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『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』を人生の武器に
子どもに「どうしたらお金持ちになれるの?」と訊かれたら、どう答えればいいのでしょうか。けっしてたやすく答えることのできる問いではないですが、これを経済の問題と捉えて、子どもでもわかるような平易な言葉で、噛み砕いて解説している本があります。それが今回紹介する『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?――人生という「リアルなゲーム」の攻略法』(橘玲著、筑摩書房)です。
著者の橘玲(たちばな・あきら)氏は、1956年生まれの文筆家です。早稲田大学第一文学部卒業後、2002年に国際金融小説『マネーロンダリング』でデビューしています。また同年、ビジネス書『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラーとなっています。2006年には小説『永遠の旅行者』(幻冬舎)で第19回山本周五郎賞の候補となっています。また『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)は2017年新書大賞を受賞しています。他の著書としては『「読まなくてもいい本」の読書案内』(ちくま文庫)、『テクノ・リバタリアン――世界を変える唯一の思想』(文春文庫)など、小説、評論、投資術などさまざまな分野で執筆活動を行っています。
筆者は5つの攻略法があると言います。「1、奪う」「2、働く」「3、借りる」「4、あきらめる」「5、交渉する」というものです。「1、奪う」はすぐに手に入りますが、取引においては反則です。「4、あきらめる」は現実でもよくありますが、それだと話が終わってしまうので、なんとかして手に入れる方法を考えたいものです。
「2、働く」であれば、「晩ごはんの後片づけをするから、おこづかい100円でどう?」と提案することができます(ただし、晩御飯まで待たなければなりませんが)。「3、借りる」は「返してくれるかどうかわからないから、イヤだよ」といわれるでしょうから、お金を借りるのであれば、ちゃんと返す約束をしなければなりません。よって、この二つを組み合わせると、「パパかママに100円借りてリンゴとミカンの両方を買う。晩御飯の後片づけをしておこづかいをもらい、それで100円を返す」という攻略法にたどりつきます。
「5、交渉する」方法は、同じことで困っている相手を探します。そして「どちらも少しずつあきらめる」という交渉をします。つまり「それぞれ買って半分ずつわけよう」という提案が考えられます。こうすることで自分の相手も得します。この時には「公平」が大事です。
このように、「トレードオフ」の状況を想定すると「どういう可能性があるのか」、また「現実的な方法は何なのか」ということを一から考えることができます。
確率のあるゲームを繰り返したとき、最終的(理論的)にはいくらになるかを「期待値」といいます。ちなみにこのゲームの場合、10回サイコロを投げてみると、合計(サム)はゼロになります。つまり、期待値は「ゼロ」です。統計学では「儲かったり損をしたりすること」を「リスク」といい、期待値のことを「リターン」と言います。
私たちは、リスクを嫌い、因果関係を好みます。因果関係とは、例えば「スイッチを押すと電気がつく」といったように因果がはっきりしていることです。因果関係を好むのは安心できるからです。実は「確率的な出来事は、統計的には結果がわかる因果関係」なのです。つまり、期待値がわかれば、そのギャンブルが儲かるかどうかははじめからわかっているわけです。
期待値がゼロのゲームを「ゼロサムゲーム」と呼びます。ここでは誰かが勝てば誰かが負けます。ただし、勝者と敗者が釣り合っているので、ある意味で公平です。これに対して、たとえば1の目が出ると100円払い、6の目がでると130円もらえるゲームであれば、期待値がプラス5円となります。つまり、続けるとお金は増えます。一方、勝ったときに100円もらえて、負けた時に130円払うゲームがあった場合、期待値はマイナス5円のマイナスサムゲームとなります。この場合、お金はどんどん減っていきます。
現実のギャンブルにはプラスサムのゲームはありません。もしカジノでそうしたゲームがあったとしたら、そのカジノはあっという間に潰れます。でもカジノに行く人はいます。つまり、プレイヤーは最終的には損をするとわかっていても、手数料を払って「ドキドキ感」を楽しんでいる、ともいえるでしょう。
このように、期待値のことを知っていれば、現実での不確実性を減らすことができます。
また、次に大事なのは「リスクに対してできるだけ保険をかけておくこと」です。その上で、橘氏は主観的でかまわないから、リスクに対してもっともリターンが大きそうなものにチャレンジしてみることを提案します。ゴール(目的地)に到達するためには、ダメだったらやり直すことを繰り返していくということなのです。
本書のあとがきには、「人間は合理的ではないからこそ、合理性が大きな武器になる」と示されています。これは、冒頭で取り上げた本書の問い「どうしたらお金持ちになれるの?」に対する答えにつながる言葉なのです。ただし、本書は単にお金持ちになるためだけに学ぶ本ではありません。不確実な人生をより充実させて生きるための、いわば武器ともいえるヒントが詰まっています。その意味で、未来に無限の可能性のある子どもにとっては、とても意義深い本だと言えます。ぜひ親子で学んでみてはいかがでしょう。
著者の橘玲(たちばな・あきら)氏は、1956年生まれの文筆家です。早稲田大学第一文学部卒業後、2002年に国際金融小説『マネーロンダリング』でデビューしています。また同年、ビジネス書『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラーとなっています。2006年には小説『永遠の旅行者』(幻冬舎)で第19回山本周五郎賞の候補となっています。また『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)は2017年新書大賞を受賞しています。他の著書としては『「読まなくてもいい本」の読書案内』(ちくま文庫)、『テクノ・リバタリアン――世界を変える唯一の思想』(文春文庫)など、小説、評論、投資術などさまざまな分野で執筆活動を行っています。
