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部下にノリノリで仕事をさせる、一斎流リーダーシップ

重職心得箇条~管理職は何をなすべきか(6)部下を使う要点

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
「大臣の心得」の前半はトップに立つものの心がけだったが、後半は一気にビジネスの現場に寄ってくる。組織の成績を左右することもある「上司と部下」の関係がテーマなのだ。多くの経営者や政治家を育ててきた東洋思想研究者・田口佳史氏の解説で、幕末の名著が身についてくる。(全15話中第6話)
時間:10:42
収録日:2015/12/22
追加日:2016/05/09
≪全文≫

●部下の意見に不足を感じたときの上司の対処法


 「もし有司の了簡より一層能き了簡有りとも、さして害なき事は、有司の議を用ひるにしかず。」

 「もし有司の了簡より」は、目の前の案件に対する腹案が自分にあって、これはこうやればいいのではないかと思いつつ、部下に「君たちはどうだい」と聞いてみる。「そこは、こうされては」と、出てきた答えがどうもいま一つよくなく、自分の方が「一層能き了簡」を持っていたなら、という話です。

 「さして害なき事」とは、自分の案よりは多少落ちるとはいえ、部下が考えてきたものを採用して実施しても、そう大した害や差はないと考えられ場合を指します。こういう時は、「有司の議を用ひるにしかず」ですから、自分の考えは引っ込め、部下の意見を「A君、君の考えはなかなかいいじゃないか」と取り入れて、「じゃあ、A君の案でいこうか」と言うのがよい。

 もし、そうできなければ、どうなるか。「こんな意見やアイデアしか出せないなんて、君たちは駄目だな。私はこう考えてきたよ。このぐらいの考えは持たなければ駄目じゃないか」という具合に解決する。部下は上司には従わなければいけないから、表面は「ははーっ」となっていますが、心の中では「なんてつまらない上司だろう」と思う。そういうふうになりかねない。

 こういうときは、その後の上司と部下の関係性も考えてみて、さほど害がないようなら、「君の意見でいこう。大いにやってくれ」と花を持たせてやる。「ただし、この部分が弱いから、もう少しこのようにした方がいいね」と、自分の意見も少し加えてやらせればいいわけです。「有司の議を用ひるにしかず」は、そういう文意です。


●職場のモチベーション向上は、上司の務め


 「有司を引立て、気乗り能き様に駆使する事、要務にて候。」

 部下を引き立てて、気乗りよくさせてやる。気乗りがいいかどうかは、その仕事に対する士気に関わります。ファイト満々、「大いにやります!」というのと、渋々やるというのでは、結果にも響きます。その意味が「気乗り能き様に駆使する」に込められている。

 部下というのは、「使われてなんぼ」ですから、上司が駆使できなければしようがない。部下も機嫌良くやってくれなければいけないので、「気乗り能きように駆使する事」は人使いのコツです。そういうことも、この人はよく知っているということですね。要務は要点ですから、これが部下を使う時の非常な要点なのだ、と教えてくれています。


●使える部下に育てるための、ミス活用法


 「又些少の過失に目つきて、人を容れ用ひる事ならねば、取るべき人は一人も之無き様になるべし。」

 「些少の過失」は、ちょっとした間違いのことです。そちらにばかり目が行って、「こんな間違いをしているようでは、抜擢などできない。君を使うことはできないよ」などと言って、部下を一人ひとり排除してしまうと、どうなるのか。「取るべき人は一人も之無き」つまり、「君、一つやってごらん」と採用できるような人は一人もいなくなるということです。

 ここで言われているのは、人間、ここ一番というときにうまく成功できる人は、そうそういないということです。

 プロ野球のバッターでも、バッターボックスへ入る前に2、3回素振りをしたり、「1、2球振らせてください」と言います。したがって、失敗や少々のミスはつきものである。多少のことは「素振りをしてるんだな」という程度に流し、「それで何を得たのか」を重視すべきだということです。

 もしもちょっとした失敗があったとすれば、「ああいう失敗はしちゃいかんよ。でも、君、これで何か得たことはあるかい」と聞いてみる。「こういうことを得ました」「おお、それはいいじゃないか。今度はそれを注意深くやるんだよ」と言っていけば、経験豊富な、年季の入った部下がどんどん育っていきます。そのようにしていくと、部下がどんどん使えるように育っていくのです。

 「功を以て過を補はしむる事可也。」

 多少の過ちがあっても、「この機会をもって、君、一つ名誉挽回でしっかりやってくれよ」と言ってやる。「過を補はしむる」は、チャンスを与えるということでしょうね。そういうことがまた重要なのです。


●優秀な人材ではなく、集団で秀でた技量に頼る


 「又賢才と云ふ程のものは無くても、其の藩だけの相応のものは有るべし。」

 組織の中に、特別に優秀な人、「これほど優秀な人はいないですね」と言われるほどの人がいなければ、その組織は駄目なのかというと、そんなことはないのだと言っています。

 そうではなくて、「其の藩だけの相応のもの」つまり組織に相応しいほどのものはある。一つのことに対して得意な人なら、ちゃんといる。計数でも外国事情でも、全国レベルでは歯が...
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