社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.09.21

AI・人工知能は人間を超えるのか?

 人工知能、いわゆるAIがブームになっています。ブームというよりは産業バブルといってもよいかもしれません。ベンチャーから大企業まで、それぞれの熱い取り組みを支えているのは、AI・人工知能技術が、未来に向けての大きな金脈としての魅力に他ならないからでしょう。ニュースなどマスコミが取り上げることでの相乗効果もあり、一般的な関心も高まりつつあるなか、AI・人工知能の実力や効用への理解は大丈夫でしょうか?

期待と妄想

 AI・人工知能への一般的な理解は、対話型のロボット、車の自動運転の実用化、世間を騒がせた囲碁や将棋ソフトが人間に勝利するといった技術革新などの情報を重ねたイメージになるのではないかと思います。

 期待と妄想は、AI・人工知能が、この開発ロードマップにおいて、あらゆる難問を解決し、どんな目的でも達成する「人間のような知能」を持つ存在になりうるのではないかというところにあります。

 「完全な人工知能を開発できたら、それは人類の終焉を意味するかもしれない」という理論物理学者ホーキング博士のコメント、AI・人工知能の進化によって近未来に仕事がなくなるというシンギュラリティ予測がまことしやかに語られるなか、このような期待と妄想は膨らみます。

 しかし、「ルンバ」のようなお掃除ロボットや、世界トップレベルのプロ棋士に勝利した「アルファ碁(AlphaGo)」にしても、特定の目的のために作られたAI・人工知能です。いってしまえば、設定された目的以外には何の効用も期待することはできません。

AI・人工知能の真実

 実際、あらゆる難問を解決し、どんな目的でも達成する「人間のような知能」をもつ、SFやロボットアニメに登場するようなAI・人工知能は、「汎用人工知能/AGI」として、現在実用化されている「専用人工知能」と明確に分けて考えられています。

 研究者の間で「専用人工知能」は「弱いAI」として位置づけられ、人間の特定分野の知能を受け持つところから「IA/Inteligence Amplifier」と呼ばれています。

 一方、「汎用人工知能/AGI」は「強いAI」と呼ばれ、実現の可能性を巡って議論が続いているのが実情です。

AI・人工知能の現実

 歴史的にみると現在のAI・人工知能のブームは三度めであり、この盛り上がりのきっかけは、クラウドに積層されたビッグデータからディープラーニング(深層学習)と呼ばれるパターン処理技術の成果によってもたらされました。これらのモデルは人間の脳を構成する神経細胞にあります。

 これまでのパターン認識は、人間が設定した特徴をAIプログラムがマッチングするという答え合わせだったのに対して、ディープラーニングにおいてはAIプログラムが自動的に対象の特徴を抽出し自動学習していくという「自己符号化」の技術になります。

 自動学習はパターン認識を自動的に学習していくというレベルで、人間の知的活動に近しくはありますが、かなり限定的です。グーグルの「猫認識」がディープラーニングの成果として特に有名ですが、猫画像に反応するニューロンが自動形成されたということで、
人間が感じる「猫」の存在そのものの概念形成に至っているわけではありません。

 自動学習と成長のイメージが、人間に至るプロセスにつながりそうなところに誤解のタネがありそうです。AI・人工知能の進化は、人類の生物学的進化に追いつくことができるのか、その疑問と解決は、そう簡単には済まないようです。

 いまできることは、近未来の動向探るためにディープラーニングによる特定の領域での成果をウォッチしつつ、AI・人工知能の進化と革新への理解度を高めていくことになりそうです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化

浮世絵を中心に日本画においてさまざまな絵画表現の礎を築いた葛飾北斎。『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」が特に有名だが、それを描いた70代に至るまでの変遷が実に興味深い。北斎とその娘・応為の作品そして彼らの生涯を深...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/05
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家
2

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
3

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害

高度成長のために頑張った日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の評価を得たが、その後の日本企業の凋落、競争力の低下を考えると、その弊害を感じずにはおられない。読書人口が減っている現状をみると、いつのまにか「世界...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/12/01
4

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本

「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14