「トレードオフ」の仕組みを理解する
さて、本書のはじめにあるステージ1では「トレードオフ」について示されています。ここでのお題は以下の通りです。テーブルの上にリンゴとミカンを一つずつ置きます。2人のプレイヤーはそれぞれ100円玉を1つ持っています。リンゴとミカンの値段はどちらも100円。2つとも欲しいときは、どうすればいいでしょうか。筆者は5つの攻略法があると言います。「1、奪う」「2、働く」「3、借りる」「4、あきらめる」「5、交渉する」というものです。「1、奪う」はすぐに手に入りますが、取引においては反則です。「4、あきらめる」は現実でもよくありますが、それだと話が終わってしまうので、なんとかして手に入れる方法を考えたいものです。
「2、働く」であれば、「晩ごはんの後片づけをするから、おこづかい100円でどう?」と提案することができます(ただし、晩御飯まで待たなければなりませんが)。「3、借りる」は「返してくれるかどうかわからないから、イヤだよ」といわれるでしょうから、お金を借りるのであれば、ちゃんと返す約束をしなければなりません。よって、この二つを組み合わせると、「パパかママに100円借りてリンゴとミカンの両方を買う。晩御飯の後片づけをしておこづかいをもらい、それで100円を返す」という攻略法にたどりつきます。
「5、交渉する」方法は、同じことで困っている相手を探します。そして「どちらも少しずつあきらめる」という交渉をします。つまり「それぞれ買って半分ずつわけよう」という提案が考えられます。こうすることで自分の相手も得します。この時には「公平」が大事です。
このように、「トレードオフ」の状況を想定すると「どういう可能性があるのか」、また「現実的な方法は何なのか」ということを一から考えることができます。
ギャンブルとゼロサムゲームの仕組みを理解する
ステージ4では確率的な出来事をどう理解するか、という点について考えます。お題は次のとおり。サイコロを振って、6の目が出ると100円もらえ、1の目が出ると100円失います。2、3、4、5の目が出た場合は何ももらえません。このゲームを10回やってどうなるか調べてみましょう。確率のあるゲームを繰り返したとき、最終的(理論的)にはいくらになるかを「期待値」といいます。ちなみにこのゲームの場合、10回サイコロを投げてみると、合計(サム)はゼロになります。つまり、期待値は「ゼロ」です。統計学では「儲かったり損をしたりすること」を「リスク」といい、期待値のことを「リターン」と言います。
私たちは、リスクを嫌い、因果関係を好みます。因果関係とは、例えば「スイッチを押すと電気がつく」といったように因果がはっきりしていることです。因果関係を好むのは安心できるからです。実は「確率的な出来事は、統計的には結果がわかる因果関係」なのです。つまり、期待値がわかれば、そのギャンブルが儲かるかどうかははじめからわかっているわけです。
期待値がゼロのゲームを「ゼロサムゲーム」と呼びます。ここでは誰かが勝てば誰かが負けます。ただし、勝者と敗者が釣り合っているので、ある意味で公平です。これに対して、たとえば1の目が出ると100円払い、6の目がでると130円もらえるゲームであれば、期待値がプラス5円となります。つまり、続けるとお金は増えます。一方、勝ったときに100円もらえて、負けた時に130円払うゲームがあった場合、期待値はマイナス5円のマイナスサムゲームとなります。この場合、お金はどんどん減っていきます。
現実のギャンブルにはプラスサムのゲームはありません。もしカジノでそうしたゲームがあったとしたら、そのカジノはあっという間に潰れます。でもカジノに行く人はいます。つまり、プレイヤーは最終的には損をするとわかっていても、手数料を払って「ドキドキ感」を楽しんでいる、ともいえるでしょう。
このように、期待値のことを知っていれば、現実での不確実性を減らすことができます。
「人間は合理的ではないからこそ、合理性が大きな武器になる」
橘氏は合理性の重要性を説きながらも、人生には確実なことなど一つもなく、生きている間ずっとギャンブルを繰り返しているようなものであるとも言います。だからこそ、まず大事なのは「絶対に成功する」とか「失敗するに決まっている」と決めつけないことだと述べています。「絶対に成功する」と考えていれば、失敗したときにゲームオーバーです。「失敗するに決まっている」と思って何もしないなら、生きている意味がわからなくなるかもしれません。また、次に大事なのは「リスクに対してできるだけ保険をかけておくこと」です。その上で、橘氏は主観的でかまわないから、リスクに対してもっともリターンが大きそうなものにチャレンジしてみることを提案します。ゴール(目的地)に到達するためには、ダメだったらやり直すことを繰り返していくということなのです。
本書のあとがきには、「人間は合理的ではないからこそ、合理性が大きな武器になる」と示されています。これは、冒頭で取り上げた本書の問い「どうしたらお金持ちになれるの?」に対する答えにつながる言葉なのです。ただし、本書は単にお金持ちになるためだけに学ぶ本ではありません。不確実な人生をより充実させて生きるための、いわば武器ともいえるヒントが詰まっています。その意味で、未来に無限の可能性のある子どもにとっては、とても意義深い本だと言えます。ぜひ親子で学んでみてはいかがでしょう。
<参考文献>
『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの? ――人生という「リアルなゲーム」の攻略法』(橘玲著、筑摩書房)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480816955/
<参考サイト>
橘玲氏のX(旧Twitter)
https://x.com/ak_tch
『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの? ――人生という「リアルなゲーム」の攻略法』(橘玲著、筑摩書房)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480816955/
<参考サイト>
橘玲氏のX(旧Twitter)
https://x.com/ak_tch
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