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DATE/ 2015.10.24

手柄を横取りする「自己愛性パーソナリティ障害」上司の対処法

 あなたのまわりに、何でも自分の手柄にしようとする上司や同僚はいないだろうか。もしかしたら、それは「自己愛性パーソナリティ障害」かもしれない。

 自己愛性パーソナリティ障害の人は、とにかく「賞賛」を求めて行動する。仕事では、自分の手柄になることにばかり興味を示し、ミスや賞賛とは関係ない雑務は平気で部下に押し付ける。自分を褒めてくれる取り巻きと、雑務や現実問題を処理してくれる便利な存在を集め、必要なくなれば、どちらも冷たく排除する傾向がある。

 こんな上司に当たったら、部下はたまったものではない。どのように対処したらよいのだろうか。そもそもパーソナリティ障害とはどういったものだろうか。


極端に偏った考え方や行動パターンが問題

 「パーソナリティ障害」とは、偏った考え方や行動パターンのため、家庭生活や社会生活に支障をきたした状態を指す。大きく分けて10タイプあるが、共通するのは自分に強いこだわりがあり、とても傷つきやすいことだ。対等の信頼関係を築くのが苦手で、愛し下手である。

 自己愛性パーソナリティ障害のほかには、最高と最低の気分を往復する「境界性」、いつも主人公を演じる「演技性」、悪を生きがいにする「反社会性」、人を信じられない「妄想性」、頭の中で生きている「失調性」、親密な関係を求めずに孤独を愛する「シゾイド」、失敗や傷つくことを極度に恐れる「回避性」、一人では生きていけない「依存性」、義務感が強すぎる「強迫性」といったパーソナリティ障害がある。すべてバランスの問題で、いずれにしても極端すぎるのだ。パーソナリティ障害者は、2~3のタイプを同時に抱えるケースが珍しくない。


自己愛の成熟に問題があると、なりやすい

 パーソナリティ障害の原因は、遺伝と環境がおおよそ半分ずつと言われている。もともとパーソナリティ障害になりやすい人、なりにくい人が存在するのだが、すべてが遺伝子で決まるわけではないということだ。

 環境でもっとも影響が大きいのが、「自己愛の成熟プロセス」である。1歳半から3歳までの「母子分離」の時期と、続く4~5歳までが自己愛の発達にとって重要な段階で、この時期に、母親の愛を感じながら少しずつ母親の手を離れる必要がある。しかし、急速に分離させられたり、いつまでも母親が手離さないと、自己愛が十分に成熟しない。いつまでも親から卒業できず、自分をきちんと愛せない人間に育ち、果てはパーソナリティ障害となってしまうのである。他にもPTSDなどが要因かもしれないといわれているが、最大の理由は両親との関係である。


子育ての希薄化・空疎化が、根本的な原因

 なかでも急増しているのが、境界性パーソナリティ障害だが、その原因は、幼少期に父母から「必要な愛情を適切に注がれなかった」ことにあるという。現代の親たちは、子育ての最中も親たちが仕事や楽しみ、自己実現に忙しいため、愛情の替わりに代替物を与えることが多く、子どもが無条件に愛情を与えられるケースは少ない。一方には子育てに熱中するあまり、過剰な期待をかける親がいる。どちらにしても、母子分離のプロセスがスムーズでないため、自己愛の成熟を妨げるのだ。さらに、核家族化と地域社会の衰退がこの傾向に拍車をかけている。親に子育てを教えられる存在が、周囲から確実に減っているからだ。


自己愛性パーソナリティ障害への対処法

 最後に、冒頭で紹介した自己愛性パーソナリティ障害者を動かす方法をお伝えしたい。ズバリ効果的なのは、義務や道理を説くより、不安や嫉妬心、功名心を刺激することだ。自己愛性パーソナリティ障害者は基本的に小心で、嫉妬深く、負けん気が強いので、競争心をあおるとモチベーションに火が付く場合が多いのである。

 あとは、とにかく賞賛する側にまわるほかない。賞賛に徹していれば、自分のすばらしさがわかる人物として、そのうちあなたの言葉に少しずつ耳を傾けてくれるようになるだろう。

<参考文献>
・『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』(岡田尊司著 PHP研究所)
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授