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DATE/ 2023.08.19

生命保険は入るべき?メリット・デメリット

 生命保険、入るべきかやめておくべきか。迷って検索したときにヒットするのは保険会社のサイトです。生命保険の本当のメリット・デメリットについて、もう少しプレーンな立場から調べてみました。

そもそも生命保険とは

 4000年前の古代ギリシアまで遡るとも中世ヨーロッパの同業者組合ギルドから始まったともいわれる生命保険。土地を持たない都市生活者がお互いに積立をしていざというときに備える制度は、日本でも古来より無尽や頼母子講として運用されてきました。

 一方、西洋の大航海時代を支えた冒険貸借と海上保険制度は、数学の発達とともに整備されます。ハレー彗星の軌道計算で有名なハレーは、「死亡表に関する論文」によって大数の法則が人間の寿命にも当てはまることを発表して、生命保険料の掛け金は加入年齢に応じて差があるべきだと示唆します。この理論をもとに18世紀半ば頃、科学的な「死亡率」を根拠とする近代的生命保険事業がイギリスに出現しました。

 日本には幕末明治維新の時代に、福沢諭吉の著書「西洋旅案内」によって近代的な生命保険の仕組みが紹介されました。保険事業が相互扶助の精神を基調とする社会公益のための事業であることに心を動かされ、20世紀初頭に保険会社を興した一人が、2015年連続テレビ小説「あさが来た」のヒロイン、広岡浅子です。

 当時の保険思想は幼稚で、「保険に入れば早死にする」という迷信さえ信じられていたことが、『保険銀行時報』には記されています。2021年度には新規契約件数が前年度比110.8%となった生命保険(生命保険協会調べ)は、なぜこれほど普及したのでしょうか。

生命保険のメリットは

 生命保険のメリットが、万が一リスクに備えるためであることは、昔も今も変わりません。

 とくに世帯主、就学前の子供がいるような状況の人が死亡してしまったとき、残された家族の生活費や葬儀費用に充てることができるのが、狭義の生命保険の第一の目的です。大きなキャッシュがいる場合、短期間での融通は難しいものですが、生命保険に入っていれば、加入後すぐにでも契約しただけの額を手に入れることができます。

 生命保険のなかには、被保険者が死亡した場合の保険だけでなく、将来に備えて積み立てていく収入保障保険や個人年金保険、学資保険なども含まれます。また、損害保険との間の存在として、契約者本人が保険金を受け取れる医療保険やがん保険、介護保険、病気やケガで働けなくなったときに毎月給付金を受け取れる就業不能保険など、いろいろなリスクへの備えを想定したプランが用意されるようになりました。

 さらに、生命保険に加入していると、相続税の非課税枠を利用することで相続税対策ができ、保険金の受取人を指定することで遺したい人に確実に遺すことができます。

 年末調整でご存じの方も多いように、生命保険料の一定額を所得から控除できる「生命保険料控除」が、所得税と住民税の両方にあるので、節税対策にも有効です。

 被保険者本人が受け取る給付金は非課税で、満期金・解約返戻金などは課税上有利な一時所得扱いになる場合もあります。

生命保険のデメリットは

 加入時に定めた保険金額は、いつ払い戻しとなっても変わりません。そのため、インフレデフレにより貨幣価値が変わっていけば、実際上の必要とは齟齬をきたす場合があります。

 たとえばインフレになって貨幣価値が100分の1になってしまえば、コツコツ支払いつづけてきた保険料負担に比べて少なすぎる保険金しか手にできないということが起こります。

 また、月々の保険料は保険契約に応じて定められます。この保険料が家計を圧迫するようであれば、加入者にとってデメリットと感じられるケースもあります。

 個人年金保険などの貯蓄性の高い保険の場合、保険料負担から逃れるために短期間で解約すると、損をするしくみになっている点も要注意です。

自分が選ぶべき保険とは?

 生命保険に入るときに考えたいのは、「誰のために入るのか」「どんなときに備えるのか」というイメージを明確化することです。自分がいなくなって困るのは誰か、病気や親の介護などで働けなくなったときにはどうするかなど、お金と時間、双方のリスクに対応できる保険があれば安心できます。

 保険の分類として「掛け捨て型」「積立型」とよく言われます。ざっくり言って、掛け捨て型は保障の準備のためだけなので、保険料が割安になり、安い保険料で大きな保障を得ることができます。保険期間内に不測の事態が起こらなければ、保険料は他の誰かの役にはたちますが、自分の手元には戻ってきません。

 「積立型」のメリットは、万が一に備えながらお金を貯められることです。ただ、掛け捨て型保険に比べると保険料が割高なので、収入などの事情が変わると家計を圧迫することもあり、途中で解約すると中途半端な積立額しか受け取れません。そのために契約者貸付制度が用意されていますが、長期間にわたると利息がふくらみ、保険契約が失効となるケースも見られます。

 加入するかどうするか迷っている単身者の場合はとくに、今後のライフスタイルを想定し、ご自身の価値観と照らし合わせるのが大事でしょう。

<参考サイト>
・「2022年版 生命保険の動向」生命保険協会
https://www.seiho.or.jp/data/statistics/trend/pdf/all_2022.pdf
・ナビナビ保険:生命保険とは?選び方やメリット・デメリットをわかりやすく解説します
https://www.navinavi-hoken.com/articles/life
・太陽生命:生命保険とは?仕組みや役割、種類などの基礎知識をわかりやすく解説!
https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/basic/008.html
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