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『現代民俗学入門』が解き明かす私たちの習慣の「なぜ」
私たちの習慣、風習、ならわしなどについて、「いつから?」や「なぜ?」「どこから?」などと考えてみると、意外とわからないことは多いのではないでしょうか。たとえば、人はいつから化粧をするようになったのか。また、運動会でよく行われる「綱引き」はどこから来たのか、など。
このようなさまざまな習慣、風習、ならわし、あるいは行事などに関して、民俗学の立場からその歴史や理由を明らかにしていく本が『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(島村恭則編、創元ビジュアル教養+α)です。
本書では見開きでテーマ一つずつがコンパクトに解説されるので、どこからでもすぐに読むことができます。解説に目を通したり、図解などの補足情報をみるだけでも興味深い発見があります。もっと知りたくなったら、そのテーマに関する書籍も紹介されているのでそれらを参考にすることもできます。ということで、たいへん親切なつくりの本となっているのです。編者の島村恭則氏は1967年東京生まれ、現在は関西学院大学社会学部長および世界民俗学研究センター長として民俗学の発展と普及に取り組んでいます。
島村氏の専門は現代民俗学で、他にも『みんなの民俗学』(平凡社)や『民俗学を生きる』(晃洋書房)など、民俗学に関連するさまざまな著書があります。なお、本書で主に執筆を担っているのは、現在最前線で研究を行なっている中堅・若手の民俗学者たちです。島村氏は項目の一部を執筆するほか、編者として全体を統括しています。
民俗学はこういった「俗」としての物事に対して、「どういう経緯でそうなったのか」を調べたり考察したりしながら、その意味までを明らかにします。ただし、それだけだと単に物知りになるだけなので、「過去を使って現在を読み解き」「未来をいかにつくっていくか」までを考えるのが民俗学である、と島村氏は述べます。
また、古くから続く風習や習慣の中には「捨ててしまってよい俗」もあれば、「残しておいてもよい俗」もあり、現代的な俗としてリニューアルできるものもあるとのこと。さらには新しく生まれる俗もあるということで、「俗的なものは必ずついてくる、ならば積極的に活用していこう」というのが民俗学による未来構想の考え方とのことです。
もともと「古代の化粧はケ(日常)からハレ(非日常)への転換のスイッチとして機能していた」とのこと。化粧をすることで神が憑依する、つまり人が神に変身します。また、邪霊が体に入るのを防ぐ魔除けとして機能するとも信じられていたようです。これは仮面や入れ墨も同様です。つまり、古代において化粧や仮面、入れ墨といったものは、非日常の世界で人間が神聖なものに変身するための手段だったと言いえるでしょう。
本書の解説で触れられているのはここまでですが、ここから現代の化粧について考えることができます。従来の化粧はかなり非日常的な行為だったことがわかります。一方で、現在でも化粧をすることで自身を外出モードや仕事モードにする、もしくはここぞという時にはメイクに気合を入れる、という人もいます。つまり、現代でも何か非日常に向けて自分を変身させる行為として、化粧を活用する場面は大いにあるといえるでしょう。この意味では現代でも化粧の本質はそこまで変化していないのかもしれません。
では「綱引き」にはどういう由来があるのでしょうか。
全国的に行われている綱引きのルーツは西洋にあり、もともとは明治時代の学校の運動会からだったそうですが、これとは別に日本では昔から綱引きが行われており、それは「カミの意志を伺うため」だったとのこと。秋田県で今も続いている「刈和野の大綱引き(秋田県大仙市)」がこの事例として紹介されています。このお祭りでは町が上組と下組に分かれて競い、上組が勝てば米の値段が上がり、下組が勝てば下がるとされているそうです。こうした行事を民俗学では「年占行事」と呼びます。
このテーマの解説部分では、「年占行事」と関係が深いものの対応表があります。これによると、松上げ=玉入れ、競べ馬=競馬、流鏑馬・オビシャ=的当て、相撲=大相撲、競舟=ボートとの対応関係です。特に相撲に関してはわかりやすいかもしれません。神事としての色合いを濃く残しながら、現代の形へと発展してきたということです。
「支配的権威になじまないもの」
「近代的な合理主義では必ずしも割り切れないもの」
「『普遍』『主流』『中心』とされる立場にはなじまないもの」
「公式的な制度からは距離があるもの」
つまり、上からやらされるものではなく、その空間を共有する人たちの間で盛り上がるものが「俗」であるといえそうです。これが習慣や慣習、ひいてはスポーツとなっていくのは興味深いところで、現代までにそういった成り立ちをしている習慣がかなり多いことがわかります。
本書の冒頭部分では、「民俗学は、『みんなの学問』です。一部の専門家だけの学問ではなく、みんなでお互いの暮らし、お互いの『俗』について話し合い、より良い未来を作っていく学問です」と島村氏は述べています。
つまり、「みんなの学問」として、私たちの身近な習慣、風習、慣習にスポットライトをあて、「そうか!そうだったんだのか」という新発見、再発見を与えてくれるのがこの本です。目次をみて興味を持ったところから読めば、その都度気づきが訪れます。ぜひ手に取って開いてみてください。
このようなさまざまな習慣、風習、ならわし、あるいは行事などに関して、民俗学の立場からその歴史や理由を明らかにしていく本が『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(島村恭則編、創元ビジュアル教養+α)です。
本書では見開きでテーマ一つずつがコンパクトに解説されるので、どこからでもすぐに読むことができます。解説に目を通したり、図解などの補足情報をみるだけでも興味深い発見があります。もっと知りたくなったら、そのテーマに関する書籍も紹介されているのでそれらを参考にすることもできます。ということで、たいへん親切なつくりの本となっているのです。編者の島村恭則氏は1967年東京生まれ、現在は関西学院大学社会学部長および世界民俗学研究センター長として民俗学の発展と普及に取り組んでいます。
