●上に立つ者は、何事にも定見を持たなければならない
第12条に入ります。
「大臣たるもの、胸中に定見ありて、見込たる事を貫き通すべき元より也。然れども又虚懐公平にして人言を采り、沛然と一時に転化すべき事もあり。此の虚懐転化なきは、我意之弊を免れがたし。能々思察あるべし。」
上に立つ者の心得としては、問われるまでもなく「胸中に定見」、自分の意見や見識がまずなければいけない。上に行けば行くほど、何かの折に話す機会や意見を求められる機会が増えてきます。たとえ求められていなくても、一つ一つのことについて自分の意見というものを定めておく必要があります。
ですから、万般に対する日頃の勉強がいかに重要かということになります。国際情勢についてしかり、景気の件についてしかり。勉強を重ねた末に「自分はこう思う」という見識を持つことが重要なのです。
「見込たる事を貫き通すべきは元より也」。「見込みたる」というのは、計画や目標に当たります、それを貫き通すべきであるのはもう元よりであって、当たり前のことだと言っています。
●私心を廃せば、採るべき意見が入り、物事が動く
「然れども又虚懐公平にして」。これは、別の言葉でいえば「虚心坦懐」ということです。胸の中に私欲などといったものは全くないような状態にしておく。そうすると空っぽですから、人の言った良いことがストレートに入ってきて、悪いものはパッと去るようになっています。
したがって「人言を采り」ができてくる。「そうだな。この人の言う通りだな」と耳を傾け、「自分は別の指示を出したけれど、ここは彼の言う通り、こっちを取ろう」と言えるわけです。
そうすると、「沛然と一時に転化すべき事もあり」。「沛然」は豪雨がすさまじく降る様子を指します。そのような状況から一瞬にしてさっと大雨が上がることもあると言っているのです。そのように、「そうだ。こちらの方が正しい」と思ったら、体裁などは構わずに「申し訳ないけれど、先ほどの指示は間違っていた。こちらの方がいい。これを採用しよう」と転化して、瞬時に変えるぐらいの力量がなければ駄目だと言っています。
「此虚懐転化なき」は、どうなるか。虚心坦懐になって、全く私欲のない心になっているからこそ、人の意見が身に染みるわけで、時を得た人の意見に出会ってもパッと変えられないのは「...