テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.05.22

急増する「前立腺がん」を予防する食べ物とは?

 今、日本で最も増えている「前立腺がん」。それはなぜなのか、そして、予防するにはどうしたらよいのでしょうか?

 前立腺がんの治療・予防の最前線について、順天堂大学医学部大学院医学研究科教授・泌尿器科医の堀江重郎先生が「10MTVオピニオン」の中で解説されていますので、その話をみていきましょう。

前立腺の働きとは?

 前立腺といっても男性にしかない器官なので、特に女性にはいまいちどんな働きをしているのかがわからないところですが、前立腺の大きな働きは二つあります。一つは尿を切ることです。男性においても日常生活において前立腺の存在は感じにくいものですが、尿の最後を振り切るとき、前立腺がきゅっと収縮します。これは前立腺が尿を最後に出し切るために働いているため。

 もう一つは免疫器官としての働きです。人間に限らず哺乳類のオスは、尿を出すところと精液を出すところが最終的に一緒になっています。この尿を出すところにバイ菌が入ってきた場合、精巣までの侵入を防いでくれるのです。

脂肪摂取量が多いと、前立腺がんのリスクが高まる

 前立腺がんは、現在、先進国のどの国でも男性がかかるがんの中でナンバーワン。日本でも最も増えているがんです。その一番のリスクとなるものは何でしょう?

 じつは、一番のリスクとなるのは「脂肪」です。脂肪摂取量が多いと前立腺がんの危険が高まります。堀江先生によると、前立腺がんで亡くなる方は、残念ながら今後15年ぐらいで2倍~3倍に増えると言われているそうです。アメリカでは現在、約6人に1人が前立腺がんになり、がんで亡くなる人のおよそ10人に1人が前立腺がん。男性にとっては脅威の病気といえます。

 一方、日本やアジアの国々では、これまで欧米に比べて前立腺がんが少ない状況でした。それが、なぜこれほど増えてしまっているのでしょうか。その主な理由は「食生活」にあると言われています。堀江先生はこう説明しています。

 “例えば、ハワイの日系2世の方々は、ちょうどアメリカ本土と日本の前立腺がんの発生率の中間くらいだということがわかってきています。彼らはDNAとしては日本人ですが、食生活は欧米風です。前立腺がんはまず食生活が非常に大事なのです”

 そして、なかでも注目すべきは脂肪の摂取量とのこと。

 “前立腺がんの一番のリスクとして従来から知られているのが、脂肪です。過去60年間で日本人に最も増えている脂肪の摂取量。1970年代から80年代にかけて、日本人の食生活のカロリーはぐんと増えましたが、実は最近、摂取カロリーそのものはどんどん減っています。しかし非常に興味深いことに、糖尿病はうなぎのぼりに増えているのです。この現象に脂肪の摂取量が大きく影響していると言われています。同じように、前立腺がんや乳がんの増加にも脂肪の摂取が大きく関係しているのです”

 特に脂肪の中でも動物性の脂肪、つまり脂肪を含んだ肉、油で調理した料理、脂肪分が調整されていない牛乳などが特に前立腺がんの危険を高めるそうです。

大豆には前立腺がんの発症を抑制する効果がある

 そうなると、前立腺がんにならないためには、いったいどのような食生活に変えればよいのでしょうか。堀江先生はこうお話しされています。

 “アジアの国々でこれまで前立腺がんが少なかった理由の一つと考えられているのが、大豆です。欧米では、大豆が食生活に登場してくることは極めてまれですが、われわれアジア人は大豆から多くのたんぱく質を摂取してきました。大豆には、前立腺がんの発症を抑制する効果が認められています。同様に、われわれはカレーのスパイスに含まれているクルクミンという機能因子も前立腺がんを抑えることを突き止めています。また、わさびなどにも抑制効果があることがわかってきています。アジアの食生活には、この病気を抑える作用があるのです”

 ということは、予防をするためには大豆を食べることが大きなポイントといえそうです。豆腐、納豆など、われわれ日本人が古来から食べ続けてきた身近な食材、大豆がこんな働きをしてくれていたとは驚きです。あらためて大豆の持つパワーを見直して、日々の食生活に取り込んでいきたいものです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係

「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係

会計検査から見えてくる日本政治の実態(2)病床確保と補助金の現実

コロナ禍において一つの大きな課題となっていたのが、感染者のための病床確保だ。そのための補助金がコロナ患者の受け入れ病院に支給されていたが、はたしてその額や運用は適正だったのか。事後的な分析で明らかになるその実態...
収録日:2025/04/14
追加日:2025/07/18
田中弥生
東京大学客員教授
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のうの病気~続・がんと治療の基礎知識(1)胆のうの役割と胆石治療

消化にとって重要な臓器「胆のう」。この胆のうにはどのような仕組みがあり、どのような病気になる可能性があるのだろうか。その機能、役割についてあまり知る機会のない胆のう。「サイレントストーン」とも呼ばれる、見つけづ...
収録日:2024/07/19
追加日:2025/07/14
糸井隆夫
東京医科大学病院 消化器内科 主任教授
4

3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由

3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由

政治学講座~選挙をどう見るべきか(5)政権交代と民主党

民主党は、2009年の衆議院選挙で過半数の議席を獲得し、政権交代に成功した。しかし、その後の政権運営に失敗してしまった。その理由についてはいまだ十分な反省が行われていないという。ではなぜ民主党は失敗してしまったのか...
収録日:2019/08/23
追加日:2020/02/12
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
5

印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は

印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は

作風と評論からみた印象派の画期性と発展(2)モネ《印象、日の出》の価値

第1回印象派展で話題となっていたセザンヌ。そのセザンヌと双璧をなすインパクトを与えた作品があった。それがモネの《印象、日の出》である。印象派の発展において重要な役割を果たした本作品をめぐる歴史的議論や当時の市況を...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/07/17
安井裕雄
三菱一号館美術館 上席学芸員