島村氏の専門は現代民俗学で、他にも『みんなの民俗学』(平凡社)や『民俗学を生きる』(晃洋書房)など、民俗学に関連するさまざまな著書があります。なお、本書で主に執筆を担っているのは、現在最前線で研究を行なっている中堅・若手の民俗学者たちです。島村氏は項目の一部を執筆するほか、編者として全体を統括しています。
民俗学とは何か
島村氏によれば、民俗学とは「人びと(民)について『俗』の視点で研究する学問」とのことです。「俗」とは「ルーティン(習慣的な行動)」「うわさ話」「おまじない」「仲間内にしか通じない言葉」といったもののことをさしています。この中には、SNSなどで伝えられる都市伝説や陰謀論なども含まれます。民俗学はこういった「俗」としての物事に対して、「どういう経緯でそうなったのか」を調べたり考察したりしながら、その意味までを明らかにします。ただし、それだけだと単に物知りになるだけなので、「過去を使って現在を読み解き」「未来をいかにつくっていくか」までを考えるのが民俗学である、と島村氏は述べます。
また、古くから続く風習や習慣の中には「捨ててしまってよい俗」もあれば、「残しておいてもよい俗」もあり、現代的な俗としてリニューアルできるものもあるとのこと。さらには新しく生まれる俗もあるということで、「俗的なものは必ずついてくる、ならば積極的に活用していこう」というのが民俗学による未来構想の考え方とのことです。
化粧は「ケ(日常)からハレ(非日常)への転換のスイッチ」
本書の目次をみると、日本に住む私たちが普段から意識せずにいるさまざまな風習や習慣、考え方といったものが列挙されています。これについて各項目で解説されたり情報が補足されたりします。たとえば最初に挙げた「人が化粧をするようになったのはなぜなのか」ということについての解説を見てみましょう。もともと「古代の化粧はケ(日常)からハレ(非日常)への転換のスイッチとして機能していた」とのこと。化粧をすることで神が憑依する、つまり人が神に変身します。また、邪霊が体に入るのを防ぐ魔除けとして機能するとも信じられていたようです。これは仮面や入れ墨も同様です。つまり、古代において化粧や仮面、入れ墨といったものは、非日常の世界で人間が神聖なものに変身するための手段だったと言いえるでしょう。
本書の解説で触れられているのはここまでですが、ここから現代の化粧について考えることができます。従来の化粧はかなり非日常的な行為だったことがわかります。一方で、現在でも化粧をすることで自身を外出モードや仕事モードにする、もしくはここぞという時にはメイクに気合を入れる、という人もいます。つまり、現代でも何か非日常に向けて自分を変身させる行為として、化粧を活用する場面は大いにあるといえるでしょう。この意味では現代でも化粧の本質はそこまで変化していないのかもしれません。
綱引きは「占い」だった
さて、運動会で定番種目の一つとして挙げられるのが綱引きです。ただし、よく考えてみれば、綱引きは一般的なスポーツや陸上競技とは何か違う印象もあります。綱引きに限らず、運動会で行う競技は他にも一般的な陸上競技とは異なるものも多く、民俗学的な研究の場となりそうではあります。では「綱引き」にはどういう由来があるのでしょうか。
全国的に行われている綱引きのルーツは西洋にあり、もともとは明治時代の学校の運動会からだったそうですが、これとは別に日本では昔から綱引きが行われており、それは「カミの意志を伺うため」だったとのこと。秋田県で今も続いている「刈和野の大綱引き(秋田県大仙市)」がこの事例として紹介されています。このお祭りでは町が上組と下組に分かれて競い、上組が勝てば米の値段が上がり、下組が勝てば下がるとされているそうです。こうした行事を民俗学では「年占行事」と呼びます。
このテーマの解説部分では、「年占行事」と関係が深いものの対応表があります。これによると、松上げ=玉入れ、競べ馬=競馬、流鏑馬・オビシャ=的当て、相撲=大相撲、競舟=ボートとの対応関係です。特に相撲に関してはわかりやすいかもしれません。神事としての色合いを濃く残しながら、現代の形へと発展してきたということです。
民俗学は「みんなの学問」
本書の最後には「俗」の要素として次の4つが挙げられています。「支配的権威になじまないもの」
「近代的な合理主義では必ずしも割り切れないもの」
「『普遍』『主流』『中心』とされる立場にはなじまないもの」
「公式的な制度からは距離があるもの」
つまり、上からやらされるものではなく、その空間を共有する人たちの間で盛り上がるものが「俗」であるといえそうです。これが習慣や慣習、ひいてはスポーツとなっていくのは興味深いところで、現代までにそういった成り立ちをしている習慣がかなり多いことがわかります。
本書の冒頭部分では、「民俗学は、『みんなの学問』です。一部の専門家だけの学問ではなく、みんなでお互いの暮らし、お互いの『俗』について話し合い、より良い未来を作っていく学問です」と島村氏は述べています。
つまり、「みんなの学問」として、私たちの身近な習慣、風習、慣習にスポットライトをあて、「そうか!そうだったんだのか」という新発見、再発見を与えてくれるのがこの本です。目次をみて興味を持ったところから読めば、その都度気づきが訪れます。ぜひ手に取って開いてみてください。
<参考文献>
『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(島村恭則編、創元ビジュアル教養+α)
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4787
<参考サイト>
現代民俗学 関西学院大学 島村恭則研究室のtwitter(現X)
https://twitter.com/kg_vernacular
『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(島村恭則編、創元ビジュアル教養+α)
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4787
<参考サイト>
現代民俗学 関西学院大学 島村恭則研究室のtwitter(現X)
https://twitter.com/kg_vernacular
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