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DATE/ 2025.02.28

『すごすぎる天気の図鑑 防災の超図鑑』で一緒に防災を学ぼう

台風や豪雨、大雪、地震などといった自然災害はたびたび発生します。さらに昨今は地球温暖化により、その脅威は増しています。大事なことは「防災」について学んでおくことです。ただし、誰でも理解できるように伝えることは簡単なことではありません。ましてや子どもに伝える場合はいわずもがな、です。こんなときに役立つ書籍が今回紹介する『すごすぎる天気の図鑑 防災の超図鑑』(荒木健太郎著、KADOKAWA)です。本書は気象や災害について科学的にしっかりと解説していますが、漢字には全てルビ(ふりがな)が振られており、わかりやすい言葉で書かれています。

 著者の荒木健太郎氏は1984年茨城県出身の雲研究者。現在は気象庁気象研究所主任研究官です。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校を卒業、雲科学・気象学の専門家です。映画『天気の子』やドラマ『ブルーモーメント』で気象監修を行ったり、『情熱大陸』や『ドラえもん』などにも出演したりするなどメディアでも活躍しています。著書は本書をはじめ『すごすぎる天気の図鑑』シリーズ(KADOKAWA)や、『空となかよくなる天気の写真えほん』シリーズ(金の星社)など多数あります。

大雨や台風は前日から避難準備をしよう

 さて、大雨や台風は昼夜問わずいつでもやってきます。ただし、「梅雨の九州では明け方から朝に集中豪雨が発生しやすい」ことがわかっています。研究によると、梅雨の九州での明け方から朝の集中豪雨の発生頻度は過去47年間で7.5倍です。つまり、大雨が予想されるとき、高齢者や幼児など避難に時間がかかる家族がいる場合は、前日の明るいうちから避難する必要があることがわかります。

 また、最近では「スーパー台風」もよく聞かれるようになりました。これは最大風速が毎秒67m以上の台風です。台風は温かい海上で発達した積乱雲が集まった熱帯低気圧で、最大風速が毎秒17.2m以上のものをさしています。強さには階級があり、「スーパー台風」とは米軍合同台風警報センターが決めたいちばん強いレベルです。

 気象用語では、風速が毎秒20m以上だと「非常に強い風」と呼ばれます。毎秒30m以上になると「猛烈な風」となりトラックが横転します。毎秒40m以上になると家屋が倒壊することも。猛烈な台風では中心付近の最大風速が毎秒85mになることもあり、これは時速306kmです。新幹線の最高速度と同じくらいの速さで、電柱や街灯も倒れる危険な暴風です。

 日本は上空の風の流れ(偏西風)によって、台風の通り道になっています。地球温暖化が進むと、台風の発生割合は増え、加えて日本付近を通る台風の移動が遅くなります。つまり、この研究結果は「より強い台風の影響が、長期化する可能性がある」ということを意味しています。まだ風が強くなっていないとき、周囲が明るいうちに避難することが大事なのです。

「緊急地震速報」が出たら慌てずに身の安全を確保しよう

 また、季節を問わずいつでも起こるリスクがあるのが地震です。日本では揺れを感じる地震が年間1000回から2000回程度起こっています。地球の表面を覆う巨大な岩盤を「プレート」と呼びます。このプレートは地球上に十数枚あり、年間数センチ程度の速さで動いています。このプレートが限界を超え、プレートそのものやその内部が急激にずれることで地震が起きます。

 日本付近では4つのプレートがぶつかり合っています。地震の規模はマグニチュード(M)で表されますが、南海トラフ地震といわれる大きな地震が起こった場合、マグニチュードは8~9級になるとされています。これにより、静岡から宮崎にかけて震度7となる可能性があったり、太平洋沿岸の広範囲で10mを超える大津波が起こったりすると想定されています。

 地震が発生すると「緊急地震速報」が発表されます。地震には早く伝わる地震波のP波と、その後にやってくる揺れの強いS波があります。「緊急地震速報」は震源近くでP波を検知した地震計のデータから震源や地震の規模、揺れの強さを瞬時に計算して発表される仕組みです。緊急地震速報が出たら、まずは慌てずに身の安全を確保することが大事です。場所ごとの対策は以下の通りです。

 屋内にいたら、物が落ちたり倒れてきたりしない場所に身を隠して頭を守ります。屋外では、割れたガラスの落下やブロック塀などの転倒に注意して安全な場所にいて、ひび割れた建物や切れた電線など危険な場所からは離れます。地下には60mごとに非常口があるので、壁伝いに移動して避難できます。ただし人混みは要注意です。人が折り重なって倒れる「群衆雪崩」のリスクがあるので、それを避けることです。

 もしエレベーターに乗っていたら、行き先ボタンをすべて押し、止まった階で降ります。車の運転中だった場合、ゆっくり減速し安全な場所に停車します。その上でハザードランプをつけます。また、万が一建物内に閉じ込められてしまったら、スマホで音を出したり、硬いものでドアや壁を叩いたりして自分がいることを知らせます。

災害に対するあらゆる情報が得られる本書を親子で読んでみよう

 本書ではこのほかにも、土砂災害、猛暑、川遊び、海のレジャー、大雪・暴風雪、津波、火山噴火といった自然災害について、それが起こる仕組みや状況が掲載されています。これに加えて、日頃の備えをどうすればよいのか、何に気をつければよいのか、それぞれの災害ごとにわかりやすく明確に示されています。さらに災害支援でやってよいこととよくないこと、生活の再建はどのように進めればいいのかといったことなど、かなり広範囲にわたり項目ごとに解説されています。

 また、Amazonで本書を購入すると「防災に役立つSOSカードとマイ・タイムラインシート データ配信」を特典でダウンロードできます。事前に記入して災害時の行動計画を家族でチェックできるものです。これをもとに、親子で事前に自然災害をシミュレーションしながら行動を確認できます。

 余談ですが、著者の荒木氏がYouTubeで空や雲に関する科学について楽しく解説されています。本書を手元に置いて、動画での解説を見ると、より理解が深まるはずです。

 ということで、自然災害の仕組みから事前事後の対策まで網羅されている本書を一度、親子で読んでみてはいかがでしょう。

<参考文献>
『すごすぎる天気の図鑑 防災の超図鑑』(荒木健太郎著、KADOKAWA)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322409001291/
https://www.amazon.co.jp/dp/4046073454/

<参考サイト>
荒木健太郎氏のX(旧Twitter)
https://x.com/arakencloud

気象庁気象研究所:台風・災害気象研究部 第二研究室 荒木健太郎氏のページ
https://www.mri-jma.go.jp/Dep/typ/araki/
荒木健太郎氏の雲研究室
https://www.youtube.com/channel/UC7GOwtqouatRwQ1by5HzL9g

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