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DATE/ 2024.06.26

『消えない化学物質「PFAS」から命を守る方法』が伝える実態

 私たちの生活の中には、便利さをもたらす数多くの製品があふれています。しかし、その中には知らず知らずのうちに、私たちの健康や環境に悪影響を及ぼす物質が含まれているのです。その代表例が、「ペル/ポリフルオロアルキル物質」、通称PFAS(ピーファス)です。

最近よく聞く「PFAS」って何のこと?

 「有機フッ素化合物」と呼ばれるPFASは、化学的に非常に安定している物質で、壊れにくい性質があります。こうした性質を持つPFASは、水や油をはじき、熱や薬品にも強いため、様々な製品に利用されています。

 例えば、防水スプレーです。防水スプレーは靴や衣類、アウトドア用品に使用され、雨や汚れから身を守ってくれます。また、化粧品の中にもPFASが含まれていることがあり、ファンデーションやマニキュア、口紅、日焼け止めなどに使われています。

 油を弾く「はつ油作用」を利用して作られた製品も多くあります。フライパンが代表的です。「テフロン」加工されたフライパンは焦げ付きにくくて便利ですが、この「テフロン」とはフッ素樹脂加工のことで、実は製造段階で多くのPFASが使われています。また、ハンバーガーやフライドポテトなどのファストフードの包装紙にもPFASを使用したはつ油加工が施されています。

 私たちはPFASを使った便利な製品に囲まれて生活していると言っても過言ではありません。しかし、この便利さには大きな代償が伴います。壊れにくいということは、分解しにくいということでもあります。PFASは自然界で分解されることなく、長期間にわたって残留し、水や土壌を汚染します。そして、私たちの健康にも被害を及ぼす可能性があるのです。

 今回ご紹介する書籍『水が危ない! 消えない化学物質「PFAS」から命を守る方法』(原田浩二著、河出書房新社)は、この「消えない化学物質」と呼ばれるPFASについて、その正体と人体への影響、そしてどのようにして身を守ればよいかを丁寧に解説した一冊です。

PFASが引き起こす健康被害

 PFASの有害性を大きく決定づけたのが、2023年のWHO(世界保健機構)の発表です。WHOの専門機関である国際がん研究機関(IARC)が、PFASに含まれるPFOAの発がん性分類を最も高い「発がん性がある」(Group1)に分類したのです。これは、喫煙やアスベストと同格の分類です。

 他にも、高コレステロール値や甲状腺疾患、免疫力の低下によって感染症にかかりやすくなる、といった健康リスクも報告されています。また、胎児に関しても、出生体重の低下や流産リスクの増加などが指摘されています。PFASの影響は発がん性だけでなく、様々な病気に及ぶ可能性があるのです。

水が危ない!どうすればいい?

 では、どうすれば有害性が指摘されているPFASから身を守れるのでしょうか。本書では複数の対策法が紹介されています。その中でも特に重要なのが、私たちが毎日飲んでいる水について知ることです。PFASは目に見えず、臭いもしません。そして水に溶けやすいので、PFASに汚染されているかどうか、よくわかりません。

 そこで、まずは自宅の飲料水の水質をチェックすることが重要です。個人で検査をするのは難しいので、住んでいる地域の市役所や役場などで水道水のPFAS濃度について確認してみる、あるいは公益社団法人「日本水道協会」が公開している水道水質データベースなどで確認するという方法を本書では伝えています。自治体によってはホームページで公表しているところもあります。

 もし水道水のPFAS濃度が基準値よりも高いという地域の場合、対策として提示されているのが浄水器を利用するという方法です。フィルターの活性炭が新しい状態であれば、9割以上のPFASを除去できるといわれています。本書では水以外にも、食品から取り込む場合の対策や、PFASが使われている製品かどうかの具体的なチェック方法についても書かれています。

PFAS問題に立ち上がった人たち

 本書の著者である原田浩二先生は、2002年から京都大学でPFASの研究に携わってきた研究者です。原田先生によれば、日本の政府や自治体のPFAS対策は、欧米に比べて遅れているといいます。そして、大切なのは、国や自治体の取り組みを待つだけではなく、市民が自分の身を守るために主体的に行動することだと指摘されています。

 本書では、行動する市民の活動と成果について、具体的に知ることもできます。例えば、東京の多摩地域では水道水に地下水を使っていましたが、場所によっては非常に高い濃度のPFASが検出されたため、地下水の使用を止めて河川水に切り替えたという経緯があります。そこで、地域の代表や医療機関などが中心となって2022年に「多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会」が立ち上げられました。

 この会は、都に対して浄水所での浄化装置の設置と、「住民の血液検査を都の責任で実施すること。自治体が独自に検査する場合は財政的支援を行って欲しい」という強い要望を出しています。他にも、病院や診療所と連携して、どこでも安心してPFASについての相談が受けられる環境づくりを進めています。

 他にも、PFAS汚染を3年間公表しなかった岐阜県各務原市に対して声を上げた市民団体や、町民の血液検査と水道料金の返還を勝ち取った岡山県の事例などが紹介されています。

 原田先生は「行政、企業によるPFAS汚染対策を推し進めるのは生活者の声」だと言います。「PFASを使うことは良くない」という市民の声が広がることが、社会を変えるための第一歩だということです。自分の身を守るために、そして安全な未来をつくるために、本書は今、必読の一冊です。

<参考文献>
『水が危ない!消えない化学物質「PFAS」から命を守る方法 身近に潜む危険な有機フッ素化合物』(原田浩二著、河出書房新社)
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309293981/

<参考サイト>
原田浩二先生の研究ページ
https://plaza.umin.ac.jp/khh/

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