新雪感」を堪能できると評判です。

・変化に富んだ多様なコース
 ニセコエリアには4つのスキー場があり、それぞれに個性があり飽きないといいます。子供や初心者向け、上級プレーヤーに対応するコースや、ハーフパイプや急斜面、林間、ナイターなど変化に富んだコース施設も豊富に用意されています。

・多言語対応の環境が整っている
 公用語が英語、と言っても過言ではないほど、どこでも言葉が通じることも人気の理由です。また英語だけでなく多言語対応している施設や店舗も多く、長期滞在やトラブルの際にも外国人が困らない環境が整っています。

・海外有名スキーリゾートより安い
 国内の他のスキーリゾートと比較すると物価も宿泊費用も高いのですが、それでもヨーロッパの名だたるスキーリゾートと比べるとコストを抑えられると話す外国人も。

・SNSやブランディングを意識したインバウンド対策
 外国人に向けた情報を発信するニセコ町のHPは多言語で準備され、コンテンツも充実。また「Japan」と「Powder Snow」を組み合わせた「Japow」という造語でブランドを構築し、SNSのハッシュタグ等を駆使して世界にその名を広めています。オリンピックの選手村として海外スキーヤーを招いたことも大きく、有名プレーヤーによるニセコを称賛する発信も海外へと影響を与えています。

・夏もアウトドア、温泉や美食が楽しめる
 オフシーズンも、北海道ならではの立地を生かしたリゾートとして楽しめます。大自然や豊富な食材を味方に、夏はラフティングやトレッキング、食事、温泉を楽しめるリゾートとしてのニセコの魅力があります。

ニセコがターゲットにしている層とは

 ニセコは上記のような様々な要素で外国人に人気が出たのですが、世界から注目されるリゾートとなったのにはもうひとつ「海外富裕層のターゲッティング」という大きな起因があります。

 そもそも欧米では冬季のバカンスをスキーリゾートで過ごすのはセレブ層の定番であり、2週間、中には1ヶ月近くの長期滞在でバカンスを楽しむ人も珍しくありません。ただウィンタースポーツだけが目的なのではなく、充実した休暇を過ごしに日本へ来る富裕層にターゲットを絞り、コンドミニアム型で暮らすように宿泊できるホテル、快適で洗練されたリゾート環境、設備や食事やサービスの充実など、ターゲットの求めるレベルを意識した開発や運営がなされているのです。

 日本はバブル期前後のスキーブームが下火になると価格を下げることにより集客を狙った観光策が主流でした。しかしニセコは、価格を抑えてスキーをしたい日本人ではなく、上質なスキーリゾートを求めている海外の富裕層をターゲットに舵を切ったのが成功の秘訣だと言われています。

コロナ禍による影響と、今後の変化は

 そんなニセコもコロナ禍においては観光客が激減し、開発やオープンが頓挫した施設やお店も多く、人員削減をしたところがほとんどだといいます。そのため水際対策緩和後は客足が戻ってきたのにも関わらず、人手不足に悩んでいるという現状も。また滞在者数に対して営業している飲食店数が圧倒的に少ないこともあり、ホテル外での食事が気軽にできないという声も聞かれています。しかし日本に居ながら海外体験もできる、そんな発想で「ニセコ留学」という言葉まで生まれ、アルバイトをしながらニセコで英語の勉強をしたいと考える若者も増えているのだとか。

 現在もニセコエリアでは海外資本の高級ホテルブランドを中心に数十件の建設が進み、また老朽化したリフトや設備の修理や立て直しも検討されているそうです。それに伴い、エリアの物価や利用料金もさらなる値上げは必須、ニセコはより一層高級リゾートとしての貌を確立されていくのではないでしょうか。

 2030年には北海道新幹線が札幌まで開通する予定です。札幌からは車で2時間程の遠くない距離ですが、日本人がなかなか行けない観光地となってしまうのは少し残念。しかしこれからのインバウンド対策において、ニセコの徹底したターゲッティングや、「ジャパンブランド」としての付加価値に学ぶことは多そうですね。

<参考サイト>
なぜ「北海道・ニセコ」は外国人富裕層から愛されるのか?│幻冬舎
https://gentosha-go.com/articles/-/34932
北海道ニセコが外国人に選ばれるその理由:インバウンド誘致の正攻法とは│訪日ラボ
https://honichi.com/news/2019/07/05/nisekoxinboundnaze/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

水平離着陸で宇宙へ、近未来のロケット像と進む技術開発

水平離着陸で宇宙へ、近未来のロケット像と進む技術開発

未来を知るための宇宙開発の歴史(12)宇宙推進技術はどこまで進化したか

ロケットは縦に発射されるのが通常思い描かれる姿であり、それが常識だったが、より快適に、より安価に飛ばすために新たなエンジン開発も進んでいる。また、宇宙空間においても、より広範囲に、あるいは長時間活動するための技...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/10/12
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
2

トランプ政権は実は与しやすい?…ディールで「時間稼ぎ」

トランプ政権は実は与しやすい?…ディールで「時間稼ぎ」

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(4)トランプ大統領VS.中国

「トランプ2.0」は、中国からどのように見えているのだろうか。たしかにトランプ関税は、現在非常に悪い状況にある中国経済にとって厄介だが、しかし実は中国にとっては、ひたすらアメリカ・ファーストで、体制批判や民主化・人...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/10/09
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使
3

軍政から民政へ、なぜ李登輝はこの難業に成功したのか

軍政から民政へ、なぜ李登輝はこの難業に成功したのか

クーデターの条件~台湾を事例に考える(4)クーデター後の民政移管とその方策

台湾でのクーデターを想定したとき、重要になるのがその成功後の民政移管である。それは民主主義を標榜する民進党の正統性を保つためであるが、それはいったいどのように果たされうるのか。一度は民主化に成功した李登輝政権時...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/11
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長
4

垂秀夫元中国大使に習近平中国と米中関係の実態を聞く

垂秀夫元中国大使に習近平中国と米中関係の実態を聞く

編集部ラジオ2025(23)垂秀夫元中国大使が語る習近平中国

今回の編集部ラジオでは、垂秀夫先生(元日本国駐中華人民共和国特命全権大使)にお話しいただいた講義を紹介します。垂先生は『日中外交秘録』(文藝春秋)という本を発刊されていますが、その帯コピーに版元が記したキャッチ...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/10/09
5

伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」

伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」

伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代

伊能忠敬の生涯を通して第二の人生の生き方、セカンドキャリアについて考えるシリーズ講話。九十九里の大きな漁師宿に生まれ育った忠敬だが、船稼業に向かない父親と親方である祖父との板ばさみに悩む少年時代だった。複雑な家...
収録日:2020/01/09
追加日:2020/03/01