社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.08.29

お金持ちは長生きする?「年収と寿命」の関係

 人生は不公平。とはいえ「お金持ちほど長生きする」といわれると、ちょっとムズムズしてきます。そこで、平均寿命と年収の間には確かな関係があるのかどうか、調べてみました。

悲報?朗報?「お金持ちほど長生き」の風評は真実

 “裕福になればなるほど長生きできる”―このショッキングな研究成果が「ウォールストリート・ジャーナル」に掲載されたのは2014年の4月でした。ブルッキングス研究所のエコノミスト、バリー・ボスワース氏の分析結果を報道したもので、同氏はミシガン大学による研究データを分析。2万6000人の米国人を対象に、加齢に伴う健康と仕事の変化を追跡しました。

 その結果、例えば1940年生まれの55歳男性を比較すると、「上から1割の裕福層」が34.9年の余命を持つのに比べ、「下から1割の貧困層」は24.2年の余命しか持たないことが分かったのです。これは1920年生まれの場合が29.0年と22.6年の差であったことと比べると、明らかな格差拡大です。

 女性でもほぼ同様の傾向が見られ、1940年生まれの55歳女性の場合、「上から1割の裕福層」は35.3年、「下から1割の貧困層」は25.8年という結果が出ています。さらに、男性ではどの階層でも1920年生まれより1940年生まれの余命が長かったのですが、女性では所得下位40パーセントのところで逆転が起こっています。

日本にも「お金持ち長生き説」は当てはまるのか?

 一億総中流のはずだった日本にも「格差社会」の波が到来して長いですが、同様の研究は平成21年~25年にスタートしています。その成果は「日本の『健康社会格差』の実態を知ろう」のレポートにまとめられているので、ぜひ一読をおすすめします。

 結論からいえば、「教育年数が短い人は、教育年数が長い人より、死亡リスクが約1.5倍高く、所得が少ない人は、所得が多い人より、死亡リスクが2倍近く高い」のが現実だということです。

「健康格差」は、まず食生活から生まれる

 同レポートの中には、男女それぞれ約11000人のデータを「家計支出額」の多寡により4つの階層に分けた分析があります。

 それによると、家計支出が多いほど、総エネルギー、脂質、タンパク質、炭水化物、カルシウム、ビタミン、食物繊維などを多くとっていることがわかりました。さらに、多くの栄養素で、家計支出が多いほど、厚労省による「日本人の食事摂取基準」の推奨量をとっている人の割合も高くなっています。一言でいうと、「家計支出が少ないほど栄養摂取状態が悪い」ことがわかったのです。

 食生活による健康への影響は女性のほうが明らかなようです。家計支出が少ない女性ほど、心臓病や脳卒中などの循環器疾患のリスク要因である肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの割合が高いからです。

所得が少ないと健康状態が悪くなる4つの理由

 まず、収入が少ないと健康維持に必要なモノやサービスを十分に購入できず、医療へのアクセスにも格差があるという「物質的な制限」が理由に挙げられます。

 健康診断一つとっても、所得の少ない人では受診控えが多く、パート、アルバイト、自営業者などでは健診の受診率が低くなっています。さらに国民皆保険制度の下にありながら、現実には約160万人の無保険者がいることも推計されています。

 次の理由は、おなじみの「ストレス」です。仕事上のストレスもありますが、他人と比べて自分は豊かではないと感じる「相対的剥奪感」によるストレスも大きな比率を占めます。

たとえば、自分の年収は500万円で、周囲の人の年収は300万円だとします。もし、これが逆に自分の年収が300万円で、周囲の人の年収が500万円だとしたら、どうでしょう。「他人と比べて自分は豊かではない」という劣等感が、現実に健康をむしばむ可能性を指摘したものです。

 三つ目は「人間関係」です。人間関係のネットワークが小さいと、他者からのサポートが少なくなるなどの要因で、健康状態は悪くなるのです。日本の高齢者約13000人を4年間追跡して「友達との交流が少ない人は死亡リスクが高い」と指摘したのは、本研究の成果でしょう。

 最後に「生活習慣」の問題があります。社会階層が高い人ほど、健康に良い行動をとることがわかっていて、学歴や所得が高いほど運動習慣を持っています。さらに食品摂取については、学歴の高さがバランスの良さとつながっていることがわかりました。逆に社会階層が低い人では喫煙率が高く、運動習慣が少ないなど、健康に悪い生活習慣が多いのです。

 これが、21世紀の世界の現実。さて、どう立ち向かうべきでしょうか。

<参考サイト>
・「日本の「健康社会格差」の実態を知ろう」レポート
http://mental.m.u-tokyo.ac.jp/sdh/pdf/messagetopeople.pdf#search='健康格差'
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景

チベット、内モンゴル、新疆ウイグルなど、少数民族に対する深刻な人権侵害をめぐって欧米諸国から強い批判を浴びている中国。しかし、こうした人権問題は今に始まったことではない。中華人民共和国建国の経緯と中国共産党の思...
収録日:2021/10/15
追加日:2021/12/24
橋爪大三郎
社会学者 東京科学大学名誉教授 大学院大学至善館教授
2

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義

プロジェクトマネジメントが世界的に普及し始めたのは1990年代。ソフトウェア産業の発展とともに拡大を続け、時代のニーズを受けて多くのシーンに定着してきた。今回は、その基本に立ち返り、国際標準をもとに、プロジェクトと...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/03
大塚有希子
法政大学専門職大学院イノベーションマネジメント研究科准教授
3

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
4

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害

高度成長のために頑張った日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の評価を得たが、その後の日本企業の凋落、競争力の低下を考えると、その弊害を感じずにはおられない。読書人口が減っている現状をみると、いつのまにか「世界...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/12/01
5

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために

歴史上の出来事の本質を知るには、その真贋を見定めなければいけない。そのためにはどうすればいいのか。記述の異なる複数の本がある場合、いかにして真実を見極めるか。また、司馬遼太郎の作品が「歴史事実」として認識されて...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/12/02