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DATE/ 2017.03.09

人の集中力の限界は起きてから〇時間!

 みなさんは、1日に睡眠時間をどれくらいとっていますか?人が1日に必要とする睡眠時間の平均は8時間とされていますが、それよりも短いという人も多いのではないでしょうか。なかには「昨日は十分寝たから、今日は徹夜もいけるぞ!」なんて、がんばってしまう人もいるかもしれません。

 しかし、その「今日はいけるぞ」の裏には、意外な睡眠の落とし穴があるのです。

酒気帯び状態とイコールになる、起床後15時間

「睡眠不足が作業効率を落とさせる」というのは有名な話ですが、一方で「そうなるのは慢性的な睡眠不足の時だけ」と思う方も多いと思います。しかし、2014年に厚生労働省が出した「健康づくりのための睡眠指針」には、こんな研究成果が記載されています。

 健康な成人を対象として「人間が十分に覚醒して作業を行うことが可能なのは起床後何時間までか」という調査をした結果、きちんと効率よく仕事ができる限界は、せいぜい12~13時間。15時間を過ぎると、なんと酒気帯び状態と変わらないというのです。

 深夜にかけて、気分が妙に楽しくなったり明るくなったり、まるでお酒を飲んだような状態を「深夜のテンション」や「ナチュラルハイ」などということがありますが、起床後15時間という時間経過を考えると、脳は実際にお酒を飲んだような状態になるということなのですね。

 飲酒運転が禁止されているのは、アルコールによって注意力が散漫になり、大きな事故に繋がりかねないからです。ということは、起床後15時間の状態は、いくら自分は元気だと思っていても、知らず知らずのうちにヒューマンエラーや事故を起こしてしまう可能性が高くなるともいえます。

眠らない国、日本に足りない「睡眠教育」

 2014年に経済協力開発機構(OECD)が世界29か国を対象に15~64歳の国民平均睡眠時間を調べた調査結果では、アメリカの8時間36分、中国の9時間2分に対して、日本は最下位の韓国に次いで28位。平均睡眠時間は7時間43分というものでした。

 このデータを見ると、日本は「睡眠をとる」ということをおざなりにしがちな国だといえるのではないでしょうか。見方を変えると、例えばコーヒーを飲んでカフェインをとったり、あるいは運動をしたりして眠気を抑えるなど、いかに自分を眠らせないかという術に長けているといえるのかもしれません。

 日本人がなぜ眠らないかということに、「スマホの普及」や「仕事の忙しさ」、「勤勉さ」などが理由としてあげられますが、大きな要因のひとつとして「睡眠教育」の不足という点があります。

「睡眠教育」という言葉に「?」が浮かんだ方も多いですよね。睡眠が体にどんな効果をもたらすのか、どう大切なのかということを教えることが「睡眠教育」です。実は、海外ではメジャーな教育で、子どもから大人まで、この「睡眠教育」を受けている人が多く、睡眠を確保することに対して、日本とは教育段階で大きく意識が違うといわれています。

睡眠不足が経済におよぼす損失は3兆円以上!

 2006年に日本大学医学部の内山真教授が発表された試算結果によると、睡眠不足や眠気による作業効率の低下、それに伴うさまざまなトラブルなどで、3兆4,693億円もの損失があるといわれています。

 睡眠不足を自覚していれば、「寝よう」という意思もでてきますが、判断能力が低下しているにもかかわらず、眠気を自覚していないということもあります。知らず知らずのうちに効率は下がり、トータルで見たとき、仕事の遅れが目立ち、大きなミスをしてしまうということもあるのです。

 一昔前、受験の格言に「四当五落」というものがありました。4時間睡眠で勉強に勤しんだ者は受かり、5時間睡眠を取った者は落ちるというものです。実際のところはよくわかりませんが、日本には、目的のため、成果のために睡眠時間をけずるという習慣が今もまだ色濃く残っていると感じます。そんな状況ですから、日本で長時間睡眠が美徳となるにはまだまだ時間がかかるかもしれませんが、それぞれが適切な睡眠と休みをとるなどして、少しずつでも睡眠との付き合い方を変えていけるといいですね。

<参考サイト>
厚生労働省健康局:健康づくりのための睡眠指針2014
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授